電化厨房システム特集:電化厨房、オール電化で快適空間 本山忠広氏

2004.04.14 284号 4面

◆市場◆ 多様化するエネルギー需要

●普及の経緯

平成8年に大阪堺市の学校給食で発生した腸管出血性病原性大腸菌O157の大量食中毒事故以来厨房の衛生環境の見直しが検討され、厚生労働省から「大量調理施設衛生管理マニュアル」の指導基準が交付された。この事故を契機として、学校給食の衛生管理も表面上は整備されつつある。

一方、こうした事故の教訓から電化厨房が作業環境改善の起爆剤として着目されその促進が進んできた。しかし、一方では、平成6~11年は、電気の需要が急速に高まりデマンドの発生によって需給が逼迫したため、電化厨房の促進には消極的な一面もあった。

その後平成12年以降は食品に関する不祥事や事故が相次ぎ、HACCPの導入が着目されるようになったことは周知の通りである。またこの時期電力の一部自由化が解禁されたことによって本格的なエネルギーの競争時代に突入したと考えられる。

そうした中、厨房分野でのエネルギー需要開拓に各エネルギー関連会社が営業力の強化をはかってきた。現在では、厨房のエネルギーは空調なども含めて総合的・経済的なメリットを追求するように変化しつつある。

●業務用厨房機器の熱源別市場シェア

業務用厨房機器のエネルギー別シェアは現状別表の通りガス機器の方が高い。その理由のひとつとして、ガス機器のイニシャルコストが電気機器に比べて割安なのが要因と推察される。

ところで、現在国内のフードサービス産業の売上げ規模はおよそ二七兆円であるが、そのうち比較的規模の小さい外食部門と料飲部門の売上げは約二三兆円で全体の八五%を占めている。こうした店舗の多くは投資環境が厳しいこともあり、電化厨房の導入が遅れていると推察される。

資料1は、電気機器とガス機器のシェアを出荷台数の比率で比較したものであるが、電気機器のシェアはおよそ二〇~二五%程度であり、前記の市場規模のデータと概ね一致している。

一方、資料2は、関東地区近郊業態別厨房設備エネルギー別市場を店舗数でまとめたものである。この結果、加熱機器はやはりガス機器の方がやや比率は高い。

一方、消費者の意識は電化厨房の利点が多いことの認識が高まりつつあり、実際に電化厨房を導入している企業も増えつつある。特に、大型の給食施設では、消費者のニーズが安全を優先する傾向から厨房環境に対するリスクが軽減される電化厨房の導入が進んでいるが、こうした事業所のイニシャルコストは割高となるため、導入件数は少ないと推定される。

一方、外食産業では、一般に経済性が最優先されるためイニシャルコストの割高な電化厨房の導入は遅れている。したがって、今後の電化厨房の普及にはこうした経済性の割安感の訴求がキーワードである。

◆メリット◆ 群抜く安全性

<特徴>

●その1 加熱調理中に燃焼を伴わないため安全性が高い。ドイツの某研究者によるデータでは、業務用厨房の加熱調理に伴うオイルミストや酸化物質および燃焼に伴う炭酸ガスなどによって、がんや病気にかかる作業者の割合は他の職場より多く発生し危険であると指摘している。

また、厨房の電化は室内全体の湿気を低く抑える効果がある。

●その2 電化厨房では臭気やオイルミストの沈下量の増加を招かない範囲で室内の換気量を絞り込むことが可能である。そのため、室内の空調や換気に必要な動力の低減を図ることが容易であり、省エネルギー効果が高いといえる。

また、換気量の低減は、同時に供給外気量の低減になり温熱環境の厳しい夏期や冬期の影響を少なくできる効果が高い。

一方、ガス機器のこうした不利な点をカバーする方策として、換気空調方式をガス機器に合わせて適切に計画することが不可欠である。例えば、ドイツではDINの中のVDI2052でガス厨房の換気空調量の試算方法を電化の場合と異にしている。

なお電化厨房では、排気フードが不要なように説明するケースもあるが、これは間違いである。厨房の排気の目的は、室内の汚染物質を室外に排出し、作業者の健康と食品の安全性を高めることが目的である。

この点、前記のDINではVDI2052によって厨房室内の換気方法やその目的が明確に示されている。

一方、厨房内の湿度を高める要因として加熱機器自体から発生する熱や水蒸気は、料理自体から発生する量より少ないが、こうした汚染物質を排気するためには排気フードの役割は不可欠であることは当然である。

●その3 特にIH(電磁加熱)機器は他の加熱機器と比べて輻射熱が極めて少なく、作業者の人体に対する温熱影響も少なく、人にやさしい機器といえる。

なお、IH機器の電磁波の不安を懸念する消費者もいるが、国内の試験結果からは不安要素は見られない。この点欧州では危険性も安全性も証明されていないため、写真1のようなマークを機器に張り付けているケースもある。ちなみに、携帯電話から発生する電磁波量は厨房機器よりさらに深刻な問題であると提言する技術者もいる。

<法的規制>

電磁波に関する国内の規格、規制、ガイドラインは資料3のとおりである。また、国内の厨房機器に関する電磁波の法的な影響は資料4のとおりである。現在国内で販売されている厨房機器の電磁波影響についてはこうした規制に合致したものである。

◆課題◆ コスト高避けられず弱い競争力

●製品ラインアップ

電化厨房機器の普及には、厨房メーカーをはじめとして新技術の開発が不可欠であるが、その点いまだ発展途上である。一方、国内の電化厨房機器専門メーカーはガス機器メーカーに比べて少ないばかりでなく、商品のラインアップが少ないと思われる。

その最大の理由は前記のように市場における電化厨房導入の割合が少なく、経済的なメリットが少ないと考える消費者も多かった。こうした状況下では各メーカーが消費者からの要望と独自の規格に基づいて小ロット生産となることが避けられない。そのため、機器の開発や製作コストがガスに比べて割高となり、競争力が低下している。

●コスト低減

電化厨房のコスト低減方策として以下の項目の検討が不可欠と考えられる。

(1)電化厨房循環型換気方式の開発

(2)大容量インバーターの開発

(3)デマンド制御技術の開発

(4)電気料金体系の見直し

(5)商品の品質向上

現在家庭用の厨房機器分野では、機器単体の価格はガス機器と比べるとかなり割高であるにもかかわらず、IHヒーターをはじめオール電化が消費者に定着しつつある。業務用電化厨房においてもこうしたメリットが消費者に十分理解されていないと推察される。

●増改築時の電気設備容量

従来ガス機器を中心とした厨房で、電化厨房にリニューアルする場合、まず問題になるのがトータル電気容量の確保である。が、テナントビル内の飲食店では必要な容量の確保がなり難しい面がある。

当然トランスの増設などは難しいばかりでなく、仮にトランス増設が可能であってもその設備費用の負担や基本料金の増加などによって電化に対して必ずしも賛同を得られないのが現状ではないだろうか。したがって、電化厨房は、こうしたコスト増に対して投資効果がどの程度メリットがあるのかを明確に示すシステム提案が不可欠と考えられる。

●消費者ニーズ

結論として業務用電化厨房に対する消費者ニーズは今後期待できるが、やはり投資効果を消費者に理解してもらうことが最大のポイントである。

一般に小規模のテナント店では厨房設備の投資は自ら出資することが多い半面、換気空調費や光熱費などはビル全体の費用を店舗の売上高や店舗面積に応じて支払うケースがほとんどである。その場合、電化厨房によるこうしたランニングコストの軽減メリットは消費者側の認識として希薄になりやすいため、初期の投資費用が安いガス機器を選択すると推察される。

したがって、電化厨房の全体コストを現実に沿って訴求することが消費者には理解しやすいと思われる。

●電化厨房機器

現在食品の安全性に対する消費者の「目」が厳しいことは周知の通りである。一方、フードサービス業界ではHACCPの導入の動きがますます加速されている。

こうした衛生管理システムの導入を容易にするためには、清掃のしやすさやすき間のない施工技術などの改善が求められている。しかし、ガス厨房機器を含めて電化厨房機器のそれらもいまだに作り主導のスペックとなっているように感じているのは筆者だけであろうか。

この点家庭用の機器は、清掃のしやすさや使い勝手の良さは当然機器の開発コンセプトとして配慮されている。業務用ではこうした点の配慮が極めて後進的といわざるを得ない。欧州の機器はHACCPの導入以来使い勝手の良さ、安全性、清掃性の良さなどに考慮した機種の台頭が目立つ。

◆注目施設(電化フォーラム21資料)◆

別表は電化厨房機器の採用店舗の一部であるが、このほかにも大型のCK施設においても増加しつつある。

(フードサービスコンサルタント・本山忠広)

○電化厨房機器 話題の商品

■フード一体型スチームコンベクションオーブン(写真2=ラショナルの特許製品)

■丸型ヒートプレート(写真3)

■清掃が簡単なフライヤー(写真4)

■圧力パン(写真5)

■ローファットフライヤー(写真6=オーブンタイプであり、機器の横に引き出しが付いており、この引き出しの中でフライする。卓上型オーブンタイプがドイツの「Ubert」社から発売されている。しかし、この機種は現在日本国内では販売されていない)

また、欧州の加熱機器は日本のそれらと比べてモジュール化が進んでいる。例えばレンジ、フライヤー、ケトルなどが一体化で組み立てられている(写真7)。

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