メニュートレンド:大活躍する専用焼き機 焼きおむすび専門店「Musmus」
焼きおむすびといえば、焼き鳥屋や居酒屋で締めとして食べるイメージが強いが、それを払拭する焼きおにぎりのテークアウト専門店が登場した。まるでハンバーガーを包んでいるかのようなしゃれたラッピング。アイデアとバラエティーに富んだ具材。三分も待てばこんがり熱々のおにぎりが食べられるとあって、客足が絶えない人気店として繁盛している。
昨年10月、赤いファサードが人目を引く、焼きおむすび専門店がオープンした。開店早々、福岡でも珍しい新感覚の店として雑誌やテレビなどのマスコミはこぞってリポート。瞬く間に二〇代の女性を中心に火がついた。焼きおむすびの専門店という発想はどこから来たのか。
オーナーの池田美裕さんがこの店を立ち上げたきっかけは、サラリーマン時代に出入りしていた企業との付き合いから。地域のために電気を使って何かできないか、と梅がえ餅やステーキ用の焼き機などを開発、製品化していたその企業から、脱サラ後、事業を考えていた池田さんにいいタイミングで、焼きおにぎり専用機械の提案が舞い込んだ。
考えた末、これはいけるとの決断にいたる。まず、素人からでもできる簡単な操作。二分~二分半で焼き上がる手軽さ。生野菜の使用や焼きたてといったコンビニのおにぎりではできないところから商品が差別化できること。そして何より、若い人にうけるのではないかという面白さとやりがい。
店の雰囲気づくりも商品とのギャップがないよう、和のイメージではなく七〇年代のアメリカのポップ感を取り入れ、だれもが立ち寄りやすい雰囲気をつくった。
去年3月から始めた事業計画は半年間で準備したものだが、その間にはご飯や具の量、焼く温度や時間など試行錯誤が多々あったという。
中でも、こだわったのは味付けのポイントとなる秘伝の特製だれ。このたれをご飯のベースに辛さを調節し、具材を替えて全メニューに使っており、いわば商品の要となるものだ。材料には、だし、醤油、砂糖をベースに使い、果物や野菜を入れてまろやかさを出した。辛すぎず甘すぎず、上品な味に仕上げた。
こうして二〇代の女性をターゲットに考えられたメニューは一〇種類。肉巻き(牛肉・豚肉ともに二二〇円)、石焼ビビンバ風(一八〇円)、ハムチーズ(一二〇円)などバラエティーに富んだ味、一度に何種類も食べられるようにちょっと小ぶりでおかずいらず、といった工夫がなされた。
一番の人気商品は、たれに漬け込んだ軟らかい肉でご飯を覆った「肉巻き」。多い時で肉巻きは一日五〇個、トータルでは四〇〇個出た時もある。
リピーターから口コミでの新規まで、コンスタントに老若男女の客を獲得しており、二〇代の女性が四割ほどを占めている。定期的に食べたくなるとの女性客の意見からも、やはりご飯の味付けがポイントを占めているといえるだろう。
最近ではランチセットも登場し、好きなおむすび四つと味噌汁付きで五〇〇円という低価格が功を奏している。目下、週替わりのメニューも開発中だ。
売れ行き好調な中にも、量産に手間がかかるなどの問題点はあるが、一年以内には四~五店舗増やしたいと意気込む池田さん。
区域ごとの出店や移動販売車、将来的には海外店も考えている。目印の赤いファサードが街中に増え、香ばしい醤油のにおいが街ゆく人々の食欲を誘う。そんな光景が今から目に浮かぶようで、今後の展開が楽しみだ。
◆Musmus(福岡市博多区住吉三‐五‐八、藤野ビル一階、電話092・262・0666)
●食材の決め手 ニビシ醤油(株)「ニビシ特級うまくちしょうゆ」
おむすびの味を決める秘伝のたれに欠かせないのが、醤油の存在。池田さんは知人の職人からアドバイスを受け、何種類か候補の醤油を取り寄せた中からこの醤油を選んだ。
ニビシは創業八〇有余年、大豆、小麦、塩、水など良質な原料にこだわり続ける福岡の老舗として知られる。
中でもこの「特級うまくちしょうゆ」は、本醸造特有の風味に、うまみと甘みを加え塩分を控えめにした濃厚な甘口醤油。池田さんは、この特級の持つ辛さ、コク、甘さのバランスが取れた味わいにひかれ、これをベースに野菜や果物を混ぜ込むなどのアレンジを加え、秘伝のたれを作り上げた。
こうして完成した味付けご飯による焼きおむすびは、冷めてもおいしいという点でも好評を得ている。