ヒットメニュー列伝 近代メニューに名を残す逸品(14)うにとイクラの小丼
すし。昔は男の食べ物でした。屋台で始まったすしを売るということが、店を構えてお客さまを待つという商売に変わっても、しばらくの間は男の料理であり続けた。男が作って男が食べる。粋の文化の象徴です。
ただ、どんな飲食店も女性抜きでは繁盛ができなくなった今の日本で、すし屋だけが例外となる…。そんなことは当然できず、最近のすし屋は女性も楽しめる雰囲気づくりに一生懸命になっている。ただ、商品そのものは、やはりどうしても「男の時代の名残」に縛られている。仕方ない。
特にウニとイクラ。
海苔で包んだしゃりの上に盛る、いわゆる軍艦巻きのスタイルは、お世辞にも女性に食べやすいとはいえない。どうやって醤油に付ければいいんだろう、どうやって口に運べばいいんだろう。高級な江戸前のすし屋では醤油をあらかじめ塗ってくれたり、あるいは海苔の味がせっかくのウニやイクラの風味を損なってはと、握りにして提供するところもある。
しかし、崩れやすく形にならぬ独特の食べにくさからは免れようもなく、男の大きな口でも時に持て余すほどのものだから、女性にとっては「食べたい、でも食べにくい」の“かわいさ余って憎さ百倍的料理”じゃなかろうか。
「なかむら」というすし屋が東京・六本木にあります。ここではウニとイクラが手にスッポリ隠れそうなほどに小さな器に入ってくる。握るのでなく丼状、極めて小さな丼で握り一貫分程度の量の料理になってやってくる。スプーン付きで。女性を考えた心配り。とても素晴らしい。しかもこの店は、もともと屋台からスタートしている。先祖帰りの正しい進化。とても面白く興味深い。
((株)OGMコンサルティング常務取締役・榊真一郎)
◆「なかむら」(東京都港区六本木七‐一七‐一六、米久ビル一階、電話03・3746・0856)営業時間=午後7時~翌午前3時(金曜のみ5時30分)、土日祝日定休/おもなメニュー=おまかせ「つまみとにぎり」一万五〇〇〇円~
◆店主・中村将宜プロフィル=東京・大阪の日本料理店を渡り歩くこと一〇年。築地の魚屋を経て、六本木の現代風屋台で一年、次に六坪の小店で二年頑張って、現在の店を開業。「仕事はほぼ独学。ネタにひと手間かける江戸前が好き」という握りは、ネタの香りが口の中でふわっと広がり、次第にほどけていく余韻の長さが印象的。