飲食トレンド:移動販売一堂に集めた「ネオ屋台村」 主役は“個人”
巷のメディアを騒がせている移動販売の車たちがいる。商業施設やイベント会場の広場に、ランチ限定で現れる「ネオ屋台村」と称する一群だ。カレーにタコス、スプラキ、ベトナムサンド、沖縄料理、アジアンごはんなど、国際色豊かなメニューを販売するワゴンのオーナーは、いずれも個人や個店の経営者がほとんど。これまで路上で「流し」で営業していた彼らを一堂に集めた屋台村は、その個性を売り物に、オフィス街のランチマーケットを活気づけている。(阿多笑子)
東京は千代田区有楽町。正午を回った国際フォーラムの屋外広場では、付近のビルからサラリーマンやOLがどっと繰り出し、「いらっしゃいませ。本日の日替わりは“ソーメンビットゥル”です!」という明るい元気な声に、引き寄せられるように列が出来始めた。
声の主はそろいの花柄のバンダナとエプロンを締めた若い女性二人組。斉藤百合子さんと萩原香織さんは、脱OLで移動販売を始めて一年。沖縄の郷土料理を手作りしたランチボックス「Ryukyu Wave」は、瞬く間に人気を集め、週五日都内で定期的に出店し、固定客をつかんでいる。
収入も「OL時代に比べ、さほど落ちていない」という。
沖縄・八重山諸島の大自然と温かい島の人たちのとりこになり、学生時代から通いつめて、気がついたら民宿の手伝いもしていたという二人は、そこのおばぁから習った「身体に良くて、おいしい沖縄料理を都会のみんなにも食べてもらいたい」と移動販売を決心した。
西表島の黒砂糖と泡盛で煮込んだラフティ(豚の角煮)丼や、沖縄モズク、コーニバ(ヨモギ)のジューシー(炊き込みご飯)など、現地の食材を使って日替わりで郷土の味を伝える。
同業者が居並ぶ中、短時間勝負のランチマーケットは激戦だ。しかし、「どうやって売ろうかという戦略はあえて考えない。本当に良いものを丁寧に作っていたら分かってもらえるはず。おいしいと言ってもらえることが一番うれしい」とニッコリ。
もっとレパートリーを増やそうと、今も八重山のおばぁの元に通っている。
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「ネオ屋台村」は現在、東京都千代田区内に三ヵ所。東京国際フォーラム村(有楽町)、東京サンケイビル村(大手町)、丸の内トラストタワー村(丸の内)のいずれもオフィス街。ネオ屋台村を企画し、移動販売車を統括しているのは、イベントのケータリングを専門に手掛ける(株)ワークストア・トウキョウドゥ(東京都大田区、電話03・5748・3330)だ。
昨年秋から「ビルの管理者から依頼を受け、オフィス街のランチ対応と地域活性化のために始めた」(広報担当・石澤正芳氏)が、話題性抜群とあってマスコミの取材が引きも切らない。同時に「出店させてほしい」という依頼も殺到しているという。
しかし希望通り出店できるわけではない。出店できる車は国際フォーラムで七~八台。現在五〇業者が登録し一〇業者が出店待ちだ。
カレー販売が最も多いため「同業種の車がダブらないように調整している」ほか、出店者には「お客さんに楽しさを与えるため、仕出し弁当のように販売するだけではだめ。その場で出来たてを提供する、好みの惣菜をチョイスできるなど、お客さんとのコミュニケーションやパフォーマンス性を求めている」という。
価格も手軽に食べられるようにセットでも五〇〇~六〇〇円台に抑えている。また、ここ以外にも販売場所を自分で確保していることが前提だ。
「売れているように見えますが、天候に左右されやすく、一日一〇食の日もあれば七〇食もある」と決して楽ではないことを強調する。営業時間も午前11時30分から午後2時ごろまでと短い。
出店料(売上げの約一五%)はほかより低いが、個性や売り方に工夫がないと、同じ場所でも他店との人気の差は歴然だ。客の関心を引かないと生き残れない。
人気は、毎日日替わりでアジアの屋台料理を六種類提供する「アジアンランチ」や冒頭の沖縄料理の「Ryukyu Wave」、その場でナンや羊肉を焼いてみせるインドカレーやスブラキだ。
ホームページに出店場所やメニューをアップしたり、携帯電話のメールで本日のメニューをお知らせするなど店舗がない分ITをうまく活用することで、顧客とのつながりを作っている店も多い。店主のキャラクターも人気のバロメーターだ。ネオ屋台の店主は三〇代前後の若者が中心だが中にはコーヒーを売るアラビア語の講師といった一風変わった外国人もいる。
また最近は個人以外にも、ネオ屋台村の集客性に注目して集まってくるカレーパンやメロンパンなどのチェーンも増えてきた。いずれもワゴンにオーブンを搭載し、目の前で焼きたてを提供する。
運営元の(株)ワークストア・トウキョウドゥ自身は、「本業があるからできる。まだこの管理費だけでは一人分の人件費も上がらない」という状況。
最近はオフィスビル以外にもコンサート会場や百貨店の催事などに呼ばれることもあるが、「出店者のためには、集中的に利益の出せるランチの場所をもっと増やしていきたい」という。
またネオ屋台村は、一匹狼で流してきた移動販売車にとって、互いに情報交換や手助けができる場にもなっている。「そうしたコミュニケーションによって、よりマーケットが活気づけば」と期待している。
※ネオ屋台村の詳しい場所、出店業者のスケジュールは、トウキョウドゥのHP(http://www.w-tokyodo.com/)に掲載。
◆都心で活躍する「ネオ屋台村」=「アジアンランチ」
八年前に一号車を青山に出店。「ネオ(新しい)屋台」の元祖ともいえる存在。脱サラしたオーナー夫妻が、タイ、べトナム、インドネシア、ミャンマー、パキスタン、インド、中国、韓国など、旅先で食して感激したアジア庶民の屋台料理の数々を再現している。
レシピは一七〇余りあり、『アジアのぶっかけごはん』という本も刊行。現在はセントラルキッチンで一日一〇〇〇食を製造し、一三台のワゴンが都内各所で販売している。
多くのメニューを扱うためロス管理が課題。また昨今の食品問題を受け止め、「衛生管理と安全管理の徹底に努力している」(山口由香取締役)という。
主なメニューは「日替わりアジア三色ぶっかけごはん」(六〇〇円)、「アジアンランチBOX」(六五〇円)。
※HP=http://www.asianlunch.co.jp/indexkurzhtml.html
◆都心で活躍する「ネオ屋台村」=「クアトロおじさんの焼きたてメロンパン」
昨年大阪で勃発したメロンパンブーム。今年は多くのチェーンが東京に進出してきた。同店の母体はデザイン会社。「商業車として優れたデザインの軽自動車とキャラクター戦略、高品質のパンでブランドを確立する」(堀川専務)と自信を見せる。
オーブンを装備した車で初期投資三八〇万円とFCを募集中。現在六台が決定し、関東エリアで年間五〇台の展開を計画している。
「一過性のブームで終わらせないために販売数量は一日七〇〇~八〇〇個と限定。将来は本格的な移動ベーカリーとして、街のパン屋と遜色のないおいしい焼きたてパンを提供したい」という。
大阪でメロンパンと併売を始めた「焼きカレーパン」を東京でも導入する予定だ。主なメニューは「メロンパン」(一個一五〇円)。
※HP=http://www.quattro-foga.com/uncle-quattro/index.html
◆移動販売のポイント資材 焼却可能な「パルプモールドパッケージ」
販売後、どこでどのように食べられているかわからない移動販売弁当。食後に迷惑のかからない包材廃棄を想定し、焼却可能なパルプモールドパッケージを活用するケースが多い。パルプモールドは、世界に豊富なアシやケナフなどを素材にした温かみのある紙製容器。メニューを優しく包むシンプル設計で、手作り志向を演出する容器としても好評だ。