シェフと60分 名古屋ターミナルホテル調理部長・村岡諒一氏
昔はフランスのパリが美食の街といわれ、世界のおいしい食べ物がパリの中央市場に集まった。これらの食材を使って、グランシェフがすばらしい料理を主家に提供した。これはフランス革命以後から続いてきた。
この美食の街、パリの流れが日本へ伝わり、世界の三大料理のひとつにあげられるフランス料理は静かなうちに人気が上がってきた。特に名古屋では、世界デザイン博開催をきっかけに若い人たちにフランス料理という独特な雰囲気などが魅力の材料となり着実に浸透した。
確かにバブルがはじけた現在、頂点にいたフランス料理も苦戦を余儀なくされているが、時代の流れに添った料理のニーズが感じられる。世界各地から新鮮な料理の素材が手軽に入り、旬の食材も容易に入ることから料理の幅が広がっている。これらの好条件の背景があるだけに、われわれは時代に合ったおいしくて安価な料理を提供していくことが大切なことと思う。
やはり、時代の流れがつかめない料理人ではいけない。お客様のニーズを先取りすることが、技術以上に大切なことだ、と強調する。
《伝統技術を基本に 広い知識の吸収を》 村岡さんは(社)全日本司厨士協会東海地方本部の会長を前竹林勇会長からバトンを受けて一期二年が経過した。中部六県下と一部静岡にフランス料理に携わる会員が二〇〇〇人以上にのぼる。
‐‐最近の会の動きと合わせて若い人へのアドバイスを。
村岡 会ではフランス料理に携わる会員に対して、新しい時代の料理技術の国際交流も最近では積極的に展開している。特に機会あるごとに研修会を開き、時代の流れに対応した料理講習会も行っている。
今の若い人たちには、われわれの時代のように伝統的な料理技術というものがあまり教育されていない傾向があるが、この古くからの伝統ある技術を基本に時代に合った料理をつくることを体得していかなければいけない。これからの二一世紀を背追っていくには技術だけではいけない。
幅広い視野の持ち主でなければいけないし、社会人としての常識も持ち合わせていなければいけない、と後輩にアドバイスしたい、と語った。
《繊細かつ軽妙な味 各国VIPに提供》 新鮮な素材を生かし、繊細な技術、軽いソースの味を特徴とする村岡諒一グランシェフは英国エリザベス女王陛下をはじめ、皇族、世界各国のVIPに「技」、「美」、「粋」、「味」、「創意」をモットーにした料理を提供してきた自信の料理哲学がある。それだけに若い後進の教育には熱心だ。“おいしい料理は真の幸福の根底となる”ことを座右の銘に食文化発展に今日も貢献している。
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恩師井上幸作氏、フランス料理の巨匠田中徳三郎氏に師事。鳥羽国際ホ テルから12年前に名古屋ターミナル ホテルへ。
フランス料理最高の権威を誇る「デ シブル・ド・オーギュスト・エスコ フィエ」称号を与えられる。C・N・ G日本代表部アカデミック協会副会 長、中部シェフ同好会副会長、名古 屋フランス料理研究会顧問の要職に あるほか数多くの作品表彰を受ける。 愛知県知事表彰卓越技能賞「愛知の 現代の名工」、厚生大臣表彰「調 理師業務功労賞」などを受賞。
大阪商科大学卒業、昭和4年、広島県生まれ。
文・楢橋 尚義