この一品が客を呼ぶ弁当編・東京:「割烹 升本本店」すみだ川
東京は亀戸にある老舗割烹「升本」。界隈には亀戸天神や亀戸七福神などの寺社や古くからの店が多く、下町情緒にあふれている。ここ升本は商店街の一角にあり、創業時は酒屋だったが、酒のつまみに一品出すようになったのをきっかけに割烹料理店になったという。一〇〇年の歴史を誇る老舗の弁当は、創業以来変わらぬ手作りの上品な味わいである。
地の素材を使ったあさり鍋や亀戸大根料理などの郷土料理が味わえる升本では、常連客に頼まれて作った弁当が口コミで人気を呼び、三年前から弁当専門の調理場をつくり、規模を拡大した。駅ビルや百貨店などでの販売も行い、現在は小田急百貨店、池袋西武をはじめ、八店鋪で販売している。また、インターネットでの注文も受け付けている(二万円以上)。
二種のおにぎりと惣菜の入った「七福」(七七七円)、ご飯を選べる「すみだ川」(一二六〇円)、月ごとに替わる「季節替りのお弁当」(一四五〇円)、二段重ねでボリュームたっぷりの「ふるさと」(一五七五円)など、各店で数種の弁当を販売するが、別途予約注文もできる。
いずれも創業以来のコンセプトである「手作り」と「体にいいもの」にこだわり、保存料や合成着色料などの添加物は一切使わない。作業の効率化を図るため、機械を使ってつくねをこねた時期もあったが、手作りのような深みのある味が出ないと、手こねに戻したのだという。調味料も天然塩、有機醤油を使用する。
一番人気は、あさりめし、白めし、旬のご飯から選べる「すみだ川」。おかずは江戸風の卵焼き、カレイの柚庵焼き、クラゲと切り干し大根の酢の物、アサリのすり身が入ったかまぼこ、キクラゲの煮物、つくね、野菜の煮物など、ヘルシーなものがぎっしり。青唐辛子を米麹で発酵させた南蛮漬けがパックに入っており、好みでおかずにつけて食べるようになっている。ぴりっと味を引き締めたいときには最適だ。
そしてもう一つ、弁当の味を引き締めるのが亀戸大根のたまり漬け。上品なおかずに、南蛮漬けとたまり漬けで絶妙なアクセントをつけている。
◆割烹 升本本店(東京都江東区亀戸四‐一八‐九、電話03・5609・1898)営業時間=午前11時30分~午後2時、5時~10時(日祝日は~9時30分)、年末年始定休/一日食数=約七〇〇食
◆食材の決め手:亀戸大根たまり漬け 農業・鈴木家(東京都葛飾区)
亀戸大根は江戸時代に亀戸近辺で自生していた江戸野菜で、明治時代までは盛んに収穫されていた。通常の大根よりきめが細かく、歯ごたえがよく、特に漬け物に適している。
その亀戸大根を特製のたまり醤油や紹興酒などを配合したつけ汁にじっくり漬け込んだたまり漬けは、升本の弁当には欠かせない一品となっている。最近は亀戸大根を栽培する農家が減少したが、升本では契約農家から有機栽培で作られた亀戸大根を週二回仕入れ、漬け物にしている。