料理の潮流トップシェフインタビュー:ヒルトン東京ベイ王朝料理長・宮本荘三氏

2005.02.07 296号 13面

メーンダイニングが次々と姿を消すホテルが多くなる中で、時代とともに洗練されてきた中国料理が見直されている。休日はいつも予約で満席というヒルトン東京ベイ「王朝」の宮本荘三料理長に、中国料理のこれからの展望を語ってもらった。

‐‐このところホテルの中国料理が元気ですね。

宮本 かつて中国料理店というと、街場の○○飯店のような店が多く、ホテルには少なかったのですが、最近は客席が多く元気な店というと、ホテルが多くなってきました。フレンチや和食に代わって、中国料理をメーンダイニングに位置づけるホテルも増えています。

変化としては、まず料理の盛り付けが華やかになりましたね。料理人も勉強して、器に凝ったり、個客に対応した繊細な盛り付けができるようになりました。その一方、大皿にドンと出して、ウエーターが目の前で盛り付けるようなダイナミックな料理もあるわけです。お客さんは料理を見て、楽しく会話が盛り上がる。以前のように堅苦しくなく、気軽に会食ができることも、支持されてきた要因でしょう。

また飲み物も、ワインがよく出るようになりました。僕らも、ソースをワインに合うように意識して調理するようになっています。

あとはデザートの強化。昔は杏仁豆腐くらいしかなかったけれど、いまは中国茶のアイスやフルーツのコンポートなど、料理長自身がフレンチも食べ歩いて、研究して作っています。本場中国では、アズキやもちを使ったものが多いですが、最後はさっぱり口直しして、明日もまた食べたいと思っていただく。最近はそこまで考えるようになりましたね。

価格も、昔は高いメニューでも、お客さんは飛びついてきた。それが内税表示になってから、前と同じ価格なのにお客さんは高いと思う。素材の質を落とさずに、価格を下げるということもやっています。

‐‐料理人としての意識も変わってきましたか。

宮本 今まで以上にやりがいを感じていますね。ホテルというのは、本当にさまざまなお客さんが来られる。アレンジのしがいもあるけど、そうしたお客さんに対して、こちらも広くアンテナを張っていないと、満足いただける料理はできません。

最近はブランド豚が人気で、ばら肉は女性が脂身をいやがるかと思ったら、一口サイズに工夫すれば食べやすくなる。また美白効果のあるコラーゲンも三時間以上ボイルすることで、脂肪が抜けコラーゲンだけを残すことができるんです。

僕自身、これまで創作料理もやってきましたが、これからは「日本の中の中国料理」をやりたい。今までコースメニューには、上海料理が七割くらい占めていたけど、これからは広東も四川も隔たりなく、トレンドなものを自由自在に取り入れていきたい。

でもそれができるのは、基本の技術をみっちり先人たちから伝承されてきたから。要は「頭はやわらかく」「技は王道をいく」ということです。だから「どこからでも攻めてやるぞ」という百戦錬磨的な気持ちでいられる。

いま和食では、五〇〇〇円台の創作料理がはやっているそうですが、だからこそ、僕らは王道をいくべき。創作しても、お客さんは舌が肥えていて、すぐ見破られてしまいますからね。

今のようなヘルシー志向では、ラードを使わなくなりましたが、それに代わるコクを出すにはどうしたらいいか、知恵を出さないと。

昔の人は、スープもいいものをしっかりとった。ウチでも、鶏湯、毛湯、上湯と三種類のスープを作って料理ごとに使い分けています。

いまの若者は、料理をどんどん進化させて、それが新しいと勘違いしていますが、基本の技術を自分のものにできていないのに、変化させようとすると、見た目だけで、エネルギーのない料理になる。

最終的には、「見てきれい」より、「食べておいしい」方が印象に残って忘れられない。

日本は世界一良い食材がそろっています。でもこれからは食材の値段も上がって、フカヒレやツバメの巣もいつか幻になるかもしれない。だからこそ僕らが王道をやらなければ、次の若い世代に料理が残っていかなくなってしまいます。

‐‐これからはどんな料理に注目していますか。

宮本 時代は繰り返されるというセオリー通り、僕らが先輩に習ったような本場のコテコテ料理がこれからは受けるようになるでしょう。

これまで、「こんな料理はきっとはやらない」と勝手に解釈していましたが、出し方を工夫すれば受け入れられる。

例えば、食べにくい魚の骨をあらかじめ抜くとか、大皿に一匹丸ごと出した方が豪快でおいしいけど、骨付きのままブツ切りにしてから出すなどです。

それから絶対守らなければいけないのは、「冷たいものは冷たく」「熱いものは熱く」。料理を見せるためにいじりすぎて、料理が冷めてしまっては本末転倒。大皿に盛られた料理をウエーターが取り分けて、湯気が立つ中で食べる。それが大事なんです。

いまはレストランも、元気のいい店とそうでない店がはっきり分かれてきました。勝ち組でいるには、自分たちが燃えていかないとだめ。本当にいいと思ったものを、もう一度見直していくことです。

(文責・阿多笑子)

◆プロフィル

みやもと・しょうぞう=ヒルトン東京ベイ・中国料理「王朝」料理長。一九五二年北海道生まれ。中学卒業と同時に上京。新宿「美華」で三年間ラーメンの出前持ちの後、小田急ハルク「豪華」、銀座「東京飯店」、旧・東京ヒルトン「星ケ岡」、新宿・東京ヒルトン「王朝」を経て現職に。中国料理世界選抜コンクール銀賞、TVチャンピオン中国料理大会三連覇など、実力・人気ともにトップを走る。

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