フランス料理 ヌーベルキュイジーヌから伝統料理時代へ

1992.05.04 3号 10面

現在、本場フランス料理はヌーベルキュイジーヌ時代は終わりを告げ、伝統料理など、人々の個性の主張を唱える方向にむかっている。

一五年ほど前に完成の域に達していたフランス料理に新しい料理の波が押し寄せた。それは当初ヌーベルキュイジーヌといわれ、日本の懐石料理に似た新しいタイプの料理であった。やがて、次の段階でキュイジーヌモデルとかポストヌーベルキュイジーヌなどといわれたものである。確かに、この流れは、いろいろな形で新しい料理法や調理法を生むことにより新しい味覚を作り、また皿の上の芸術家たちとして華やかにシェフたちを登場させた。

調理の簡素化、素材の持ち味の引き出し、大胆な組合わせ、軽い味つけ、少量化などにシェフの創造力が加味された形での料理が大いにもてはやされ、これらの料理を出す三ツ星の有名レストランは大盛況であった。

しかし、最近のフランス料理は、個性を主張、料理の価値判断ができる伝統的料理が再浮上している。

極上レストランでの新しいタイプの料理と、故郷の味、おふくろの味といった伝統的な、そして時代を超えた料理が鮮やかに共存し、舌と胃袋と、財布とによって食べ分けられているのが現在のフランス料理といえる。

フランス料理の基盤はなんといってもやはり個性豊かな地方料理である。新しい料理名で何々といわれるよりも一言「〇〇地方の〇〇料理」といえば、フランス人の誰れもが一度でわかる。この単純明快さが、実は庶民の味である。ブルゴーニュのブルゴーニュ風エスカルゴの穀焼きや牛肉の煮込み、ボルドーのトリュフをきかせたがちょうの肝臓の料理。プロバンスのブイヤーベース。アルザス、ロレーヌのシュークルートとキシュ・ロレーヌ‐‐など各地方の料理は多種多様である。そしてそれぞれのワインとチーズが加わって料理が完成される。

どこの国のどんな地方であれ、人びとの最も自然で経済的な食生活の原則は、その土地が豊富に供給することのできる産物を利用することにある。

このきわめて単純なことが、フランスの各地で地方色にあふれた多彩な料理文化をつくりあげてきた。それはこの国が、地理的にも、また自然環境においても、そこに住む人間、複雑な歴史においても、個性豊かな地方色を生み出す条件に実に恵まれているからである。そして、この地方料理の存在こそ、高度に発達したフランスの料理文化をささえているのである。

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