施設内飲食店舗シリーズ 「ザ・プライム」(東京・渋谷)
「ザ・プライム」は渋谷・道玄坂下の東急109と隣接し合っている。地下一階、地上七階建てのビルで、四、六、七階を除く五フロアに飲食店舗二二店が入居している。
このビルは以前は量販店の緑屋だった。西武流通(セゾン)グループが買収して営業していたが、七年前に飲食レジャービルにスクラップ&ビルドとして再スタートした。
フロア構成は次の通りで、地下一階が麺コーナー、地上一階が飲食店舗二店、二階同九店、三階焼肉レストラン一店、四階がエステとシェイプスタジオ、五階南欧料理店一店、六階映画館(渋谷松竹セントラル、シネセゾン渋谷)、七階管理事務所および社員食堂、更衣室などとなっている。
このビルは映画館が二館入居しているので、カップルからファミリーまで多様な客層を集客できるわけだが、しかし、シーズンや上映メニューによって観客数が変動するので、高水準で集客できるということにはなっていない。
座席数は二館合わせて約七〇〇席だが、一日四、五回の上映であるので、単純に計算すれば、一日当たり三〇〇〇人前後を集客するということになる。
もっとも、映画の観客がどれくらい各階の飲食店舗に流れてくるかは不明だが、この一割とすれば三〇〇人前後が施設内の飲食店舗を利用するということになる。
しかし、映画観客の一、二割の人がプライムの飲食フロアに回遊してきたとしても、この数字は少ない。やはり、往来の客(来街者)をストレートに吸引する仕掛けになくては、施設も店もにぎわいがない。
この施設は、人の通行量の多い渋谷、道玄坂にしては、来街者の吸引力が弱いという印象を受ける。
隣接の東急109のように人を溜留させるフロントのアプローチに弱く、また、施設内も薄暗く、エキサイティングな仕掛けにはなっていない。
要するにビル全体に活気がなく、来街者を回遊させる演出、工夫が足りないという印象なのだ。
各店舗でもバブル経済が破たんしたこともあって、客数、消費単価ともに二割前後ダウンして、経営が厳しくなったという声は強い。露面店舗ではないので、よっぽど知名度の高い店でもない限り個店だけでは客を引き込みにくいというハンディがあるわけだ。
このため、施設全体の仕掛け、演出として、客を吸引する努力をして欲しいというのはもっともなことだ。
三階の飲食フロア(二〇五坪)には二年前までは四店舗が入居していたが、現在は焼肉料理の叙々苑一店が残っているのみだ。
同店は五〇坪、客席数七四席の規模の店で、一日平均二〇〇人の来客数、客単価(夜五、六〇〇〇円)が高いので軽ろうじて営業目標をクリアしているのだという。
これに対して二階フロア「デリカテリア」のプライムガーデンは、大変に厳しい状況だという。家賃(歩合)が高い上に、全体客数が少ない。個店での経営努力にも限界が出てきたと話す。
「家賃が売上げの約三割ですからね、それは厳しいですよ。夜の売上げの損益分岐点が坪二万五〇〇〇円ですから、二階のフロアだけでも一日平均三〇〇〇人以上は集客しないとペイしないという状況です」(プライムガーデン)。
一階フロアのセゾングループ経営のオールドニューでも似たような経営の厳しさだという。また、地下の麺コーナーも同様の声だ。
「渋谷の一等地でその気になれば、客はいっぱい呼び込めるはずだ。これだけの飲食店舗が出店していながら、ビル全体としての相乗効果が出ていないのは、やはり施設としての怠慢、努力が足りないという気がしてなりません。われわれ店も頑張っています。ビルの方でも、より積極的に挑戦して欲しいということです」(げんこつ屋オーナー関川清氏)。
施設内の三店舗を取材してみた。
◆「げんこつ屋」
店舗面積二二坪、客席数三六席。オープンして今年11月で満三年になる。げんこつ屋といえば、味づくりのこだわり方で、中央線や地下鉄丸の内沿線の杉並辺たりでは、広く知られた存在で店舗が阿佐ケ谷に二店、新高円寺に一店の計三店を展開している。
ザ・プライム渋谷店は四店目の店ということだが、新たな味づくりの追求のもとにチェーン化を意図しており、明年春ごろには横浜にも出店する考えだ。
「ラーメンはシンプルなだけに大変に奥深いものがあります。特にスープは研究すればするほど奥深いんです。私はダシ、スープの味とは何か、どうなるべきかという根本的なことから、味づくりにこだわっているんです」と語るのはオーナーの関川清氏。
ラーメンと取り組んで一三、四年前からこのことが分かってきたのだという。スープは和風とパイタンスープを独自にアレンジしたものだが、ダシはまぐろの削りぶしを使うという最高級のもの。
さらにダシ、味づくりについては、昆布、かつお、まぐろのブレンドを研究中で、理想の「味」を求めてこだわり続けている。
麺も作り置きはしない。すべて二時間以内に使い切る。日本そばのあり方を採り入れている。メニューはスープ・麺・ネギが基本で、具を多用しないという考え方にある。
げんこつらーめん七〇〇円、わんたんめん八五〇円、ごまだれつけめん八五〇円などが人気メニューで、看板のげんこつらーめんは五割の売上げ貢献度になる。客単価九五〇円、一日平均七〇〇食、平均日商六六万円強、一日一九回転の店ということになる。
◆「デリカテリア」
二階一七一坪に九店舗、一五ブース(コーナー)を展開している。カウンターとカフェテリアスタイルのサービス形態で、ワンフロアで和洋中の料理をはじめ、エスニック、サラダ、サンドイッチ、デザート、アルコールと全方位の飲食ニーズに対応している。
営業時間は、朝10時から夜11時まで。朝・昼・夜のメニューを楽しむことができる。デパートの食堂でもないのに、ワンフロアにこれだけの飲食店舗が集中しているのは珍しい。
客席は全部で三〇〇席。この客席を三m幅の通路が四角く取り囲んでおり、客はこの通路を回遊しながら、好みのブースで、食事を楽しむことができる。
店舗はカウンタースタイルの店舗とカフェテリアスタイルの二つのパターンだが、フロアスペースはゆったりとしており、カジュアル的な雰囲気でありながら、落ち着いて食事ができる環境にある。
メニュー単価も五〇〇~一〇〇〇円前後と安い。たとえば、「一膳屋」のそぼろ三色丼八四〇円、「花散里」の和風キッチンソテー八〇〇円、「フォックスベーグル」ジュニアドッグ(サンドイッチ)四五〇円、「プライムガーデン」桜のアイスクリーム(デザート)四〇〇円、シュリンプサラダ六〇〇円、和風おろしハンバーグ九五〇円といったメニュー内容である。
各ブースの利用状況は大きな差はないが、プライムガーデンのケースでは、昼食時が近くのサラリーマンやOL、夕方は学生が主体になるが全般的にみれば日中の利用が多いという結果をみせている。
客単価は一〇〇〇円だが、客数は平日が五~七回転、土日で一〇回転とやはり土日に客数が大幅に増えている。
◆「せいよう広場」
五階二〇九坪を占有する大型店で、客席は二〇〇席。セゾングループの経営で、南欧料理をビュッフェスタイルで提供していることに特色をアピールしている。
メニュー提供はランチビュッフェ二〇〇〇円、ディナービュッフェ五〇〇〇円の二つのパターンで、オードブルからデザートまで四〇種類の料理を楽しむことができる。
このメニュー内容は、ランチであれば、パブリカを使った若鳥の煮込み、鉄板焼きコーナー(イカのジンジャーソース)など。
ディナーであれば、アナゴの唐揚げ、骨付子羊肉のマスタードソースなど(六月のメニュー)といった内容で、ディナービュッフェの場合はピアノの生演奏を聴くことができるというリッチさにある。
このほか、「わがままチョイスセット」というのもラインアップしている。
これは、一六種のメニューからチョイスするもので、一人前四皿一五〇〇円、五皿一八〇〇円、六皿二〇〇〇円の料金設定で、メニューは魚、カニ、チキン、野菜、サラダ、デザート類とバラエティに富んでおり、好評を博している。
客層は日中は主婦のグループ客が八、九割と圧倒的多数を占めており、このサービス形態が味、料金にシビアな女性層に大きく支持されていることを証明している。夜の客層はサラリーマンやOLのグループ客、カップル、ファミリー客と幅広い。客単価は昼二三〇〇円、夜五〇〇〇円。
店の利用形態は、貸切りのグループおよびパーティ利用も多く、ランチタイムが一〇〇名、五五〇〇円から、ディナータイムが一五〇名、七五〇〇円からと、店の器が大きいので、多様な利用形態をアピールしている。
利用客数は昼四〇〇人、夜三〇〇人前後といったところで、平均日商二五〇~三〇〇万円を上げている。