電化厨房特集:厨房の未来像 電化厨房の可能性探る

2007.05.01 327号 11面

●厨房設備機器展で電化厨房機器が台頭

このほど「第7回厨房設備機器展」が東京ビッグサイトで開催された。開催主催者の公表によると、来場者数は約9万1500人だった。この展示会では、厨房機器メーカーが数多く出展し、最新機器や技術を紹介した。

展示会で目についたことは、調理実演を採用したデモンストレーションではないだろうか。料理の楽しさや機器の使い勝手の良さを強調しているブースが多く、旧来の業務用厨房につきまとった3Kイメージが、ここでは感じられなかった。

N社では、電気で良質な高温蒸気を発生させ調理する機械や、ドライ蒸気によって焼き物料理が調理されていた。蒸気は他のエネルギーと異なりエネルギーが極めて高く(蒸気1kg当たり約540kカロリー)、熱効率が高い点、電気式機器としての特性が十分発揮されている。

またS社は、マイクロ波加熱とIH加熱が一体となった業務用融合調理器「ハイブリッドクッカー」を展示していた。この機器は、素材を内側(マイクロ波加熱)と外側(IH加熱)から同時加熱するもので、うまみを逃さない調理を実現し、調理時間は従来よりも85%も短縮するという。

単品機器では、IH(電磁誘導加熱)機器の台頭が目立つほか、調理システムでは、クックチルシステムの販促が多く見られた。今後はこうした最新機器や調理システムを導入するために、運用面でのコンサルティングが極めて重要と考えられる。

●VDI2052の厨房環境に対する考え方

「VDI」は、いわゆる「ドイツ技術者協会」であり、「2052」は、厨房内の換気空調に対する「技術的指針」で、2006年に改定されている。また、厨房内のミストや油脂分の除去装置(グリースフィルターなど)の性能基準と、試験方法が詳細に示されているVDIガイドラインが追加されているヨーロッパでは、この規定に基づいて厨房の換気空調を設計することにより、一般に厨房の環境は極めて快適である。

VDI2052では厨房内の換気空調以外に、厨房の区画の考え方、作業者が受ける熱負荷の基準、室内温度、湿度、気流速度、防音、空気の流れ、換気量の設計方法、厨房機器から発生する廃熱を機種別に定量化した数値など、基準を定めている。また、これらの制御方法、測定方法、防火対策、運転・保守記録についても基準が定められている。

ところで、厨房の作業環境を評価する際、「ガス機器は放射熱が多くてちょっと……」「電化厨房は涼しいが、価格が……」と懸念する声も多く聞かれる。確かにそうした点もある。だが、厨房環境の良否を左右する原因はそれだけではない。特に国内の厨房設計では厨房機器の特性(潜熱、顕熱、断熱性能など)や、調理中の料理からの水蒸気の排出を十分考慮して設計していない。

この点、前記のVDI2052の基準ではあらゆる環境の影響因子を考慮して設計する。その基本は、作業者にとっての厨房環境のあるべき指針を守る姿勢と言える。例えば、厨房換気の計算には熱源別(電気、ガス、蒸気)、機器の熱負荷(顕熱、潜熱、水分)が機器ごとに表示されている。

さらに、同じ機器(例えばケトル)でもその容量が違う場合、熱負荷が変わる。また、排気フードの形状(例えばキャノピーフードや天井換気)や設置状況(例えば壁面など)が変われば計算数値が変わる。従って、厨房を計画する場合、単に厨房機器だけでなく、こうした因子を考えた厨房施設を設計する必要がある。

そのためには、厨房機器メーカーや機械空調技術者及び使用者が、従来手法の問題点を認識し、欧米方式を参考に検討することが適切と考えられる。

●高まる電化厨房の値打ち感

近年、各電力会社の電化厨房の販促活動の効果もあり、大型施設でも電化厨房の導入事例が増えている。かつては「電気は高い」というイメージが先行して、電化厨房は伸び悩んでいた。

しかし最近の輸入品市場では、電化厨房機器とガス式機器の価格を比較した場合、その差は少なくなっている。機種によっては同額の機器、あるいは割安なものもある。

今後、こうした電気式の機器がさらに普及すれば、イニシャルコストはガス機器に比べて、さらに安くなると期待できる。

●電化厨房のデマンドの改善策

電化厨房を計画する場合は、厨房で使用する電力のデマンドを下げるか、または上昇させないこともポイントになる。「デマンド」(最大需要電力)とは使用している電力(30分ごと)のうち、月間で最も大きい値のことを指している。同時に使用する負荷が大きいほど、この値も大きくなる。契約電力はデマンドが適用される場合が多く、電気料金の基本料金は契約電力に応じて決定しているため、デマンドを抑制することは電気料金の削減にもつながるのである。

ドイツでは「電力需要管理システム」によってデマンドをコントロールしている。また厨房機器には最大容量を超える直前にセンサーによって電源を一時的にカットする方法がある。しかし、調理工程によっては電源が切れると、料理に大きな影響を及ぼす場合もあるため、こうしたシステムでは、調理工程のデータをあらかじめ自動的にインプットし、例えば焦げ目を付ける途中で電源が切れることのないようにしておく必要がある。

こうしたデマンド監視システムは、現在国内でも使用されているが、厨房で使用されているケースは未だ少ないのではないだろうか。この点も電化厨房の普及にマイナスとなっていると推察されることから、大型厨房施設(給食センターやセントラルキッチンなど)では、上手に電気を節約し合理的に運営するシステムが必要となるだろう。

●電化厨房機器と食品衛生の関係

「電化厨房機器はHACCPに対応しやすく、衛生管理がしやすい」と言われるが、その理由は次のように考えられる。

まず、施設や機器を衛生的に維持するためには、こまめに清掃することが一番である。その点、筆者は「清掃困難を招く機器や、清掃できない機器は導入すべきでない」と考えている。なぜなら、清掃できない個所があれば、汚れは堆積し害虫のすみかとなり、食中毒の種をまいていると同じことになるからだ。その点、電化厨房機器では原則固定式の配管がガス機器に比べて少ないことから、ちりやほこりだまりが少ないと考えられる。また、「電気は水に弱い」という既成概念によって、必要以上に水を使うことが少ないため、微生物の繁殖が少ないと考えられる。

●求められる電化厨房の統一基準

電化厨房がより多くのユーザーに、適切に活用してもらうためには、ガス機器とは一線を画した電化厨房機器特有のシステムや基準の整備が不可欠と考えられる。例えば、電化厨房機器から発生する各種熱負荷はガス機器に比べて少ないが、これを従来通りにガスと同じ認識でとらえられると、換気空調設備などのメリットが享受できない。

衛生管理の徹底を図るためにも、電化厨房機器の統一した仕様・基準をメーカー単位ではなく、業界として確立すべきであろう。

((有)本山フードビジネス 研究所代表取締役社長 本山忠広)

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