トップインタビュー 名代らーめん「げんこつ屋」代表・関川清氏 独自の“文化”創造
「げんこつ屋」の屋号は味づくりに対するガンコなこだわりと、ひた向きなチャレンジ精神を表わしているのだという。
スープなどの食材は伊藤忠からと大手商社も注目する。小麦粉は群馬の星野物産から、チャーシューは種ケ島の黒豚、自家製ラード、塩は大島の天然塩、和風ダシは利尻のコンブにかつおとマグロのブレンドと徹底してこだわる。
スープの味は素材のニオイを出さないことも大事なポイントだという。麺は自家製で日本そばの考え方と同じで、水分を含む二時間以内に使い切る。具はスープ、麺、ネギ、チャーシューが基本で、必要以上に具を多用しない。
気迫とガンコな探求心で、独自の“ラーメン文化”を創造する。この考え方は器から設備システムにも及んでいる。
四店舗で年商四億円。明年1月、新横浜に麺、スープ工場と五店舗目の店をオープンする。
‐‐ラーメンづくりに大変なこだわりがあるということで、雑誌やテレビにいろいろと取り上げられていて、“ラーメンの革命児”といわれていますが、ご自分ではどう思われていますか。
関川 昭和55年に新高円寺(東京・杉並)に最初の店を出してから一三年がたちましたが、まだ店は四店舗ですから、何もこだわるほどの中味はないと思っているんです。
ラーメンづくりで一三年がたって、やっと本物がみえてきたという感じです。一口にラーメンといっても、味づくり、質の高さを追求すればするほど奥が深く、手間もコストもかかり、私が理想とするラーメンにはなかなか近づけないんですが、最近になってようやく自信がついてきたという段階です。
‐‐具体的にはどういったことですか。
関川 まず私が強くいいたいことは、ラーメンはその場所その場所においてそれなりにおいしいものがあります。インスタントラーメンでも大変な企業努力によって、おいしいものが出回るようになってきましたが、しかし、まだまだ本物にはほど遠く、私自身の味覚の合格点には達していないということなんです。不遜に聞こえるかも知れませんが、私は今でもそうですがいろいろとラーメンを食べ歩いていますから、それなりに味覚については自信があるんです。
‐‐ということは、関川さんが納得するラーメンがないということですか。
関川 私は実はラーメン店を始める前は神奈川の戸手町で弁当ショップをやっていたんですが、それをやめてラーメン店を開業したわけなんです。昭和45、46年ごろのことで、コンビニのセブンイレブンや小僧寿し、ほかほか弁当が出てきたころです。
一〇坪ほどの小さな店で、市役所や水道局、事業所に弁当の仕出しをしたり、オフィス街のパン屋さんに卸したりもしていました。
弁当の仕出しについてはタイガージャーにみそ汁やご飯を入れ、常に温かいものを出すというやり方で、大変に評判になりまして、一日三〇〇~四〇〇食、一日平均三〇万円くらいを売りました。従業員は私と妻、社員二人の計四人でした。
しかし、このビジネスは利幅が小さいので、収益力を高めていくとなると、大量生産販売でスケールメリットをあげていかないとダメだということが分ったんです。
それと、弁当ビジネスには元々乗り気ではなく当座の仕事としてやっていましたので、それで店をしばらくの間従業員に任せて、ラーメンを研究し始めたわけなんです。
‐‐大変に儲かっていたのをやめてラーメン店に転業ということなんですが、奥さんや従業員の考えはどうだったんですか。
関川 もちろん反対されましたが、私はどうしてもラーメン経営で成功したいと思っていましたので、グルメ情報誌などを参考にあちこち食べ歩きを開始したんです。
そのとき私は、これも生意気に聞こえるかも知れませんが、この程度のラーメンづくりなら勝てると感じたんです。つまり、私ならもっとうまいものを作ってみせると考えたんです。
‐‐それで結局は、一三年前に高円寺にその自信作の第一号店を出店したということなんですが、当時の客の反応はどうでしたか。
関川 店は六坪、一二席のミニ店舗でしたが、一日平均二三、四回転、月商四〇〇万円をあげまして、大当りを取ったのです。メニュー単価は四五〇円でしたが、一日当たり二八〇人の客数で、坪売上げ二万円以上という成果でした。
‐‐それだけうまいラーメンということだったわけですが、味づくりのヒミツはなんですか。
関川 ラーメンのおいしさはスープ味と麺の歯ざわりに尽きると思うんですが、納得いくスープづくりのために一〇〇回以上のティスティングを積み重ねまして、和風の味とパイタンスープの組み合せがおいしいということがわかったんです。
それで、スープ材料にもトリのもも肉、豚の背脂、豚足がらと、ショウガ、ニンニクなどを一二時間くらい煮込んだもののパイタンスープと、かつおぶしと利尻コンブでとった和風のダシをブレンドして、オリジナルのスープ味を完成したわけなんです。
‐‐コクのある味と淡白な味のブレンドということですが、麺の方はどうですか。
関川 上州産の高品質の小麦粉で製麺したもので、製麺は自社工場で造っておりまして、かん水を三分の一しか使っていない。これもオリジナルの麺です。麺は常にコシがあって固ければいいというのではダメで、ソフトな歯ざわりもなくてはスープとからんだときにおいしくないんです。
‐‐徹底していますね。
関川 でも、まだまだです。店は新高円寺、阿佐谷(二店)、渋谷と四店舗を出していますが、味づくりについて自己採点しますと、スープが五〇点、麺づくりが二〇点といったところでして、何一つこだわっている場合ではなく、これからが本物のラーメンづくりが始まると考えています。
‐‐それが、来年1月に完成予定の新横浜の工場と店で実現すると……。
関川 そうなんです。省力化を図ったシステム的な工場で、麺とスープを一貫生産しますが、醤油、塩と独自の味づくりをさらにステップアップしたものを提供する考えで、今その計画を詰めているところなんです。
‐‐ところで、将来の目標を。
関川 いま年商四億円ですが、私についてきてくれる従業員のために、企業としての収益力を高めて、豊かな生活を考えてあげたいこと、もう一つはラーメンの本場である北海道と九州での勝負、それから、このげんこつラーメンを世界の料理文化の中心地であるパリにぶつけてみたいということです。
‐‐すばらしい男のロマンですね。ありがとうございました。
(しま・こうたつ)