外食史に残したいロングセラー探訪(10)甲羅本店など「元祖いも娘」
女性客からの支持を得るためにスイーツに力を入れたいが、オペレーションの関係から、やむなく既成のものを提供している飲食店も多いことだろう。だが、「温める/盛り付ける」だけのシンプルな工程でありながらも、「素材そのままの味を楽しめ、飽きがこない」とロングセラーを続ける「元祖いも娘」というスイーツがある。
「『余ったサツマ芋がもったいないので、何か使えないか……』ということがきっかけだったようです」と「元祖いも娘」の開発について、(株)甲羅/関東商品開発部次長、長妻悟氏はこう話す。
この「元祖いも娘」は、今から20年前、同社の経営するろばた料理の店「かまど豊橋駅前店」(現在は閉店)で誕生した。
ある日、サツマ芋が余ってしまい、「このまま捨ててしまうのはもったいない」と、いろいろと試してみたところ、サツマ芋をふかしてペースト状にし、その上にバニラのアイスクリームを載せただけの食べ方が思わぬうまさであることを発見。そこで、このメニューに合うサツマ芋の品種などについて研究を重ねた上で商品化され、「かまど」以外にも、カニ料理専門店「甲羅本店」などで提供するようになった。
当初は、各店舗でその日の分だけを手作りしていたために、1日の販売数が限定されたいわゆる「売り切れご免」商品であった。しかし、次第に口コミで評判が広がり、開店後すぐに売り切れてしまうことも。そのため、まず「いも娘」を注文して先に食べてから、料理を頼むお客が多かった……という逸話もあるほどの「来店動機の一番のメニュー」へと成長した。
しかし、人気商品ならではの悩みの「類似品」が多く出始めるようになったため、「元祖」をつけた現在のメニュー名になった。
今では「かまど」や「甲羅本店」に限らず、甲羅グループの各店舗で出しており、店舗により値段や盛り付けなどに若干の違いがある。例えば、東京/新宿のカニ料理専門店「たらば屋」では、アイスクリームの上にサツマ芋のチップスをトッピングして提供している。
「女性の大好きなサツマ芋を使ったデザート」なので、圧倒的に女性客から支持を得ているのだろうという予想に反し、意外にも男性客からの注文も多い。時には男性のグループ客の全員が注文し、「元祖いも娘」を食べているといった光景も見られるほど、年齢や性別を問わず幅広い客層から愛されているようだ。
サツマ芋とバニラアイスだけという大胆な組み合わせだけに、例えばチョコレートソースをかけるといった「もうひと工夫」をしてしまいそうだが、あえて手を加えず、シンプルさで勝負したところが、ロングセラーの秘訣なのだろう。
●店舗データ
「甲羅本店」/経営=(株)甲羅/本社所在地=愛知県豊橋市東脇3丁目1─7/開業=1974年4月/カニ料理専門店「甲羅本店」をはじめ、「赤から」「カルビ一丁」「韓菜家」などさまざまな業種業態を全国で展開している。
◆元祖いも娘(450~550円) 1日食数=約170食(56店舗合計)
現在は手作りではなく、バターや砂糖などを加え、あらかじめペースト状にしたものを各店舗で使用している。
サツマ芋を完全にすりつぶしてしまうのではなく、あえて「つぶつぶ感」を残した状態で仕上げることで、サツマ芋の食感と香りを楽しめるという。
このサツマ芋のペーストは約40度に温めてあるため、溶ける分を計算して、アイスクリームをたっぷりと多めにのせるのがミソ。
溶けたアイスを、ソースがわりにペーストとからめて食べることで、どこか懐かしさの漂う、やさしい風味が生まれる。
10年前からは姉妹メニューとして、かぼちゃのペーストを使った「かぼちゃ娘」もデビュー。こちらもなかなかの人気だそうだ。