トップインタビュー:あさくま会長・近藤誠司氏
新体制スタート間もない8月「われとわが社を救う決死の一八〇デー」と位置づけ、全てに優先して全社員が総力をあげて問題解決に立ち向った。
「水は上から濁るという諺があるが、わが社では7月の役員会で次のことを決めた。
それによると、(1)一部、本部の閉鎖(2)ある一定の収入以上の幹部の給与を一律にし、それで集まる一八〇〇万円を売上げ増に結びつけるためのPR費用に使う(3)営業上の指示は各店を回る移動本部とし、それ以外の全員を各店に配属させ、六カ月間平均して二〇%の売上げ増をはかる(4)現在、進められている企画は特定のものを除き六カ月間凍結させる(5)これにより第二一期の決算数字を売上げ一六七億円、利益一〇億とし、近藤栄一新社長の公約「三年後の公開」を全社員で死守する-という新第一次事業年度がスタートした。
正に、厳しい時代の生き残り戦略の第一歩だ。近藤会長の発案によるこの社内法律はすでに着々と実践に移されている。その第一段階の企画が10月29日(肉の日)に全店で一斉に行われる「創業三〇年、あさくまニュー・メモリアル・デー」である。
「創業の時、あさくまは何を考え、何を目的に今まで外食業界をリードしてきたか。創業当時の原点に帰り、その精神をお客さまに認識していただき、社会問題としてこの三〇年間を提案していく」ことがその大きな目的。
「創業当時、確かコーヒーが五〇円、サラダが二〇〇円、そしてあさくまステーキは七八〇円だった、と記憶している」と近藤会長は語る。
10月29日は全ての店で創業当時のメニュー単価でお客さまに還元し、同時に三〇年の歳月の流れと共に現在の豊食時代を提案していくというのが大きな狙いだ。また、一定収入以上の社内幹部による一八〇〇万円を全てこの企画にあてる。その翌日には料理メニューを一新させ、サービス、ムードも併せて全ての店をニューあさくまとする。
「あさくまの本来の使命は何か。街の中のあさくまの役割はどうあるべきかと考える時、確かにクイックサービスでおいしい料理を提供することには変りはない。コンビニエンスのなかにおいしい料理を提供してきたことも事実だ。そのなかで、シティ・イン・リゾートの店でおいしい料理、おいしいワインを飲んでいただく。さらに、もっとしゃれた料理を召し上っていただくことで生活の質をグレードアップさせる食文化提案者としてのあさくまの使命がそこにある」と強調する。
市民のためのリゾートとして二〇〇〇円から二五〇〇円でムードのある店でおいしい料理が食べられる、というコンセプトを構築していく。
「もともとあさくまはディナーレストランとしてスタートした。現在、不況だからといって安い料理メニューだけを並べるのではなく、もっと値うちでしかも高質の料理を提供していくことが社会的にみても大きな使命だ。これらを中心にした料理メニューづくりが大きな課題」という。
さらに「ステーキが家庭で食べられる機会は多くなった。勿論、当社自慢のステーキをはじめローストビーフなどの肉料理はあさくまを代表するメニューである。私は二五年前、時代の先端をいくコックレスを導入してきたが、これからはキッチンレスの時代を先取りしていく必要性が高まってきた」と考えている。
「ファーストクラスの機内食ではオーブン、フライヤーがあるわけではない。全ての料理は温く、サービス満点で乗客に提供される。それである。全ての店のキッチンを無くすのではなく、高質でしかもおいしい料理をオーブンやフライヤーなどの調理器具を使わずお客さまに提供していく-この実現は不可能なことではない」とキッチンレス時代を予言する。
「これにより、高価でもなく高級でもない高質のローストビーフを二〇〇gで一五〇〇円を割って提供していきたい」と語る。第二次事業年度に掲げられている「平日一〇〇万円売上げ」の目標達成のためにもこのキッチンレスは早期実現の課題とみた。
一方、今後の出店計画について近藤会長は「年内オープンとして三店舗の計画を進行中である。当社では過去に三〇店からのスクラップを敢行してきた。商業立地の移動、競争力などによる要因からスクラップ・アンド・ビルドは欠かせない。
このあと、来年2月からスタートする第二次事業年度の事業部制による建築グループの事業部が今後の出店について独自の企画を推進し、最終的には全国四〇〇店の展開を目指す」と21世紀を先取りする「ニューあさくま」の構想を熱っぽく語った。
(文貴・楢橋)
◆取材メモ
ステーキレストランのあさくまは外食、レストラン業界の先導、改革役を常に果してきた。
創業者近藤誠司会長は25年前、時代に先駆けてコックレスのセントラルキッチンを導入、フードサービス業界の先取りを進めた。バブル経済が崩壊した今日、苦戦を強いられるなか、あさくまは全国一〇四の店を自らシティ・イン・リゾート(都会のオアシス)と名付け、真の食文化を消費者に提案、一方では現場サイドから二名の「パートさんの取締役」を登用し、ボトムアップの役員人事を行い、内部改革をはかった。
また、社長を近藤栄一氏に引継ぎ、長男の裕貴氏を副社長に昇格させるなど、次世代を展望した役員人事を行い、「ニューあさくま」の新体制をスタートさせた。