座談会・日増しに進む水道水の汚染 飲食業界への影響とその対策を探る
ここ一〇年くらい東京、大阪など大都会の水道水が急速に悪化している。工場排水、それに家庭からの生活排水による水源の汚染が原因とされているが、さらに加えてそれら汚染の排除と殺菌を目的とする浄水場の塩素等薬類の投入も悪化を促進する要因になっている。この結果、ミネラルウオーターや水道の蛇口に取り付ける浄水器が消費者の人気を呼んでいる。ところが、その半面、水を主原料の一つとする飲食関係業界の水に寄せる関心がいま一歩足踏みしているように思われるのはどうしたことだろう。そこで今回、業務用浄水器のメーカーの方々にお集まり願って、その実情をうかがうことにした。
◆出席者(順不同)
(株)日水コン中央研究所長(司会) 小島貞男氏
エバーピュア・ジャパン(株)ゼネラルマネジャー 福井正治氏
(株)メイスイ取締役 永井秀樹氏
(株)鈴木商行常務取締役 鈴木廣義氏
三菱レイヨン(株)クリンスイ第2部長 権田孚氏
学校法人服部学園理事長服部栄養専門学校長 服部幸應氏
小島(司会) 私はこれまで、水のことばかりやってきましたので、料理のことは全くわかりません。しかし私がかねがね感じていることは、最近は家庭用の浄水器とびん詰の水が非常なブームを呼んでいるのにどうしたことか、料理関係業界では浄水器に対する関心が非常に薄いということです。むしろ料理関係の方々こそ、味については専門なのですから、そちらの方から関心が高まって当然のはずなのに、味については素人の家庭の方が水の味について関心が高まってきたという現象について、私は非常に不思議に思っています。
私のわずかな経験ですが、豆腐の味は水によって左右されると聞いています。
これまでも東京都内には杉並浄水場といって、おいしい水を供給しているところがあって、私は「東京の中の特級水だ」と言っているのですが、ここの水で作られたお豆腐は、とてもうまいという評判で、わざわざそこまで買いにくる人がいるはどです。
それから京都のお豆腐も同様で、かつて地下水は危険だから、今後は水道水を使用せよということで、全部水道に切り替えたことがあるのですが、まずくてとても食べられたものではない。「京都の豆腐というのはうまいといって昔から定評があるのに、こんな豆腐を作っていたら、せっかくの評判を台なしにしてしまう」といって業界が陳情したため、現在では、またもとに戻って地下水というか、井戸水で作っています。
このくらい水というものは食べ物に大きな影響を与えるものです。
また会席料理などはとくに水の良しあしが影響するようです。水が悪いといい料理ができない。その昔、もう亡くなられましたが、辻留という会席料理の店主で辻嘉一さんという人とお目にかかった時に、「うちには二つ店がある。一つは青山の店で、もう一つは銀座の店だが、青山ではおいしい料理ができるのに、銀座ではうまい料理ができない」とおっしゃるので、「それは水が違うからでしょう」と申し上げたところ、「さすがに専門家は違う」とおほめにあずかりました。当時、青山へ供給されてくる水は、明治時代からの方法で、薬品を使わずに浄化していました。そのおいしい水を宮中に供給するために、青山通りにそって流しているので、その途中のお店や住む人々はおいしい水が飲めたわけです。もっとも現在はブレンドされているので、必ずしもそうとは言えません。一方銀座のほうは、江戸川からとっている水で、昔はいまのように汚れてはいなかったのですが、やはり味がひと味ちがうんですね。
ということで、水というものは料理の味と関係が深いと思うのに、どうして飲食関係の方々が無関心でいるのだろうか、不思議でなりません。
水が簡単においしくなるということは、すでに皆さんご存じのことと思うのですが、「現在では昔のようなおいしい水が手元でできるのですヨ」と改めて教えてあげれば、「なるほど」と納得されるのではないでしょうか。
そういう話を皆さんも現場で需要家と接触されて、いろいろな事例をご存じと思うので、お互いに披露されて、これからどういう方面に、どういう方法で進めていったらいいかということを、お話し合いをしていったらお互いにいいのではないかと思います。
そこで、その前に皆さんでは現在どういう浄水器を作っておられるのか、特徴なり、開発の契機などについて各社から伺いたいと思います。
福井 当社の浄水器はもともと、アメリカで開発された商品で、日本に入ってきたのは一九六七年、万博の年の二、三年前のことです。
主にプリコート・タイプといって粉末状の活性炭を水に溶かしたような状態で濾過膜に着ける方法です。
この方法ですと、均一に濾過膜の面に活性炭山付着して、面のどこを通っても、活性炭層を通ることになり、臭いとかそのほか不純物がとれるということで作られたものです。
現在でもこれが基本的な方法で、従ってメーン商品はかわっていません。
それからもう一つは、アメリカというお国柄として、販売後のメンテナンスが隅々まで行き渡らないというきらいがあることです。そこで誰が交換しても容易に出来るようにと、途中からメーン商品を、ワンタッチの形で、カートリッジごと使い捨てにしたのが、当社製品の特徴になっています。これらは現在でもメーン商品として流通しています。
小島 活性炭というのは最初一回入れるだけですか、あるいは洗浄して再利用するのですか。
福井 以前の製品は、工場のプラントとまったく同じように、濾過膜と活性炭を別々に入れて使っていたのですが、いまでも、大型のものにはその商品が残っています。それは濾過膜をそのまま残して、その濾過膜を洗って、消毒して、新たに粉末活性炭を入れるというものです。
しかし現在のメーン商品は始めから活性炭が浄水器のカートリッジの中に入っていて、それを一回使ったら使い捨ての形になっています。これは一つには衛生面の上で、活性炭に新たに入れ直すと、雑菌が発生しやすいとか、いろいろ難しい問題があり、しかもその取り扱いは、特殊な業者しか出来ないということで、そうなると、普及しにくいので、現在では使い捨てが主流になっています。
永井 当社の浄水器は私の父である社長が、いまから二一年前に、当時、関西地方、特に大阪では非常に水がまずくなってきたという問題が発生し、それに対処して手作りで始めたというのが当社浄水器の起源です。
いまの福井さんのお話とは別の意味で違ってくると思うのですが、当社は、今は浄水器の専業メーカーですから浄水器の正しい使い方をこまめにやっています。従ってメンテナンスについては、当社に登録されたお得意様に対し、半年ないし一年ごとにコールして、当社の方から出向いて行って、古い浄水器を回収して、新しいものと交換する。回収してきたものについては、産業廃棄物等の問題を含めて検討し、再利用できるものについては、できるだけ再生利用する。
粒状活性炭、粉状活性炭、それに中空糸膜というものを部材に使っていますが、粒状活性炭については、回収したものについて、違った方向へ再生利用することを目下研究開発中です。
例えば家庭の廃水処理などに、いま申し上げた使用済の粒状活性炭を、もう一度洗浄逆洗して使うことができないかといったように、どうやってリサイクルを進めようかと考えているところです。
いま福井さんのおっしゃったアメリカのような広大な敷地の中でのメンテナンスの在り方と違って、当社の場合はできるだけ機動力を生かして、キッチリとエンドユーザーさんと長い接触をはかって行こうということをモットーにして、特に外食レストラン、ホテルといったお客さまとは、一〇年、二〇年という長いおつきあいをして頂いています。
鈴木 当社は元来は厨房の総合設備事業を中心に発展してきた会社で、大正9年の操業で総合設備の企業としては、わが国最初の企業です。
長い間厨房の総合設備をやってきた中で、特に最近は水について、エンドユーザーの方から質問も多く、水の問題が大きく取り上げられるようになってきました。
当社は総合設備といった立場から設計からすべてをやっていますが、昨今はただ浄水という問題だけではなく、衛生上の安全、さらには味という観点から、いかにすればおいしい水が出来るかということについて、ユーザーの方々からいろいろと質問をうけるようになりました。そういうことで当社としても、その方法を模索していた時に、ある研究者の方が開発された水の造り方、私どもではアダムズエールと名付けていますが、コーラルサンドを利用した浄水器を製作することになったわけです。
コーラルサンドはサンゴの化石を高温の高炉に入れて、数時間焼いて、完全にかつ純粋なコーラルだけを選び出したものですが、それだけに大掛かりな装置が必要です。しかし、コーラルサンドを通すことによって、水を浄化し、なおミネラル化を促進させることができます。
ご承知のように、人間始め、地球上の生物はその昔、海の中から出てきたものといわれており、そのため生物の血液も海水に似ています。
サンゴはその海中で成長し、育ったサンゴ虫の排泄物のかたまりで、この五万年から一〇万年前に死んだ化石を利用するということですから、自然の理にかなったものだということも出来ます。
対象がサンゴだけに公害との関連も考えたのですが、自然破壊といった心配はまったくないということが分かりましたので、その先生と相談して誕生したのが、アダムスエールです。
コーラルと活性炭を併用して水を通します。コーラルにはいろいろな成分が豊富に含まれていますが、特にカルシウム分、炭酸根とかいったものが非常に多く入ってます。それで小島先生の書かれた、おいしい水の条件ともかなり一致するところがありまして、それではやってみようということになり、すでに始めてから五年目になります。紆余曲折しながら最近では多くの方々から関心を持っていただけるようになりました。
原料が原料だけに、価格が高いため、現状は高級店が中心となっていますが、将来は値段も安くして需要層を広めてゆきたいと思っています。メンテナンスの充実についても検討を進めています。
権田 当社は社名にレイヨンと文字が付いているように、もともとは繊維メーカーです。現在でも依然として繊維が大きな柱でして、そのほかプラスチックなどもつくっています。
この二本の柱の外にもいろんなことをやっていて、実は浄水器、当社では清水器といっていますが、これは一九八四年からスタートしました。一見なんの関係もないような会社が浄水器の分野に入っているようですが、会社自体としては水とは関連が深く、例えばレイヨンのような繊維をつくり、あるいは繊維を織物にする場合にもかなりの量の水を使います。ということでもともと水とは非常に深い関係にあったといえます。また、グループ内には水に関連した事業を行っている会社も数社あります。
そうした関係から、あるきっかけをつかんで、世界で初めての中空糸膜を使った浄水器を市場に出してきましたが、現在でちょうど一〇年目になります。
今の日本の市場で、家庭用浄水器の主流をなしているのは、ご承知のように活性炭と中空糸膜を主な構成要素としているもので、当社ではポリエチレンを使った中空糸膜を使っています。
ハードウェアについては、当社としては、特に今日の問題になっている業務用については、やはりプロに使ってもらえるものでなくてはならないというプロフェッショナル志向と、当然長い期間大量に使ってもらうものですから、エコノミカルなものでなければいけない、そしてさらに今後のことを考えるならば、例えばアメリカの厳しい規制にも耐えるようなグローバルに通用するようなインターナショナルのものでなければならない、というように考えて、いろいろ努力しているところです。
ハードウエアはそういうところですが、私は現在アンダーシンクタイプということをやっています。それはシステムキッチンとか、あるいは家の部材的な要素が非常に強い、従って長期間のメンテが要求されるということで、当社自体としても一般家庭用の浄水器について非常にアフターサービスなどを重視してサービスセンターなどを設けていますが、このアンダーシンクのため、さらに自社だけではなく、社外の協力を得て、やって行く体制をようやく作りました。
現在当社が目指しているのは、世田谷のお客さまも、那覇のお客様も、旭川のお客さまも同質のサービスが受けられるということで、まだ足りない点があるかと思いますが、ぜひそういうサービス体制を確立したいと、ハードウエアばかりではなしに、サービスウエアということを重視して行きたいと考えているところです。
小島 さきほども申し上げた通り、私は料理のことはまったくの素人なので服部先生に料理と水の関係とか、料理にとって浄水器がどういう位置を占めるのかといったことについて伺いたいと思います。
服部 小島先生が先程おっしゃったことは、私もまったく同感です。
私は現在水と塩について興味を持っているのですが、やはり塩も塩化ナトリウムイコール食塩だと思っている人がたくさんいるんです。そのへんについても、もう少し普及活動をしなければと思っているところです。
そのほかにエコロジーアンドリサイクルということで、農水省の委員のご指名がありまして、動きはじめたのですけれど、実は家庭排水自体が汚染の六八%くらい占めている。実際に日ごろ炊事場で、私どもが残りの味噌汁から、残った醤油といったものまで捨てるわけです。中にはバターの一部、あるいはオイルの一部が捨てられる。そして洗濯機の中からは中性洗剤ばかりではなく、だいぶ汚れたものなどが出てきているのに、これをどこも規制していません。今から二〇年くらい前、工場排水等の規制がやかましくなり、Gメンなどができて、かなり厳しく検査など行っていましたが、当時工場排水等が汚染全体の八割から九割を占めていたようですが、現在ではそれが一割以下くらいになっていて、むしろ家庭自体がその汚染発生の元凶になっているという事実を知って、これではいけないと運動を始めたところなんです。
ところで私の学校に地方から出て来ている学生がいるのですが、この学生たちが「学校で炊いたご飯がまずい」「椀物の汁を飲んでもまずい」と言うんです。
そこで考えてみると、われわれはもう長い間、東京の水を安心して飲まされてきて、それで慣らされてしまった。まあ塩素さえ飛ばしてしまえばなんとかなるのではと思っていたのですが、ご承知のように生活の場がビルになってくると、屋上に大きなタンクを据付け、一度そこに水をみんな吸い上げて、またそこで汚れた水が、下に降りてくるという、そういう設備が多く、その途中でだいぶ汚されてきている。大元の屋上のタンクのところに、濾過装置をつければいいということで、業者の見積もりを取ってみると、とても学校経営の採算ベースに乗らないと思われるほど高い値が出てくる。そこで現在では必要な部分部分に付けているわけですが、大元に付けたいというのが私の夢なのです。
さて、この問題はひとまずおくとして、次にどの機種を選ぶべきかというとき非常に迷いを生じてしまう。レストラン、料亭、ホテルなど新しく建てるところは初めから組み込みで、元になる所に浄水器を付けるというところも増えているようだが、しかし、既製のところに、それを改めて付けるとなると、さっきのような計算が出てきてしまうのです。最初からそういう物が付いていないので、壊してそういうものを付けるとなると、われわれの普通の観念でいうと水がものすごく高いものになる。
それではどこの機種にするかというときに、セールスの人が来て、いろいろとお話されるのだが、それぞれいい特徴をみんな持っている。しかし、半面ではデメリットはなにかと考えるとよくつかめないというのが、ユーザーとしての一般の考え方ではないでしょうか。
付けることは大事だということは分かっていても、それはこういう特徴がありますよ、これを使えば非常においしい水ができますよ、メンテナンスはこうですよ、と何社か来ていただいて、お話を伺っていると、それぞれみんないいんですね。
次に一般家庭に売りに来るセールスの人たちには歩合制の人が多いんです。歩合制が悪いということではないのですが、たまたま、初めて家へ売り込みにきた方がいて、次にアフターケアをしてもらいたいと思ったら、その会社がなくなってしまったんです。
それで電話をして追っ掛けて追っ掛けてやっとつかまえたら、「あの当時は浄水器の販売をやっていましたが、いまは他の仕事をしています」とつれない返事です。そうなってくると信頼性の問題とかいろんなことに、ハネ返りがでて、安心しておいしい水が飲めないということになってしまう。
これはどんな商売でもそうなんでしょうが、特にそのへんが非常に実際に当たったところで感じました。「つい最近のミネラルウオータープラスイオンだ、マイナスイオンだというのがあるが、それも実は数件私のところにクレームが来ていて、初めに家に来た人がもういない、実際二クールとか三クールくらいで他の商売にかわってしまう。このへんをキチッと正していただくと、こういうものに対する信頼感がもっと付くのではないかと感じました。
小島 ところで皆さんはいろいろの会社にいかれたり、いろいろの人に会われたりして豊富なご経験を持っておられると思いますが、ご披露願いたいと思います。
福井 水量の問題についてですが、実は当社では発売の当初から一番お客さまからクレームをつけられた問題なのです。基本的には一定の性能をだすには、この大きさの浄水器では何リットルまでということで検査を通っています。それはもうご存じのことですが、NSFの規格をとらなければならない。それをとる時は当社の浄水器を最大に使うには、何キロの水圧で、一分間に何リットルでるということで取っているわけです。
それを基本にして、設計を行っているものですから、アメリカから日本に持ち込んで、一番お客さまへの売り込みで困ったのは、水量が出ないということでした。「よその浄水器はこの三倍か四倍出るのに、お前のところでは出ないではないか」といわれました。当社の浄水器は始めから出ないように押さえられている。同じ濾過膜であれば、濾過面積で水量は決まってしまいますから、そういう設計からできたものです。
それをうちの方で解決するために、私どもではヘッドと呼んでいますが浄水器に水道水が入ってきて、浄水器を出る部分のところですが、これを今アメリカでは五種類持っていますが、要するに長さでもって、表面積を大きくしようということでやっているわけです。それで私どもの方でも、三種類の大きさの浄水器を準備して、「お客さまがそれだけの水量を使うなら、これでなければ駄目ですよ」ということでやってきたのですが、それだけでもやはり間に合いませんでした。現在は、一本の浄水器ではなく、四本を並列にして使っています。
その四本の浄水器を並列にするので、一本一本に入ってくる水量が分散されますから、全部から出てくるときにはある一定の水量以上に出せるわけです。そういう形のものが最近ではアメリカでも主流に代わってきてしまいました。一本で使うような需要家ははとんど無くなったようです。
それからもう一つは、どこの家庭用浄水器でもやられていることですが、中にプレフィルターというものを付け、大きなゴミだけ先に取ってしまい、それでもって小さいゴミしか次の濾過膜に付かないようにしようという形ですが、私どもでは別にプレフィルターを一本システムに組んでいます。それである一定以上のゴミを取ってしまい、その後に並列の浄水器で小さいゴミを取ってから、水量を確保する。自然そういう形になると、スペースも必要なものですから、圧力計をセットして、目視で圧力が下がったら浄水器のところにゴミが詰まっているのですから、交換しなさいよということで、逆にお客さまの方でも、納得するような形で交換しています。
それ以上の条件を、例えば「いちいちそんなものを見てはいられない」といった要求をされるお客さまもありますので、その場合は圧力スイッチを組み込んで、ブザーで知らせる、といった方法を取っています。
いずれにしてもお客さまのご要望は限りがなく、「スペースがないけれども水量を出せ」「よその物は水量も出る。スペースも少なくてすむ」といった状態ですが、私は当社のセールスマンには「スペースが小さくて、それで小さい浄水器でたくさんの水が出せる商品は当社ではつくれない。もしそれ以上の性能が要求されるなら、そちらを付けてもらえ。それ以上無理して売ると、必ず後でトラブルが起きる」といっています。事実、セールスが無理して売り込んだところは後で、「水量が少ないから使い道にならない」といったトラブルが必ず起こっています。
従って当社としては現在用途によって国内向けに四〇種類くらいの浄水器を持って販売しています。
それでもまだ営業の方から出てくる話では、お客の要望の半分くらいしか満たすことが出来ないといいます。しかし、そこまでお客さまのところへ行って細かい相談できる営業マンでなければ、この商売は難しいということです。いいかげんに売ってしまうと、後で必ずクレームが付きます。
ただつければいいだけだと、もうこれからは残っていけないと思います。
永井 小島先生が言われたように水に対する認識そのものがまだまだ全体に足りないように思っています。ビルを建てる方も、それをマネージメントする方も要求だけはされるのですが、水についてどういうものがうまくて、どういうものが安全で、ということに対する認識というものがまだまだ残念ながらあまり高くないといえるのではないでしょうか。
とくに水というものを扱っていると、非常に奥深いし、わからないことばかりですが、なにがおいしいかということだけでもなかなか難しい問題です。地球は三十何億年前に誕生して、惑星である地球をこういう状態に保ってきたのが水の循環だったといわれています。水を知ることは、生命の根源にふれることになるといわれていますが、たまたま日本という国は昔から山紫水明の言葉の通り、美しくて、しかもうまい水に恵まれてきました。そこで、もとの水に戻すことが、浄水器の役目ではないかということが、当社の基本的な考え方です。とくに何かを加えたり、電気で分解したりといった考え方よりは、むしろもとからある自然の水にする。日本の水は、いろんな料理にも、とくに日本の料理には適した水です。当社はこの水にいかに近づけるかということで、今の浄水器の開発を進めてきました。
ところで現場の話なのですけれど、やはり早くから導入されているところは、発売以来二〇年にもなりますので長い間ご愛好をいただいているのですが、実は料理をなさる方でもアルカリの水がいいんだという認識をお持ちの方もおられますし、逆に浄水器の水を使ってダシを取ったら早く腐ってしまったとか、そんな話が現場から出るくらい、まだまだどういう水がいいのかという問題には多種多様の思いがあると思います。しかし始めに水があり、その水の中から生物や人間が誕生した事実がある限り、人工的に汚されていない自然界の水が一番適しているのではないかということで、当社は販売を進めています。
バリエーションの方もそれに合わせて出来るだけ持つようにすることと、当社の場合現場に行って交換などをしますので、その場その場に応じましてフィルターを噛ませるとかいろんなオプション的な対応をしています。ただこれもスペースの問題等もあるのでお客さまとの間にいろいろと話し合いを持ちながら進めています。
それと服部先生からお話があったセントラル方式、ビルそのものの全体の水をきれいにするのは経費がかかり過ぎるというお話でしたが、実際にその通りです。雑用水用と飲料用と別に敷設しなければいけないと問題があります。風呂用、洗濯用にこれ以上良い水が必要なのかということもあり、やはり浄水器が、当面の善後策ということになるのではないでしょうか。日本では、水への関心は今始まったばかりです。これからいろいろと論議され、やがて水への正しい認識が広まることを私は願っています。
鈴木 いま出水量についてのお話がありましたが、私どもでは厨房の設計から営業まですべて現場のコックさんと直接打ち合わせています。その時の出水量が、常に大きな問題になります。たしかにコックさんにとっては、安全に、少しずつ出ていたのでは、商売になりません。必要の時はドーッと出るし、不必要の時はピタッと止まっているのが一番いいわけです。
それから浄水器にしても、この料理にはその機械、あの料理にはこの機械と最も適したものが付いていればいいのですが、一個ですべてを兼用し、配管で所要の所まで持ってきてくれといった要望には、「それはやめた方がいい」と答えています。
やはり必要なところに端末を一個ずつ置くのでないと、配管の中でも、一旦浄水した水は弱いですから、またそこで雑菌を発生する恐れがあります。そうすると朝一回溜まった水を出してしまわないと、きれいにならないといった問題もあるし、「そんなことができますか」と言うと、「そんな面倒なことは出来ない」ということになってしまいます。
とくに最近は、現場で働いている方というのは、仕事が終われば、すぐに帰ってしまいます。しかも朝出てきたらすぐにそのまま水を使って仕事にかかりたい。昔の人のように終わってから一時間、レンジのトップを石で磨いて、それが修行であって、それをやらなければ一人前になれなかった時代ではなくなってしまいました。
とにかく使い捨て時代といいますか、自分たちでメンテすることはほとんど考えないのが実情ですので、できるだけ使用目的にあった商品をお薦めしますが、特に水量については、無理なことは絶対に受けられません。それでも言うなら責任は持てませんということにしています。
これは私どもの機種でも最高出しても毎分の出水が七リットルというのが上限でそれもかなりきついわけです。普通ですと三リットルが限界ではないかと思います。ところが三リットルでは絶対に業務用では満足しません。大体指の太さくらい出ませんと、「こんなものが営業用には使えるか」といわれてしまいます。そこが一番痛いところです。
また水量を一杯出すとどうしても活性炭の中に水の道が出来てしまって、いつも全体に均等に通らないという欠陥も生じます。
そのほか店舗の改装などの時、ついでに浄水器をつけてくれというようなこともありますが、その設置場所の選定が非常に難しい。すぐ隣にレンジがあるとか、あるいは縦につけるか、横につけるかといった問題、あるいはメーカーによっていろいろなつけかたもあり、難しい問題です。
それから味のことですが、味と一口に言っても、例えば和・洋・中といろんなものがありますが、スープとかお澄ましなどを作るときには浄水器は非常に効果がありますが、ごった煮などでは、別にスープを大掛かりに作る時ははとんど水の効果ということはわかりません。そう考えると、味の良しあしというものは、ある意味では、信仰的とでも言いますか、信じてしまうことが強いと思います。これがおいしいという定義があるわけではありませんから、独断的な判断に陥り易い。それが水というものだと思います。
だから大阪は水が悪いというので大阪の人にそれを言うと、「とんでもない、俺たちはこの水で先祖代々生きてきたのだ。実際は世間で言うほど感じてはいない。お江戸の人があまり心配するな」と言われてしまいました。(笑い)そういう意味で水というものは非常にむずかしい物だと思いました。
当面水を考えながら料理を作っているのだという人もいますし、こういったことが浄水器の普及を妨げている原因ではないでしょうか。
この後、何か法的に規制ができれば別ですが、半面そういうものを作ると国際的な問題になるとか、いかに浄水器を業務用の中に浸透させるかというのが本日の議題ですが、そのためにはお客を説得する材料が信仰的であっては駄目で、科学的で説得しやすい物をわれわれ自身が考えていかなければならないし、先生方にもそうしたことを研究していただきたいと思っています。
権田 私はこれまで浄水器の事業に五年間携わってきました。
その間、一般家庭用の物、それから現在やっていますアンダーシンクとか業務用の大型の物、そして輸出については全部のタイプということで、現在も国の内外を問わずマーケティングに従事しています。
その過程において、国の内外、あるいは製品のタイプを問わず直面する問題というのが三つあります。
その一つは経済性の問題です。私は活性炭と中空糸膜を組み合わせたシステムというのは、日本のような軟水の水道水を濾過するという点においては、コストパフォーマンスで一番優れていると思いますが、例えば集合住宅などで、タンクによって水が汚染するとか、あるいは水圧がいちじるしく弱いとかといった場合には、中空糸膜というものは非常に敏感なもので、逆に早く目詰まりが起きるということもありましたが、この点については、私どもの膜の改良を努めることによってかなりカバーできるようになりました。従来に比べれば、かなりたくさんの水を使われても、寿命は逆に長くなってきていて、解決に向かっています。
二番目の問題は、水が著しく悪いときには、浄水器の効果というものは非常に単純に分かるわけですが、むしろ臭いがあまりしないとか、従来から水がいいという意識をもっているところに売り込むことが難しいということで、先程雑菌の問題がありましたが、現在は雑菌の問題は当然のことながら、それ以外の物質でも、ごく微量の有害物質を長期間飲んだらどうなるかわからないものがたくさんある。従ってそれも出来るかぎり取り除こうというのが、浄水器の大きな使命になりつつあるのではないかと考えています。その典型的な物が鉛だと思いますが、例えば当社のアンダーシンクの場合ですと、先程濾過量の問題が出ましたが、五リットルで出したものを、あえて四リットルとか四・五リットルに下げても取れる能力を強化して行こうということでやってきましたが、将来のハードウエアを改良して、ごく微量のPPB級のものでも、出来る限り取るようにする仕組みの完成が使命であると同時に、やはり先程からお話が出ましたように、消費者に訴えて、教育に近いものをやらしていただくこともメーカーとして当然やらなければいけないことではないかと思っています。
三番目としては、サービスの問題で、オモチャとか雑貨と違って、売ったらそれまでということではなく、やはりある期間はフォローして、面倒をみていかなければいけない。
従っていかにいいシステムを作って信頼関係を築いて行くかということが重要だと思っています。
服部 実は、このところお米の食べ比べをやって欲しいという要望が、農協などから申し込まれたり、またテレビなどでも、水の飲み比べと、お米を炊いたときの炊き上がりが、普通の水と浄水器を使った水とではどう違うのかといったことを大分やらされました。
ブラインドテストで何人かがやるのですが、先程鈴木さんからお話があったので思い出しましたが、ご飯を皆さんがブレンドで食べると大部分の人にはその区別がつきません。そんなことでついに番組に上らなかったことがありました。(笑い)
水は一度煮沸して塩素を飛ばしてしまうと臭いもしないし味が分からなくなってしまう。だから、小島先生が言われたように、九七~八%が水から出来ている豆腐などといったものならよく分かるのです。しかし、そうではないものはなかなか分かりにくい。ただ「これは今ミネラルウオーターを入れて炊きました」とか「これはミネラルウオーターを使った料理です」といわれると「そうですか」と言って皆さん気合を入れて食ベるのでおいしく感じられる、これは事実だと思います。
ですからそういうことも、われわれは一リットルの蒸留水の中に塩と砂糖とうま味調味料そのほか一〇種類ほど入れて、飲み分けをやるのですが、大体たばこを吸わない人で、確率としては八割くらい当たるのですが、かなり訓練をしている人でやりますと、何となくこれは怪しい、おかしいとわかるんです。そうでないかぎり皆さんわりとそういう意識というのは食べ物にはないようです。ただ、先程来のお話の中に、水に含まれている有害物質の問題がありましたが、これは現実に体に蓄積されて行くわけですから、ぜひ取り除かなければいけないことは、皆さんが分かっているのですから、この点で浄水器の存在に大きな意義があるわけです。
今日は浄水器のメーカーの皆さんが居られるわけですから、浄水器の効果を高く評価しなければいけないと思うのですが、ある学者の方とお話していた時、「地球はあと三〇〇年の命ですよ。三〇〇年で地球上の生物が全部死に絶えてしまう」というので、「それはちょっと極端すぎるのでは」と答えると、「長く見積もって三〇〇年で、現実には二〇〇年だ」というのです。「このまま汚染が複合的に進んで行くと、いま水道の末端に浄水器を付けるのと同じように、いつも体には、防塵、防火、防水の機能をもった衣服をまとうのが将来のファッションになるだろう。少なくともあと五〇~六〇年後にはそうなるはずです」と言うのです。地球環境自体いま異常な気象、気候が続いていますが、これがあと五〇年もすると、温度が相当変わるはずだということはいろんな学者が言い出していますから、地球が水によって、保たれてきたいい環境が破壊されつつあることは事実です。そういう意味で水に関する問題は、その根元からどうすべきかを考えることも大切ですが、当面、現実の問題として、汚れている部分を皆さんの手で、物理的に処理して、浄化するということは非常に重要なことであると言わざるをえません。
もう一度地球が昔のような姿に戻るまでは、国民の皆さんが真剣に考え、力を入れなければいけない段階に来ているのではないかと考えています。
食べ物を扱っていますと、水というものの怖さがストレートに肌身に伝わってきます。
レストランなどに行きますと、「うちでは、いままで井戸水を汲んで使っていたのに、その井戸水が使えなくなってしまった」という声をもう二〇年くらい前から聞いてきましたが、現在はほとんどが水道水を使っています。フィルターをつけた店というのを調べたことはありませんが、まだまだ低いものと思います。本当にお店の料理長級は「そんなもの冗談じゃあないよ」といった感じで、コストに跳ね返るからとすぐにそういう計算ばかり出てくるのが現状だと思います。ごった煮にすれば分からなくなってしまうということは、まさにその通りではないですか。
先程小島先生のお話にでて来られた辻留先生は、私もたびたびお目にかかったことがありますが、ほんとうに物事に対して根本からお考えになる方でしたが、そういう意味ではおっしゃっていることはまさにわれわれ料理にたずさわる者に忠告をして下さっているように思います。
そういう意味で本日の皆様のお話は私自身にとって、大いに参考にさせていただきました。
小島 本日はお忙しいなかどうもありがとうございました。