高度成長する惣菜・デリ 出遅れたスーパー、生鮮と共存がカギ

1992.05.18 4号 10面

《顧客に取り残されたスーパーの惣菜》 若年層の中食需要をターゲットに展開するCVSの惣菜・デリ。高級・手づくりをコンセプトに安定した人気を持つ百貨店の惣菜・デリ。それに比べて、いまひとつ明確なコンセプトや差別化が打ち出せないでいるのが量販店である。

地域の消費者に浸透した業態として、来店数もCVSの比ではないほどに多く、生鮮品と同様に惣菜類にも十分に購買機会はあるものと思われたが、売行きはいま一歩というのが実情だ。

元来、量販店における惣菜・デリの位置付けは生鮮品のロス対策でしかなかった。若干鮮度の落ちた肉や魚類をたれで調味したり、フライにしたりといった具合に、「味へのこだわり」が希薄な商品であったと言えよう。

惣菜とは、家庭料理と同じように食卓に並べられても、劣らないだけの満足な味がなければ、決して日常的な食シーンでのリピートはあり得ない。それが冷めていようが、レンジで温め直そうが、あくまでも食卓での「おいしさの実感」が重要なファクターなのである。よって、生鮮三品のロス削減から発想し商品化してきた量販店の惣菜・デリは、今日の消費者ニーズからかなりズレたところにある。今後、売上げ増を狙うには、売り手の論理から買い手の論理への発想の転換が必要となっている。

《生鮮三品と密接関 係の惣菜コーナー》 量販店ならではの惣菜・デリとは何か。それにはまず、来店客の大半を占める主婦の購買動機・行動を改めて考えてみる必要がある。

①惣菜・デリを目当ての顧客は非常に少ない。主婦は料理の材料を買いに来ているのである。

②惣菜・デリを買う顧客はほとんど衝動買いである。惣菜コーナーが放つ、においやビジュアル(出来たて感)が、主婦の省力化志向とうまく合った時、主婦は惣菜に手を伸ばすと見てよい。

③青果、精肉、鮮魚の品質そして値頃感と同レベルのものを惣菜・デリに求める。「おいしく、安上がり」を目指す主婦は、作った方がよいか、買った方がよいかの判断を瞬時に行ってしまう。高級デリカテッセンや特売的なジャンボパックの惣菜は、量販店ではあまり売れない。

しかし、ここに大きな矛盾が起こる。「鳥の唐揚げ」が売れれば鶏肉が売れない。「いわしフライ」が売れればイワシが売れないというように、惣菜の売上げ増が、生鮮品の売上げ減という現象を引き起こす可能性を秘めている。

《スーパー惣 菜の在り方》 以上の点から、量販店における惣菜・デリは、生鮮三品との共存をいかに図るかが重要なテーマと言えよう。そこで、新しいコーナーづくりと商品開発の方向性を導き出すうえで、次の(A)~(C)を何らかの形で考慮に入れるべきと考える。

(A)メーンディッシュ的なものではなく、サイドディッシュあるいはスナック的な惣菜・デリを開発、強化する。

(B)ジャンボパックなど量による割安感を訴求するのではなく、バラ売りでポピュラーな値づけをする。

(C)生鮮品と同様にフレッシュ感のあるコーナーづくりと見せるインストア加工に心掛ける。

この(A)~(C)をうまく取り込んだ例として、「江戸前寿司のバイキング」が挙げられる。ダイエー、ジャスコ等の大手からライフコーポレーション等の中堅スーパーまで、ここ数年、導入する店舗の増加は著しい。セロハンで個包装された各種にぎり寿司を顧客自身がピッキング用トンクで自由にチョイスし、独自の「盛り合わせ」を作れる。ガラス越しに専門の職人が寿司を握り、その横で寿司ロボットが次々とラッピングしていく光景は、惣菜コーナーのアイキャッチとしてだけではなく、日常的スナックとしての新しい寿司の認識を植え付ける効果がある。

この例のように、量販店は生鮮三品に加え、惣菜・デリを新しいフレッシュフードと位置付け、新たな展開に出る時機がきている。

(食品評論家・小西裕介)

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