地域ルポ 三軒茶屋(東京・世田谷)文化・情報の拠点、駅中心に活発な再開発(6~7面)
世田谷区の再開発計画によると、三軒茶屋は下北沢、二子玉川と共に広域生活拠点として位置づけられており、商業・業務に加えて文化・情報機能の集積を図って、広域からの集客を可能にする魅力的な都市づくりを実現するとしている。
この具体的なプロジェクトとして、三軒茶屋駅を中心にして第一工区から第五工区の五つのブロックに分けて、再開発事業を推進中で、このうち第一工区と第五工区は計画を完了している。
現在進行中の再開発事業は、北口のすずらん通り西側エリア四五〇〇坪(計画面積)で進めている複合都市ビルで、平成8年11月には完工する予定。
地上二七階、塔屋二階、地下五階、地上高一二四mの高層ビルで、完成時にはオフィスをはじめ、劇場などの文化施設、世田谷区の福祉、行政施設、金融機関、商業店舗などが入居することになっている。
総工費約六〇〇億円。「三軒茶屋・太子堂四丁目地区第一種市街地再開発事業」として具体化しているもので、世田谷区をはじめ、東急電鉄、地域の地権者、小売業者などが再開発事業組合(佐野公也理事長)を設立、今年2月から着手している。
ビル完成時の商業施設については、東急ストアがキーテナントとなって、小売店舗を集約することになっているが、再開発事業によって立退いた地区の物販、食品、飲食など小売店一四店舗が優先的に入居し、テナントとして再出発することになっている。
現在、これら店舗は建設現場隣接地の仮設店舗で営業中で、再開発事業の組合メンバーとしてのプライオリティを有している。
このビル建設は地域では最大の再開発事業となるもので、以前この再開発地区には区の所有地ほか、東急・世田谷線三軒茶屋駅と世田谷通りの三和会(商店街)の一部、有楽土地、大鳳不動産などのデベロッパーが所有する土地があったところで、ここをまとめての再開発事業だ。
敷地面積二八〇〇坪、建築面積一九〇〇坪、延床面積二万四〇〇〇坪という施設計画で、この再開発ビルの利便性を大きく高めるために、世田谷線(駅)を施設内部に取込むほか、新玉川線の三軒茶屋駅とは地下通廊で結び、施設利用者やショッピング客の回遊動線も新設する。
この地下通廊は外気に接し、太陽光が入る“サンクンプラザ”(地下広場)も設置する計画で、閉鎖的になりやすい地下空間の環境を快適にすると共に、緊急時に歩行者の方向感覚を失わせないための防災面の役割も意図している。
前述のとおり、三軒茶屋地区では第一工区から第五工区まで、五つの再開発プロジェクトがあるわけだが、すでにこのうちの第一工区と第五工区については計画を完了、残り第三工区と第四工区はこれからの課題で、第四工区は今年7月、準備組合を設立し、事業化案の検討に入った。
第四工区は国道二四六号線と世田谷通りにはさまれる商店街(エコー仲見世、三茶三番街、ゆうらく通り)で、この世田谷通りをはさんで対面する側が、現在進行中の第二工区と将来構想の第三工区というわけで、これら地区での再開発事業が完了すれば、すべて地下道で結ばれ、地域の利便性は飛躍的に高まることになる。
第四工区の計画面積は約五〇〇〇坪で、第二工区同様に高層複合都市ビルの計画が予定されている。第三工区はすずらん通りを中心とするブロックで、隣接地の第二工区の再開発事業を待って、マスタープランの検討に入るとみられる。
「第四工区については、平成2年2月に設立しました『三軒茶屋二丁目地区街づくり勉強会』に次いで、今年7月に再開発事業準備組合を発足しまして、いろいろと事業化案の検討を重ねているところですが、基本的には、機能的な街づくり、ヒューマンで快適、かつ防災に強い街づくりを国民のみなさんと協力し合って推進していきたいということです」((財)世田谷区都市整備公社都市開発課)。
同都市整備公社は、世田谷区の出資で昭和55年4月に設立、区の再開発や区画整理事業の推進母体としての役割を担っているものだが、三軒茶屋地区の街づくりにおいては特定企業の利益誘導とならないよう、地元商店および区民の利益を第一義にという声も強くあり、一方においては円滑にはいかない再開発事業の難しさも露呈している。
東急新玉川線の三軒茶屋は渋谷から二つ目の街だ。この地名の起こりは江戸時代の天保から嘉永(一八三〇~五三年)にかけて、三軒の茶屋があったことに由来するというが、現在はその風情のある地名の面影はどこにもない。
地下のプラットホームから地上に出ると、そこはいきなり国道二四六号線と、その上を走る首都高速三号線というノイジーな世界だ。だが、この場所は世田谷通りや茶沢通り、また近接地に三軒茶屋と杉並区の下高井戸を結ぶ世田谷線のターミナルがあり、一方においては交通の結節点としての賑わいもみせている。
しかし、街が幹線道路で分断されて面としてのまとまりがないこと、商店街も狭く、店舗の老朽化が目立つことから、来街者にとって快適な街並、商業環境にあるとはいいがたい。
事実、この街は関東大震災以降、都心からの人口流入によって無計画に都市化が進んできたといういきさつがあること、また、第二次世界大戦後に建てられた商店街が多く残っていることなどから、都市機能や防災、土地の高度利用の面からも大きな遅れが目立つ。
このため、世田谷区では三軒茶屋の新しい街づくりとして、「二一世紀にはばたく文化と情報と生活の拠点を目ざす」をテーマに掲げ、現在、駅周辺の再開発事業を推進しているところだ。
前述のとおり、三軒茶屋の駅は地下ホームになっている。一日当たりの乗降者数は一〇万八〇〇〇人。
地上への出入口は、北口、南口、世田谷口と三ヵ所あり、北口は三軒茶屋二丁目から太子堂二~五丁目、三宿一丁目、南口は三軒茶屋一丁目、太子堂一丁目、下馬二丁目、また、世田谷口は国道二四六号線と世田谷通りにはさまれるロケーション(太子堂一丁目)で、世田谷通りの商店街をはじめ、終戦後の闇市の面影を残しているエコー仲見世やゆうらく通り、三茶三番街などの商店および飲み屋街に出る。
これらの場所は駅を軸に半径二、三〇〇m内にあり、駅に近接して小さな商店が高密度に集積するという展開になっているが、人の流れは北口と南口に集中している。
北口地域は世田谷線が近接するが、世田谷通りおよび茶沢通りをはさんで中小の商店ほか、世田谷区役所分室、郵便局、電話局、警察署などの公共施設が点在する。
三軒茶屋駅南口エリアは都水道局世田谷営業所、さらには昭和女子大、明治薬科大、日大農獣医学部などの大学が展開する。
地域に大学が三つもあるということは、それだけ若者の来街が多いということになるわけだが、しかし、三軒茶屋は本来が住宅街として発展してきた地域だけに、老若男女が来街するという特性をもっている。
このため、小売店舗も主婦層にターゲットを絞った食料品店や家庭用品店、また、若者やファミリー層に対応したファストフード、パスタ、デリカテッセンなどの店が目につき、独自の商業集積をみせている。
ファストフードはマクドナルドをはじめモスバーガー、森永ラブ、ミスタードーナツ、パスタではピザスタジオやオリーブの木、ジョリーパスタ、また、デリカテッセンではムッターローザといった店で、これら店の客層は若い女性客を主体にヤングミセス、ファミリー客が大半を占めており、山の手的な飲食ビジネスを呈している。
だが、“山の手の飲食ビジネス”といっても、駅二つ目は“感性の街”“若者の街”の渋谷であるので、若者のほとんどは渋谷に流れるといった消費行動にあり、この点での三軒茶屋の吸引力はまだまだ弱い。
また、三軒茶屋地区にはオフィスが比較的に少ないので、ビジネスマンを集客するといった点にも大きなハンディがある。
このため、地域の再開業事業によって、業務および商業機能の充実を図り、地域への来街動機を大きく喚起する街づくりが望まれているわけだ。