飲食店成功の知恵(35)開店編 サンプルケースは絶対必要

1993.12.06 41号 10面

最近、サンプルケースを軽視する傾向が目立つ。たしかに、都心などのしゃれた店、新感覚の店では、サンプルケースを置かないのが常識のようになっている。そこで、その流行をまねするお店が増えてきているのだ。

しかし、それは大きな勘違いというもの。特殊なエリアでこそ通用するのであって、地域密着型の一般のお店にあっては、マイナスでしかない。

サンプルとは、そのお店が「何を、いくらで」売っているのかと分かりやすく伝えるためにある。一部の先端的なお店でそれが不要なのは、お客にとってはそのお店に入ることが目的であり、商品、価格については安心し切っているか、あるいは二の次だからにほかならない。

いいかえれば、サンプルケースを店頭に置く目的は、流動客を引きつけ、自店の顧客とするためのマーケティングにある。それを見せることによって消費意識を刺激し、売上げアップを図るための重要なツールなのである。サンプルケースが不要というなら、それに代わるマーケティング手法は何なのか。そこをよく考えてみることだ。一般の小規模店にとって、サンプルケース以上の効果を期待できる手法などないのである。

お客の視点から見れば、サンプルケースはそのお店の、外からは見えない内容を知るための重要な手がかりとなる。なるほど、サンプルケースを排除すれば、店頭はいかにもスッキリとして、しゃれて見えるかもしれない。しかしそれで、お客の目に止まるだろうか。まず、予算の面で不安になるだろう。また、業種は看板で分かったとしても、はたして自分の気に入る商品があるのかどうか、これも不安である。それならわざわざ冒険せずに、他の安心して入れるお店を選ぶ‐‐これが、ごくふつうの当たり前のお客の感覚なのである。

しかし、だからといってたんにサンプルケースを置けばいい、というものではない。先にマーケティングという言葉を使ったが、目を止めたお客の「入ってみたい」という心理をくすぐるものでなければ、効果もなければ陳列する意味もない。そして現実に、“置くだけ”式のお店も少なくない。そういう悪い事例が多いことも、サンプルケース軽視の風潮に拍車をかけているといえよう。

そこで、訴求効果の高いサンプルケースをするためのポイントを、次に挙げる。

第一に、アイキャッチ効果の工夫である。ケース自体の美感、センスのよい飾り付けでなければ、まず流動客の心理を引きつけることはできない。

第二のポイントは、いうまでもなくお値打ち感の訴求である。低価格帯の商品を多めに選び、それをおすすめ商品、看板商品とバランスよく配置する。あくまで「安くておいしい」イメージの訴求が大前提となる。妙な見えから高額商品ばかり並べているお店もあるが、かえって逆効果と知るべきだ。

そして三番目に、オリジナリティーの強調である。まず、当店のオリジナルメニューをいかに目立たせるか、を考えよう。お客にとってのお店の魅力は、なんといっても他のお店にはない個性である。と同時に、当店の商品と他店のそれとの違いを明確にする必要がある。一部のオリジナル商品を除けば、つまりポピュラーメニューとは、お客の目から見ればどのお店も「大差」はない。そこで、特徴などを説明したカードを添えるなどの、差別化の工夫が必要になる。

なお、サンプル自体のオリジナリティーの、新鮮さ、美しさも大事なポイントである。そこで、サンプルは既製品の買い取りではなく、リース契約をおすすめする。これなら一年ごとに新しく作り替えられるし、経理上も損金扱いになる。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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