不況期の立地戦略 入手の絶好機、ピンチをチャンスに転化せよ

1994.01.17 44号 17面

バブルが崩壊し、なんとか底が見えたかに思えた景気は、大方のエコノミストの予測とは裏腹に、かつてないような低迷飛行を続け、ついには、先の見えない戦後最大、かつ最長の“平成の大不況”へと突入しつつあるようだ。

こんな不景気時には何をやっても無駄。ジタバタしてもはじまらない。じっとがまんの子‐‐という人は、残念ながら大成しない、と太鼓判を押したくなる。

人と人並みでは、しょせんはドングリの背比べ。たいしたことはない。それだけの人生で終わってしまう。実は、こうしたピンチ時こそ、最大のチャンス時なのだ‐‐ということを肝に命じてもらいたいもの。

飲食業の成功要因の七割を占めるといわれる“立地”。「フードサービスは“立地”と見つけたり」と喝破する人もいるくらい、フードサービスにとって“立地”は、その成功の命運を左右するポイントであることは疑う余地のない真実。投資的に見ても、立地は、投下資本中最大の要素であり、失敗は絶対に許されない要因の一つである。

実は、こうした大不況期こそ、この立地を生かし、絶好の立地を入手する最大のチャンス時なのである。

不動産業界は、それこそ、かつてない大不況に襲われ、不動産価格はいうに及ばず、保証金から家賃に至るまで、底なしの泥沼状況下にある。かつては高騰した不動産価格を適正な価格にセーブする役目を果たしていた国土法も、いまではその“錦の御旗”の偉光はすっかり衰え、逆に、実際の取引価格は、国土法の六割、七割は当たり前で、中には三、四割‐‐などという例もあり、いまや完全に無用の長物化しているのが現状。不動産屋のため息が聞こえてくる昨今である。

こうした時こそ普段めったに手に入らない絶好の物件を入手する最大のチャンス時だと再び言いたい。

しかも格安な条件で、選びたい放題。完全な“買い手市場”。ひと声で一〇〇〇万円台価格が下がる‐‐といわれているほどの完全な価格なき市場状態である。つまり、買い手がない状態なのだ。買い手にとって、こんなにうれしい状況はまずない。

しかも、金利は、これ以上まず下がるまい、という史上最低の低金利時代。まさに物件を入手する絶好のポイントが雁首をそろえて待ってくれているようなもの。このチャンスを生かさない手はない。

飲食業だけではないが、経営というものはすくなくとも最低五~一〇年のサイクルで考えるもの。こんな大不況はめったにないとはいうものの、五~一〇年サイクルの間には必ず不景気時はある。その不景気時をいかに経営するかで、将来の成否は決定する‐‐といっても過言ではない。

大成長した企業の軌跡を眺めてみると、必ず大きく飛躍した時期がある。その内実を分析してみると、こうした不況期など、人が皆萎縮して動かない時に思い切って、一歩抜きんでて、大胆な行動に打って出て、周囲を驚かすような成功を収めているケースが多い。

人々が皆やってないからこそ“最大のチャンス”なのである。ピンチを逆にバネにして、チャンスに変身させることこそがたいせつなのである。

景気が良くなって、それでは、と重い腰を上げても、周囲はすべて同じような状況下にあり、それだけ競合も激しく、価格も上昇しており、よほどの大金か、チャンスがないかぎり、思い通りの物件は入手できず、そこそこの二流物件で手を打つ‐‐という結果に終わってしまうものだ。

隣の人も、その隣もキャベツを作っているから“オラの所もキャベツを作ろう!”‐‐といって、“みんな一緒なら怖くない”という群集心理で、村中でキャベツを作っていれば、それは“供給過剰”という市場原理を創り出す結果となり、価格は低迷。作ってはみたものの、市場に物があふれ、せっかく精根こめたものが、畑で腐らせた方がまし‐‐という悲しい結果になる。

これが、人と人並みというものである。成功するためには、人と人並みではダメだ‐‐ということをあらためて認識したい。

こうしたことは、なにも不動産や賃貸物件などだけでなく、企業にとってのなによりの財産といえる“人手”にも共通していえること。飲食業は離職率が比較的高く、人材確保は、企業経営者にとって常に大きな悩みの種。しかし、いまこそ物件同様、企業の宝といえる人材を確保するのにこれまた絶好のチャンスなのだ。普段なら見向きもしてくれない人材が、こうした時には案外話に乗ってくるもの。

いまや押しも押されもしないフードサービス界の第一人者となった「すかいらーく」も、かつて小さなスーパーマーケットから転身し、起業した時、創業者である茅野氏は、そのスーパーを売却したお金の大部分、当時で億という金額を、人材確保とその教育に投資、それが今日の大成功につながったというのは知る人ぞ知る事実。

不況期だからといって、人減らしをすると、いざ好景気になった時、人材不足で思うように運ばないことになる。

物件とともに、この不況期、人材もぜひ確保しておきたい。新人、ベテランを問わずに…。それが、次なる大きな前進の財産なのだから。

しかし、絶好のチャンスだからといって、見境なく、良ければどこでも‐‐という訳ではない。きちんとした基本的な長期経営計画の基に、経営哲学に描いた道標に沿っての行動こそ“ピンチをチャンスに”生かす道であることは明白である。

「そんなことを言うが、もし、これ以上不動産価格や賃貸物件、保証金が下がったり、さらに金利が下がったならどうしてくれる!」といわれる方もいるかもしれない。しかし、事業もしょせんは賭けである。その“賭け”に勝たなければ成功という甘い文字は微笑みかけないのだ。

その成功の“賭け”が、今目の前にある‐‐ということなのである。この“賭け”に乗れない人は、人と人並みで、文句をいわずに身を処するのがこの世の処世術というものだ。

先日、PR誌の仕事でインタビューした「日本フードサービス協会の新会長で、いまや年商三〇〇億円、事業所数四〇〇ヵ所、一日に二五万食を提供しているというコントラクトフードサービスのリーディングカンパニー「グリーンハウス・グループ」の会長である田沼文蔵氏も“不況期こそ成功への道標(みちしるべ)”“転機は勝機”‐‐と言いきっておられた。「私の人生は、まさに、“転機は勝機”の連続。現在まで大きくなれたのも、絶体絶命のピンチを、逆にチャンスに転化したからこそある」‐‐という言葉をかみしめたい。

マーケティング・コン

サルタント 戸田 光雄

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