トップインタビュー 富士産業社長・中村清彦氏 医療給食の3悪を追放
‐‐中村社長が会長を務めている(社)日本メディカル給食協会がこのほど「第一回治療食献立・調理コンテスト」を実施しましたが、初案は社長とうかがいましたが。
中村 昨年は患者給食の自己負担六〇〇円、八〇〇円が一人歩きして、いろんなところで八〇〇円をどう思うかと聞かれました。しかし、われわれは医療機関にかかわる仕事をしていても給付を受ける立場ではないので見守るしかないんです。そこで、プロとしてはどちらに決められても良質の食事を提供する社会的責任を遂行しなくてはいけない。
食事の考え方も戦後は栄養失調対策が第一でしたが、今は飽食で一億総グルメ。食事に「早い」「冷たい」「まずい」の三悪を堂々と言える良い時代になったんです。これからの患者給食はカロリーなどの数値だけのメニューではなく味覚と技術が期待されているんです。もっとプロの腕を磨かなくてはいけない。内部では競争はおかしいという声もありました。しかし、研鑚はしなくてはいけない。現場で働いている人達に自己表現できる場を提供してあげたかったということもあります。
それともう一つ、業界の病院給食受託熱が冷めた感があるんです。大手と中小の格差は広がるばかり、皆がもう少し伸びていこうという思いがないと健全な業界の育成はできない。このように、いろいろな背景がありまして、治療食コンテストはタイムリーだったと思います。
‐‐委託業務が認可されて病院給食業界は変わったのでしょうか。
中村 八六年3月の外部委託が解禁になってまもなく八年たつが、受託率はおよそ二〇%強で、5月には三〇〇〇施設になります。アメリカの外部委託率七五%に比べると、まだまだこれからの産業と言えます。業者委託を認めた効果は質の競争という形で直営にも影響し、そうとう業界全体がレベルアップしてきています。そういう意味でも委託認可の効果は大だと思います。
ただ、当初、中小病院の委託率が過熱してダンピングが始まり、正常な運営が困難な時期がありました。今は病院給食の管理はむずかしくコストばかりかかると業界から出ていかれる業者さんもいます。しかし、二一世紀には老人が増えて労働者が少なくなることは目に見えているので、来るべき将来に向けて良質の病院給食提供の基盤を整える一助を委託業者は担っていかなくてはいけないと思います。
‐‐富士産業の営業の九割はむずかしくてコストばかりかかる病院給食ですが、何か特別なノウハウをお持ちだったのでしょうか。
中村 とくにありません。私どものような中堅企業は、事業所給食では大手にかないませんし、自然と病院給食の受託が多くなったということでしょうか。ただ、こういうご時勢なので、一〇〇〇人をかかえていた企業が突然倒産するということを何度か目にしてきました。その点、病院は国が潰れない限りマーケットはあるという読みはありました。ですから病院給食は三六五日営業で休日が無く、若い人を集めるのが大変なんですが、“三六五日仕事がある喜び”と逆の発想をするように言っています。今春も一二八人の新卒栄養士が入社します。
‐‐社員教育ではどのようなことに苦心されますか。
中村 一番には職業柄「自分の一番大切な人に喜んでもらえるように心で仕事をしよう」という気持を持ってもらうことです。仕事には社会性がある。社員には世のため人のためになっているという仕事の意義、人を助ける意義を正しく知って欲しい。また、現在三八〇〇人の社員がいますが、やはり団結です。各事業所に配属されても親睦会や勉強会、展覧会など行事をたくさん持って交流を深める機会を多く作るようにしています。中でも社内の「料理コンテスト」は今年で二二年目を迎えますし、「治療食コンテスト」も九年目を迎えます。
‐‐コンテストがお好きなんですね。
中村 若い人に自分の腕を試すチャンスを与えたいということです。毎日毎日同じ職場で同じ仕事をしているわけです。何か仕事の励みになるような、活力になるようなことを設けてあげたかったんです。他にも書道や手芸、カメラなどいろいろな社内展覧会を行うのですが、実にすばらしい腕の人がいるんです。そういう人には、どんどん腕を磨いて欲しいのです。競争のないところに進歩はない。また、ムダがないと高揚もないんです。ですから会社の方針としては教育にお金を惜しみませんし、意識の高揚にはお金をかけます。直接仕事に関係しなくとも基本的な物の見方を体にしみ込ませることが大切だと思います。
‐‐二一世紀へ向けてどのような計画をお持ちですか。
中村 まずは業界で二〇%の受託率を上げること。そのためには人材の育成が大切です。また、具体的には在宅介護の食事や外食委託のセンター化という問題があります。センター化には差別化できなくなるとか事故が起きた時の対応策、危険を集中させてよいのかなど問題点もあります。
二一世紀に人手が足りなくなるのは確実なので、行政とともに良質の食事を合理化してコストダウンする制度を考えていかなくてはいけないと思っています。(文責・福島)
これまでに一番苦労したのは行政対策だったという。厚生省が委託を認めているのに各都道府県で対応がまちまち。「これから関西の方に直営という指導をしないようにとケンカをしに行く」と語っていた中村社長。結果はいかがだったでしょうか。スマートな体には業界のパイオニアとしてのパワーがみなぎっておりました。