トップインタビュー:明治ライスデリカ・福田耕作代表取締役社会長
‐‐輸入米問題は外食産業にも大きなインパクトを与えていますね。
福田 外国米は炊飯方法が課題になっているわけです。輸入米の中・短粒種は国産の銘柄米と比較して水を少し多くしたり、蒸らす時間を長くすることによって国産米と同じようにできあがるのです。しかし、タイの長粒米はそういかないのです。タイ米を一〇%混入した場合、炊きたては異和感ないのですが、炊いて翌日になるとパサパサになってしまうのです。食糧庁は一般の消費者に対して「ブレンド米を炊飯する場合、国産米より水の浸漬時間を若干長くした方がよい」と説明しています。しかし、われわれ、プロの炊飯業者にとってはそんな大雑把な炊飯方法ではだめなのです。タイ米と国産米をそれぞれ別々に洗米して、浸漬時間を変えなければならず、たいへん手間がかかるのです。
‐‐そうすると、タイ米を混入する時にはどういう炊飯方法がいいのですか。
福田 国産米とタイ米を別々にまず洗米すること。そして、国産米は浸漬時間を一時間、タイ米は二時間して、それから混ぜて炊飯器にかけるのです。そうしないと、パサパサのごはんになってしまいます。
‐‐輸入米が入ってきて、消費者のコメ離れが起きるのではないか、という懸念も起きそうですが。
福田 私が一番心配するのはタイ米を混入して、ごはんがまずくなり、消費が減退してしまうことです。飽食の時代といわれ、主食はコメだけではなく、パン、麺類に広がっています。そんな折りに、コメ離れが起きたら、われわれ炊飯業者だけでなく、日本の農民が一番困ることになるのです。ですから、われわれ炊飯業者は輸入米の炊き方を提案して、コメの消費減退を防ごうと努力しているのです。
‐‐それで、輸入米を混米しておいしく炊きあげる方法はできあがっているのですか。
福田 当社ではタイ米を一〇%、また二〇%混米した炊飯方法を確立しています。ただ、ユーザーはタイ米を混入したものは嫌います。とくに弁当、おにぎりなど、国産銘柄米使用にこだわっている業者はタイ米を拒否します。当社のユーザーで、タイ米を使ってもかまわない、というところはほとんどありません。
‐‐そうなると、タイ米だけが残って困ることになるのではないのですか。
福田 当社では国産米、中・短粒種、長粒種の買いつけ比率が三:五:二となっています。ですから、国産米だけを欲しいというユーザーにはそれに応えなければならず、自社のもっている在庫の中でそれを調達せざるを得ないのが実情です。そこで課題になるのが、タイ米をいかに生かして使うかなのです。価格面で国産米と輸入米を比較すると、カリフォルニア米は国産銘柄米に近づいています。一方、タイ米は逆に安く、価格差が大きい。視点を変えれば、コメの原価に大きな開きがあるわけで、タイ米をいかにおいしく炊き、調理することができるか、ということが大きな課題になるわけです。つまり、タイ米をいかに生かして使うか、そのことにわれわれはいま苦労しているのです。
‐‐ところで、国産米もカリフォルニア米も店頭で不足して、相場が高騰しています。このコメ相場の先行きがどうなるのか。そして、御社では炊飯米の売り値を維持していくことができるかどうか気になるのですが。
福田 いま、中・短粒種の輸入が少ないので相場が高騰していますが、先行き米、豪、中からの入荷が増えれば国内相場も一気に下がることが考えられます。当社では昨年10月に、炊飯米を値上げさせてもらいました。国産米の不作で、仕入れ価格が高騰したために止むを得ずにとった措置です。しかし、先行き輸入米の入荷が増えて相場が下がれば、炊飯米の売り値も下げる方針でいます。
コメの価格は政府売り渡し価格は決められていますが、その先の流通段階では自由競争が原則ですから、需給バランスによって価格はおのずから定まっていくと考えています。ただ、正規の政府米をヤミルートに流すような卸業者がいることは問題です。
‐‐昨年、10月から11月にかけて炊飯米は一〇~一五%値上げされました。その後、売れ行きに影響は出ましたか。
福田 値上げしたあと、消費は約二〇%落ち込みました。ですから、値上げ前の価格に早く戻したいと願っているのです。ごはんの価格が上がれば、消費はパン、麺類に流れるのは当然のことです。一日も早く、ごはんの価格を下げたいのです。しかし、現実には中・短粒種の輸入米が不足して相場を上げている状況なのです。コメの仕入れ価格は現在まで三〇%近くも上がっています。その値上げ分を単純に商品価格に転嫁することはできません。新米が入荷する約半年後まで、じっとガマンするしかありません。
‐‐ありがとうございました。
福田さんはこのほど設立した日本炊飯事業協議会の会長に就任、業界のまとめ役の任も負っている。いまのコメ不足にともなうさまざまな問題に対しては私企業の立場だけでなく、業界全体の立場から正論を鋭く突く。一部の卸売業者が正規米をヤミルートに流したり、一方的にコメの供給を止めたりする横暴に怒りをぶつける。その一方で、タイ米の利用法を私企業の取り組みとして研究を重ねている。取材のあとタイ米だけで作ったというカレーライスをご馳走になった。ユーザーにいろいろ提案しているという。「タイ米を活用するには苦労がいる。しかし、変化はビジネスチャンス」と事業家の意欲をみせる。
(文責・冨田 怜次)