食の視点 新しい風が吹く(その1)ガストの風
▽現象としてのガスト△
フルメニュー、フルサービス、フルタイム、フルターゲットが原則のファミリーレストラン(FR)に今変革の嵐が吹き荒れている。FR最大手のすかいらーくがFR業態に見切りをつけて、ガストという低価格FRを展開し、すかいらーく全店を転換するかのような勢いを受けて、外食産業が大きく揺れ動いている。まさに飲食シーンにおけるガスト現象のようなものだ。今回は、ガストに代表される、FRにおける低価格レストランの抬頭を考察してみる。
しかし、よく考えてみると、ガスト誕生の以前にも低価格のFR業態のレストランチェーンはあったわけで、急にあわてふためく外食業界に、その歴史の浅さを感じるのは筆者一人だけではないはずだ。
▽ディスカウンター△
3月の終わりに女性向け情報誌HanakoがFFとFRの春のメニューを特集していたが、それを見た女性たちの感想は、「ワァ、高い!」だ。確かに高い。一〇〇〇円を超えるものがいくつもある。こんなものに(失礼)こんな値段、ヤダァ…。女性たちの素直な反応である。
エブリデー・ロープライス(ELP=毎日低価格)、バリュー作戦と銘打ったマックの春のキャンペーンは、安さをバリュー(価値)としている。そして、マックはまさに、当時の既存のバーガー店の価格破壊、ディスカウントであった。それから半世紀以上が過ぎた現在、また安さがバリューとなった。ナゼ現在なのか。牛肉の輸入自由化が一方にあり、他方には、価格にバリューを持たせなければ客足を回復できないとする外食企業のアセリがある。
▽何を目指す△
何をやっても売れた時代から、何をやっても売れるかどうか分からない不透明の時代になった。メニューの多様化で差別化を果たした各企業が、次に何をすれば良いのかを探れば、そこには価格と提供方法があった。
家庭の味を中心に惣菜を売っていた店はいくらもあった中で、大きな皿に盛ってダイナミックに提供する方法を考えたのが「楽」だった。そして、店舗建設費を低く抑え、思い切りメニューの数を減らし、サービスにかける手間を減らすことでプライスダウンすることを考えついたのが、すかいらーくだった。
ガストは何を目指すのか。すかいらーくの行詰まりを打破する変身なのか。なりふりかまわぬ顧客獲得の戦略なのか。それとも、FRのコンセプトやシステムの延長線上にある新しい試みなのか。結論を出すのはまだ早い。ただ、今言えることは、FRで構築されたシステムがあればこそのガストの成功という点だ。
▽草木もなびく△
現在のガスト及びガストバージョン・レストランの客単価、六〇〇~八〇〇円は、人手に頼るフルサービスのレストランの限界の設定であるはずだ。ムダのないサービスやメニュー品目数の絞り込み、ガロニを削減した料理で、フルサービスの満足感をお客に与えるには、相当のシステム上の合理化がなければならず、それはFRの長年蓄積してきたシステムがあって初めて可能だった。FRから削れるものを削ればガストができた。
それにしても、バブルの崩壊という予想外の苦境、バブルボケしている間の消費者のFR離れから、物すごいコンセプトが生まれたものだ。新鮮さを失ったFRのマニュアル通りのサービスや斬新さのないメニュー変更で、消費者はFR各社の消費者への心配りの怠慢を鋭く見抜いていた。もし、バブル崩壊がなかったら、FRの自浄能力がもっと奪われてから、危機が具体化したかもしれない。
ガスト、ガストと草木もなびく、そんな現況から次に何が生まれるのか。まだ力を残している間に危機が襲ってきてよかった。