高度成長する惣菜・デリ 新たなコンセプトで躍進する中華デリショップ
百貨店の惣菜・デリコーナーで定番といえば、洋風惣菜で、その代表がコロッケなどのフライ類とサラダ類である。フライ類は作り立て、揚げ立ての演出により、消費者の購買意欲を駆り立てやすく、サラダ類はヘルシー志向に加え、具材のバリエーションやボリュームで値頃感を訴求しやすい、といった点が人気の秘密であろう。
それに加え、最近は和風惣菜が目覚ましい伸長をみせている。“和風”は食品加工業、外食業など産業横断的なキーワードであるが、惣菜・デリの領域でもかなり広がりをみせている。和風惣菜の台頭は、消費者のヘルシー志向による和風回帰も影響しているが、家庭の食卓に欠かせない「おかず」との接点が最も多い“オーディナリー・フーズ”との位置づけからである。また、旬の食材を生かしやすいという点でも、和風惣菜は今後の百貨店・量販店のマーチャンダイジングにとって重要なファクターとなるであろう。
では、中華惣菜はどうであろうか。今回は「マダムリー」の成功例をもとに、惣菜としての中華料理の可能性を考えてみたい。
《点心類に傾斜しがちな既存の惣菜店》 中華料理は元来、「火の料理」といわれるように、経時劣化しやすいため、外食店で味わうのが最もベストな食べ方であった。持ち帰りの惣菜・デリの領域では、中華料理本来のおいしさを味わえるにはある種の限界がある。もちろん、再加熱しても出来立てのおいしさは戻りはしない。そのため、百貨店・量販店での中華惣菜は点心類などの比較的、保存性のあるものか、「酢豚」「八宝菜」「肉だんご」などのポピュラーなメニューに限定されていた。
従って、中華惣菜コーナーは、メニュー・バリエーションが乏しく、単調な雰囲気の売場になりがちであった。人気のある惣菜売場には、「豊富なバリエーションの中から自分の好きなものを選べる楽しさ」といった“コーディネート”コンセプトが必ずある。洋風惣菜のフライ類やサラダ類、おかず的な和風惣菜がまさにこの例である。最近の「江戸前寿司のバイキング」もまたそうである。
そこで、「冷めてもおいしい」「コーディネートの楽しさがあるバイキングスタイル」‐‐この二つの要素を独自の生産、物流、販売システムで具現化したのが、㈱神商(本社‐神戸市)が展開する「マダムリー(禮夫人)」である。
《バイキングで成功 した「マダムリー」》 同社は一九七六年、大阪・難波の高島屋大阪店食品売場に第一号店を出店して以来、多店舗化を図り、現在二一店舗。その代表格は平成元年6月にオープンした新宿伊勢丹の地階にある直営店である。店舗規模は全部で二七坪、うち売場が一八坪、厨房が九坪。一日当たりの売上高は約一五〇万円、客単価は一七五〇円前後。客数を試算してみると、一日当たり八五〇~八六〇名が来店することになり、その人気の程がうかがえる。
商品は全部で約一三〇アイテム。バイキングコーナーに陳列されている料理は五五~六〇アイテム。価格は、ほぼ一〇〇㌘三三〇円に統一されている。
これらは全て、神戸にある本社工場(一五〇〇坪)で調理され、直ちに一〇℃以下に急速冷却される。それを庫内温度五℃のコンテナで、各百貨店内の直営店に日配されている。
例えば、新宿伊勢丹などの関東エリアの店舗には、毎朝5時頃到着するような物流体制がとられている。
また、店舗に併設されている厨房では、中華料理のコックによって、本社から送られてきた商品の最終加熱が行われる。フライヤー、蒸し器、ガス台などが装備されており、常にフレッシュな状態で提供できるような加工体制がとられている。
バイキングコーナーの売上げベスト3は、①酢豚②クラゲ③えびのチリソース。その他、ちんげん菜、ナスの炒めもの、具の炒めもの、八宝菜、えびのトマトソース、牛肉だんご、たまご春巻なども人気が高い。
バイキングコーナーとは別に、点心類や特別料理コーナーがある。アワビやフカヒレ等の高級食材を使ったメニューもあり、同店は、ほぼ中華料理のフルコースが取り揃えられていることになる。
「マダムリー」は、従来の中華惣菜コーナーの単調なイメージや概念を打ち破り、中華デリショップ」の新しいコンセプトの確立に成功した好例である。定番の洋風惣菜、人気急上昇の和風惣菜に比べ、いま一歩、独自のアイデンティティをつくれずにいた中華惣菜であるが、ポピュラーなメニューを数多く持つだけに、今後の可能性は十分あるといえよう。