飲食店成功の知恵(51)開店編 失敗しやすいポイント(1)

1994.09.19 60号 29面

脱サラオーナーが飲食店経営に失敗する原因は、大きく分けて二つある。ひとつは飲食業をなめてかかったこと。二つ目は組織人間の習性が抜け切らなかった、ということだ。逆にいえば、素人だったからというのはほとんど理由にならない。現に、素人の成功例はいくらでもある。

飲食業を甘く見ているというのは、開業の動機を聞いてみればすぐに分かる。たいていの人が「簡単に儲かりそうだったから」と答えるのだ。

たしかに、飲食業は誰にでもチャレンジできるビジネスである。職人レベルの料理を提供するのは無理だが、一般的な小規模店の業種であれば、ちょっと訓練すれば技術的にはクリアできる。それは事実である。しかし、そのことと「ラクして儲けられる」ということとは、何の関係もない。ラクをすることは悪いことではないかもしれないが、儲けるためにはラクはできない。そこが分かっていないから、失敗するのである。

どうして飲食業を甘く見てしまうのか。それは日ごろ、飲食店があまりに身近にあるせいだろう。たいていのサラリーマンはウイークデーには、会社か飲食店のどちらかで過ごしている。いろいろな業種のお店も見ている。それで「これくらいの仕事なら自分にもできる」と思い込んでしまう。

しかし、それはお客として見ているだけで、お店の裏側ではどういう苦労があるのかは知る由もない。また、いまの飲食店が厳しい競争にさらされていることくらいは、サラリーマンも知っている。お店の人に「大変だねえ」などと声を掛けたことは誰にでもあるだろう。ところが、その厳しさがどういうことなのかは分かっていない。だから「とにかく開店さえすればなんとかなるだろう」などと、自分の都合のいいようにばかり考えてしまうのである。

経験がなければ分からない、というのは仕方のないことだ。だから、勉強すればいい。しかし、頭からなめてかかっているから、勉強もいい加減になってしまう。成功する人は、いろいろな専門知識を吸収するうちに、自分の甘さに気づく。この違いは、それこそ天と地の違いといっていい。

もうひとつの会社人間の習性だが、これもまた厄介は問題である。

もちろん、お店を持って独立したのだから、「これで自分も一国一城の主」という気持ちは持っているはずだ。これまではさんざん上司にいじめられたが、今度は自分が社長。誰にも文句をいわれる筋合いはない。取引先の会社にペコペコしなくてもすむ。というわけで、さぞかしいい気分を味わうのに違いない。

しかし、何事もいい面があれば悪い面もある。そして、脱サラ組が最初にぶつかる壁は、何から何まで自分一人でこなさなければならない、ということの辛さである。会社という組織にいた時には、自分の担当している仕事だけをしていればよかったが、お店ではそうはいかない。すべての責任が自分にかかってくる。その重さに耐え切れなければ、お店はあっけなく破綻してしまう。

逆に、自分を過信していた、というケースも少なくない。たとえば、大企業出身の人によくあることなのだが、会社の名声や実力がそのまま自分のものだと錯覚しているのである。本当は歯車のひとつに過ぎなかったのに、自分は偉いんだ、と思い込んでいる。こういう人は、サービス業には向いていない。お客に対して本心から尽くそうという気持ちになれないし、誰も自分を過大評価してくれないことが苦痛になっていくからだ。

脱サラ組が成功をめざすには、まず謙虚になることが先決である。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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