円高/金融・証券市場の不活発/企業リストラ 切り札なしサバイバルゲーム

1995.01.02 67号 28面

平成5年の外食産業規模は約二八兆二六〇〇億円であったが、これは対前年比で〇・九%という低い伸び率であった。

長引く消費不況で市場の成長はほとんど横ばい状況になってきているということだ。平成6年はどうか。ここ一、二年で企業のリストラが進んだので、その“成果”で消費が好転する機運はないと思われる。

しかし、店舗の新規出店などで市場は微増し、二八兆五〇〇〇億円前後は達成するものと予想される。(外食総研)

好調に推移してきた外食産業も、もはやかつてのように二ケタ台の成長は望むべくもないという厳しい市場環境にあるわけだ。

円高、金融・証券市場の不活発、企業のリストラなど国全体の産業・経済活動がゆらいできている。GNPの伸びも二、三%の範囲で、すでに低成長時代に突入しているのだ。

このため、相変わらず消費活動も不活発で、全体の流れとしては明るい材料は見つからない。

消費マインドに刺激を与え、購買意欲をどう喚起させるかは、メーカーにとっても流通業者にとっても、企業の存在をかけての重大な課題だ。

消費者にモノをどう買わせるか。ここ一、二年で小売業界の主流になってきた「価格破壊」(安売り商法)の勢いはすさまじい。

従来のディスカウンターさえドギモを抜く過激な販売戦略で、消費者の購買意欲を引き出し、小売市場に活気をもたらせることに成功しているのだ。

一万円、二万円台の紳士服を銀座で売り出した青山商事(本社=広島・福山市)の“安売り商法”は、代表的な例で、高値維持の専門店やデパート商法をぎょうてんさせたのは周知のとおり。

現在ではこの安売り、低価格志向の販売戦略は一般化しつつあり、すでに消費者も感動しなくなってきているほどだ。バブルがハジけて“商いは薄利多売にあり”という原点に立ち返ったということになるわけだが、高価格志向で高価格商品がバカ売れしたバブル時代とは対照的な消費マインドで、モノを売る方も買う方も真の消費生活に目覚めたということか。

外食分野でも似たような状況にある。“食べ放題”“飲み放題”などの営業戦略はその象徴的なもので、高単価メニューは敬遠されるという状況を生み出している。

このため、会席、割烹料理、フランス料理といった高単価料理を売りものとしている業態は、客数、客単価の減少が著しく経営が難しくなってきている。

高単価の店は法人利用やアッパークラスの個人消費に大きく支えられてきた面があった。不況下にあってはその需要も縮小するという状況にあるわけだ。

もちろん、高単価な店(業態)ばかりではなく、客単価二〇〇〇~三〇〇〇円クラスの店でも、一人当たりの消費頻度(来店数)がダウンしたという声をよく耳にする。

このため、客の来店動機を強く喚起するために、価格の見直しをはじめとして、低価格メニューの導入、サービスの向上、新業態の開発など多面的な経営戦略が浮上してきている。

業態開発といえば、新店舗の出店、リニューアルといったことなどになるが、新規出店については、不況を反映して物件価格が大幅に低下してきているので、それだけ店舗開発が容易という状況になっている。

もっとも、「物件情報は多くなったが、立地のいい場所、好物件は少ない」という声もあり、出店が容易になったといっても、集客が大きく望める物件となると、その数は限られてくるようだ。

バブルが破綻してここ二、三年来のもう一つの傾向として、営業店舗の買収やチェーン企業の吸収合併といったことが顕著になってきている。

外食産業もかつてのスーパーのように、すでにオーバーストアー気味で、とくにファストフード、ロードサイドレストラン、居酒屋チェーンなどの業態においては、地域での競争が激化してきており、“サバイバルゲーム”の様相を呈している。

「庄や」「やるき茶屋」などをチェーン展開する大庄グループ(本社=東京・大田区)が、串焼チェーン「949」((株)イズプランニング)、大衆居酒屋チェーン「呑兵衛」((株)木戸商事)などを傘下に収めたのはその典型的な例で、すでに“弱肉強食”の状況が進行しているということだ。

チェーンビジネスにおいては、好立地での出店をどう具体化していくかが、大きなポイントだ。だが好立地出店であっても、クオリティーの追求や店舗運営の熱意(ソフト)が不足していては、地域での競争に打ち敗けてしまう。

立地に恵まれなくても、店舗スタッフの意欲(ヤル気)やオペレーションの工夫によって、集客機能を発揮することもできるのだ。

要はその店の独自性を打ち出して、来店動機を喚起し、固定客を増やしていくということだ。

店がペイラインとする客数、客単価を確保していく、そのためには結局のところは客一人ひとりの「満足度」を積み上げていくしか、繁栄の道はないわけだ。

客商売として、とくにフードサービスにおいては基本に忠実に、QSCやホスピタリティーの精神を発揮して、「リーズナブルな価格」「おいしい料理」を提供していくことにつきる。

業界においては「消費不況はまだ二、三年は続く」「もうかつてのような景気の回復は望めない」とネガティブな考え方が支配的だ。

だから、各企業(店)においても「マイナスにならないよう、現状維持をはかっていくしかない」(芝パークホテル・中国料理北京)。

「これといった切り札はないが、リピーター客を増やす努力をしていく」(東京都ホテル・グリルグレドール)

「企業のリストラで喫食率が一五%低下した。集団給食という受け身の業態であるので、これといった方策はないが、売上げを確保していくには、新規出店(委託契約)を続けていくことが不可欠」(メフォス)

長引く不況で出口が見つからないといった状況だが、景気の回復を待って、「現状をキープしていく」というのが業界の最大公約数的考えのようだ。

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