急成長宅配弁当 「玉子屋」口コミだけで5年で売り上げ2倍

1995.05.15 76号 5面

「テレビを見ました。電話注文であんなに忙しいのに注文忘れをホローしてもらって申しわけなく思いました。これからもがんばって下さい」某テレビ局の宅配弁当企業リポートの番組放映後にはこのようなメモが弁当注文のFAXに多数見られた。「食べ物は完璧に真心よね」と夫婦の二人三脚でゼロから年商二〇億円企業に育てあげた(株)玉子屋(東京都大田区、03・3754・6167)の菅原紀久子専務は語る。

同社は八九年には一日一万食の宅配を五年後の九三年には二万食に、現在は二万二〇〇〇~二万三〇〇〇食、得意先約二〇〇〇社と不況下二ケタ成長を続けている。朝9時~10時に当日の注文を取る。主力商品は二ヵ月間は同じメニューがないという四二〇円と五一五円のオフィス日替わり弁当。「毎日のことなので喫食者の健康管理を考えながらおいしく安く」がモットー。

「原価率は四八~五二%」。一般外食の三〇%に比べると無謀に高い。コメは新潟の農家と契約しているコシヒカリを使用して自社炊飯工場で炊く。野菜をはじめ食材のほとんどはその日の朝仕入れたばかりのフレッシュを使用。

「社長自らが毎日弁当を食べていることを各食材納品業者は知っていて、サンプルと違うものや品質の悪いものを持って来るということはまったく心配ない」と納入業者を変えることなく長いつき合いをしているため信頼関係が築かれていることを強調する。

五年間で売上げを二倍にしたが営業専任者はいない。口コミで玉子屋の輪は広がっている。都心は宅配弁当の激戦区であり、客を取ったり取られたりは日常茶飯事だが「お客は必ず玉子屋に戻ってくる」という。

昨年はコメ不足から仕入れ値が三〇%アップして、同社では一ヵ月のコメ代が七〇〇万円も増えてしまった。業界ではこうした事態を吸収できず値上げをした業者が多かったが、玉子屋は「おいしくて安い」のセールスポイントをぎりぎりまで厳守するためいろいろ対策をねった。その一つが「脱気水」の導入である。出費がかさむ時こそ逆の発想で設備投資をして高品質、効率化を図ろうという「ハードは武器」の考え方である。

空気成分のない脱気水で炊飯すると炊飯時間の短縮ができ、原料米当たりのご飯の生産量も増加するとの説明で導入したところ、一釜で五〇食とれていたのが二~三食、約五%位多く取れるようになった他、稼働時間が大幅に削減できるようになった。

もう一つ最近武器に加わったのが三tの容量を持つ「酸性水」を作る装置。水をアルカリ水と酸性水に分けて煮炊きや飲料はアルカリ水、殺菌用には酸性水を使う。野菜を酸性水で洗うことにより鮮度が保たれ、弁当がお客に届いた時もパリパリしているようになり、他社との大きな差別化になっている。それまで調理場ではクレゾールや野菜用洗剤を使っていたが、酸性水で、よりナチュラルに安全性を高めることができたという。

この7月からPL法が施行される。衛生管理は最大のテーマである。同社では「取り引きをする時には工場に見学に来てもらいます」という。これなら安全だと確認してもらうことがお互いの信頼関係を高めている。

「おいしさと安全を追求すれば原価は高くなる。その他の部分で合理化を徹底して行い適正利益を確保する」という同社は五〇%の原価率に対し、人件費率は二八%。スタッフは正社員、パートあわせて一五〇人。一時間に六〇〇〇個、一分間に一〇〇個の弁当を仕上げていく。一人当たりの生産性の高さは業界でも唯一である。

今後の拡大に向け、ライスライン増設を決定、今秋にも出来あがる。寿めし、混ぜご飯で差別化を図ろうというもの。三万食体制に向け着々と準備を進めている。

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