工場で野菜を作る 出光興産の「アドニス・コミュニティ・ファーム」

1995.06.19 78号 2面

年間を通し、どこでも同じ大きさ、同じ色、同じ味の野菜を大量生産できるようにしたのが、「植物工場」である。気候により産地が限定されたり、気象条件の変化を受け易い不安定な農業、また、農業従事者の高齢化による後継者不足など、農業を取り巻く環境は厳しい。これらの問題を解決しようというのが植物工場。従来の農業を根底から覆す工場生産の野菜が、懸念される二一世紀の食糧危機を救えるかどうか、その行末が注目される。

現在、この植物工場を積極的に展開する企業二二社が加盟し、「植物工場普及振興会」を組織している。このうちの一社である出光興産(株)の植物工場にスポットを当て、工場内で野菜がどのように作られているか紹介しよう。

出光興産(株)植物プロジェクト(千葉県市原市姉崎海岸、0436・62・3959)は、農業を取り巻く環境が厳しい中、企業でありながら農業分野での総合サービス業を目指し、植物工場を設立した。

まず基本技術である養液栽培(水耕栽培)技術を昭和58年に開発、62年には植物工場として本格稼働を開始した。

プロジェクトの一環として実証プラント工場(千葉県山武郡山武町、0475・88・3080)があり、ここではホウレンソウ、サラダ菜が栽培されている。

ホウレンソウは、夏場は弱いとされていたが、光、温度、光合成補助などの環境制御や夏でも花が咲かない品種改良によって、短い期間で同じ重量、高さ、品質のものを年間を通して安定的に生産できるようにした。

工場内は、すべてコンピュータで集中管理されており、種播きから収穫までを二八日と設定する。

「工場の流れ作業と同じ。月曜日植えたものは月曜日に収穫し、土・日は休みです」(植物工場プロジェクト芝義雄氏)。

工程は、七の倍数でコンピュータ制御され、室温二五℃~二八℃で、定植から収穫まで一四日、一年で二四回の収穫が可能となる。ちなみに露地ものは冬で二ヵ月かかる。冬のホウレンソウは日照不足から背丈が低くなるが、太陽光と人工光を併用することで均一の長さを保たせたり、炭酸ガスを施用することで葉を、肉厚にするなど、季節の変動に関係なく常に同じ形のホウレンソウになるように工夫されている。

では、収穫されたホウレンソウの味はどうだろうか。

「生食を基本としているため、ホウレンソウ独特のアクであるシュウ酸含有量を落とし、サラダ的な食べ方が楽しめる」という。クセのない新しい味のホウレンソウは、「メニュー幅を広げてくれる」新種の野菜となりそうだ。

気になる栄養価、菌数だが、ビタミンA、カロチンとも露地物と変わらず、菌数も管理された養液栽培のため露地物より低く、農薬を一切使わない無農薬栽培。

こうした工場野菜を生産するのに、設備費は標準規模の一〇〇〇平方メートルで約一億五〇〇〇万円は必要だ。現在、国の補助五〇%、地方自治体二〇%が基準を満たせば得られ、徐々に工場生産野菜の裾野は広がりつつある。

初期の頃は、カイワレ、モヤシなどの芽菜、そしてサラダ菜、ホウレンソウなどの葉菜へと進み、イチゴ、トマトなどは植物工場向けの品種改良がなされれば可能とか、キャベツなどは回転が悪く、コストがかかり不向きという。

「工場野菜の利点の一つに回転率の速さがあげられるが、結局、採算性で露地物との栽培の棲み分けが始まるでしょう」というだけに、コストダウンをいかに図るかが今後の大きな課題となりそうだ。

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