食の視点 一点勝負・味な豆腐料理(その1) たかが豆腐されど・・・
●豆腐苦いか
マグロが実に多様で多彩な調理法に対応できる魚だとすれば、それ以上に不思議な食品が豆腐だ。ヘルシーだ、ダイエットだと豆乳を含めて世界の注目を浴びている、その豆腐に少し集中してみよう。
ギンギンに冷やした豆腐をアツアツのごはんにのせて、醤油をたっぷり。これをグチャグチャにかきまぜて食べる。女性には不評だが、これがやたらうまい。食欲のない時など、これで生き返りそうな勢いだ。もっとも友人の中には、冷奴とビールさえあれば、二ヵ月は生き延びられると豪語するものもいるが。
夏の冷奴もいいが、盛大に湯気を上げている湯豆腐も冬のごちそう。中華の家常豆腐はごはんにも酒に合う一品。豆腐一丁あれば、おかずが足りない、酒の当てがないなどの時には本当に重宝する。麻婆豆腐もあれば、揚げ出し豆腐もある。田楽もあれば味噌汁もある。豆腐は、どんな調理法、調味料にもいやがらずになじんでくれる。
●オールラウンド
豆板醤とゴマ油をのせて蒸しても香りの良い豆腐の蒸し物ができるし、溶き卵の中に沈めてエビなどを加えれば立派なお客様料理となる。澄まし汁をごはんにぶっかけてかき込んだ小学生時代の思い出をもつ人も多いのではないか。豚汁だって、けんちん汁だって豆腐がなければ物足りない。
鍋物も豆腐か生揚(厚揚)が入れば引き立つし、バターでソテーすればトーフ・ステーキに早変わり、国際舞台にも立てる素材だ。和でも洋でも中でも、何でも来いの幅の広さ、懐の深さ。
料理だけではない。アイスクリーム、トーフシェーキ、トーフケーキのようなお菓子にもできる。豆腐を作った後の絞りかすのオカラは、卯の花(オカラの炒り煮)にすればいい、裏ごししたものに具を入れて揚げればガンモ(飛龍頭)。イワシの摺り身に豆腐を裏ごしして入れて揚げれば軽い味のさつま揚げになる。
●今さらの豆腐学
豆腐は、今さら言うまでもなく、中国から日本に伝わったもので、アジア各国を中心にさまざまな形の豆腐が存在する。昔は日本でもそうだったが、縄で縛って運んでも崩れない固いものが中心のようだ。
豆腐の味は大豆と水で決まると言われ、だから京都の森嘉のがおいしいのだ、と話題になるのもグルメの時代にふさわしいのかもしれない。水が良いことが条件と言えば、日本酒。日本酒のおいしいところが豆腐のおいしいところ、と言えるのかどうか分からないけれど、とにかく水。井戸水を使っている店はまず間違いなくおいしい豆腐屋。
水でふやかした大豆をひいてペースト状にしたものを、煮詰めて布でこす。こしたものにニガリを打って固める。乱暴に言ってしまえば、豆腐作りの工程とはこんなもので、素材としては本当に単純。単純だからこそ、逆に言えば素材の味が重要になるわけで、それで先の京都の豆腐のように、良い水の手に入る場所で良い大豆を使って、間違いのない技術で作ることが、即おいしい豆腐作りにつながる。
大豆も近ごろでは、外国産で相当良いものもあり、一概に国産でなければならないというものでもなさそうだ。
ところで、固めるのがニガリと書いたけれど、実際は、凝固剤を使っている。凝固剤と聞くとちょっとセメントかなにかのように思われるけれど、れっきとした食品添加剤と認められている硫酸カルシウム、グルコノデルタラクトンとニガリ。どれにも特徴があるようで、味に変わりは出ないから、三種類を適当に混ぜ合わせて使っているところが多いそうだ。