フードコンサルティング 上場企業にモノ申す(33)ワタミ 「ブラック企業」返上なるか

2014.07.07 424号 13面

 いまや外食業界の枠を越えて、日本全国の「ブラック企業」の代名詞的存在となってしまった大手居酒屋チェーンのワタミ。ワタミよりブラックな飲食企業は多いのだが、創業者・渡邉美樹氏の存在が際立つ故、また、急成長の反動として、象徴化されてしまった感は否めない。

 その悪影響をまともに受けた形で、業績面でも2014年3月期連結最終損益が49億円の赤字となり、1996年の上場以来初の赤字に陥ることとなった。不振の元凶は居酒屋「和民」の大苦戦にある。

 数字を追うと、主力事業の国内外食部門(和民ほか)は、2012年3月期の売上高740億円が2013年3月期には売上高699億円となり(前期比94.4%)、営業利益に至っては30億円の黒字から19億円の赤字に転落してしまった。

 これを裏付けるように、本紙で毎月お伝えしている既存店売上高前年比でみても、2012年3月期が96.1%、2013年3月期は93.1%、2014年3月期は92.9%と、なお下げ止まっていないことが分かる。

 不振の直接的な要因は、ずばり人手不足にある。昨今のニュースにもあるように、同社だけでなく外食産業全体で人手不足が深刻な状況が続いており、大手チェーンの中には深夜営業を休止するだけでは済まずに、一部店舗の閉鎖にまで追い込まれている。

 しかし同社の場合は、それに輪をかけるように「ブラック企業」とのレッテルが貼られて、社会的にも批判的な目で見られているマイナスの影響の大きさは、さすがに当社経営陣も認めているところだ。

 実際、今年5月8日に行われた決算発表の記者会見で、桑原社長から今年4月に入社した新卒社員が、当初目標の半分(約120人)だったことが明らかにされた。

 それもそのはずで、社員に配られる「理念集」に「365日24時間死ぬまで働け」と書かれていたような会社には、就職難の若者でなくとも入社しないであろう。

 少なくとも「理念集」に書かれていることが単なる精神論で終わっていれば、「ブラック企業」と呼ばれることに対する会社側の反論にも多少の説得力はあるのだが、同社の場合はパワハラに始まり、社員の過労自殺や賃金未払い、不適切な労使協定、内部告発者に対する懲罰的な解雇など、労働基準法に違反する行為のほとんどすべてが起きている。

 ちなみに、本連載で取り上げているとおり、同社は、れっきとした東証1部上場企業である。

 だが、さすがに経営陣も今のままでは会社がもたないことにようやく気付いたのか、今期は60店舗閉鎖と営業時間の短縮によって、1店舗当たりの社員数を現在の1.86人/店から、今期末には2.2人/店まで増やして運営管理体制の立て直しに取り組むほか、社員のメンタルヘルスサポートの取り組み強化やコンプライアンス委員会の設置などを今期の計画に盛り込んでいる。

 会社側の動きを見る限りにおいては、少なくとも「ブラック企業」と後ろ指を指される事態からは抜け出そうという必死さは感じられる。あとは、それらがきちんと成果を結んで不祥事を防げることができるのか、また社員の引き止めにもつながることで、外食事業が再び軌道に乗ることができるのか、大いに注目していきたい。

 同社の創業者は、ベストセラー経済小説『青年社長』の主人公のモデルとなった渡邉美樹氏であり、昨年の参議院選挙では自民党の比例候補として初当選を果たした。

 同氏の参議院議員としての公式サイトには、「経営力で日本を取り戻す」「教育力を高め日本を取り戻す」と勇ましい表現が掲載されているが、それ以前に、同社の取締役は退任したものの、支配株主として、いまだオーナーの地位にあり創業者でもあるのだから、まずはワタミの業績を取り戻してほしいものである。

 ◆フードコンサルティング=外食、ホテル・旅館、小売業向けにメニュー改善や人材育成、販売促進など現場のお手伝いを手掛けるほか、業界動向調査や経営相談などシンクタンクとしても活動。

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