外食史に残したいロングセラー探訪(87)永楽町スエヒロ本店「しゃぶしゃぶ」

2014.07.07 424号 08面

 ◆門外不出のごま酢レシピ 瞬く間に広まったしゃぶしゃぶ

 日本を代表する肉料理のしゃぶしゃぶ。冬の料理とイメージされがちだが、もともとは暑くて食欲の落ちる夏向けメニューとして考えた料理だった。発祥は、1952年、大阪・北新地にある「永楽町スエヒロ本店」。当時は、新しい牛肉の食べ方やおいしさ、ユニークな名前が評判となり、店の外には並びきれず、当時3階まであった店舗の階段にも座るくらいの列をなしたという。

 ●商品の発祥:欧米に負けない日本にする

 戦後、「永楽町スエヒロ本店」先々代の社長・三宅忠一さんは、欧米人なみの体格になるには、もっと肉を食べなければと考えた。ステーキは、脂っこくてたくさん食べられない。そこで、2年もの歳月を費やし、中国料理「〓羊肉(シュワンヤンロウ)」からヒントを得て、脂が適度に落ち、夏でもさっぱりとたくさん牛肉を食べられる料理を開発した。

 料理名の起源は、洗濯の音。ネーミングに悩んでいる時、厨房から仲居さんがおしぼりを洗ってすすいでいる「ジャブジャブ」という音が聞こえ、「しゃぶしゃぶは、肉の洗濯だ」とひらめく。そこから、しゃぶしゃぶという名前となった。

 ●商品の特徴:ごま酢の作り置きは一切なし!

 おいしさのポイントは、ごま酢。甘めで粘度のあるたれが多い中、同店はサラッとしたタイプ。店内で、2種類のごまをブレンドし、煎った後、10時間すりつぶす。そこへ醤油や米酢、柑橘系の酢などを加える。味の特徴は、ごまの豊かな香りと、繊細な配合で感じさせるやわらかな甘味だ。

 たれの味を守るため、ごま酢は毎朝、店内でその日の分を作る。残ると廃棄する徹底ぶり。ごま酢レシピは、現代表の三宅一郎さんと料理長の2人しか知らず、秘伝の味を守っている。

 ●販売実績:しゃぶしゃぶは不動の人気

 すき焼きやステーキも扱う同店だが、不動の一番人気はしゃぶしゃぶ。価格帯と場所柄、平日は接待などのビジネス利用が多く、祝祭日は昔からの固定客が多い。昼と夜の売上げ比は、3対7で夜が多く、昼の平均単価は、3000円ほど、夜は1万1000~1万2000円。

 鍋料理は、故・人間国宝である角谷一圭氏が作った鍋で味わえる。「しゃぶしゃぶが生まれたこの場所で、高品質の味、空間、そしてサービスを楽しんでいただけたら」と一郎さん。一昨年、醤油を使わない「白(しろ)すき焼」を開発し、メニュー化した。伝統を守りつつ、新しい挑戦も続けている。

 ◆企業データ

 社名=(株)永楽町スエヒロ本店/所在地=大阪市北区曽根崎新地1-11-11/事業内容=飲食店経営。「スエヒロ」は、本店の他に東京・京都などにもあるが、一部を除きそれぞれ経営は異なる別会社。洋食レストラン弘得社(こうとくしゃ)をルーツに、「ビフテキのスエヒロ」から全国に広まった。毎年3月10日は、全国のスエヒロ経営者が集まり、大阪天満宮に参拝をする。

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