外食史に残したいロングセラー探訪(101)一芳亭 本店「しゅうまい」
◆皮は薄焼き卵 フワッとジューシー 機械の仕上げに手をかける
薄焼き卵で包まれたシュウマイは、戦後の大阪・難波で生まれた。卵が貴重だった時代、高級感もあって、瞬く間に人気商品となる。生みの親である「一芳亭 本店」は、春巻きや酢豚などがある中華料理店。にもかかわらず、定番のギョウザや焼飯、ラーメンすらメニューにない。自店の料理を「華風料理」と名付け、シュウマイに手をかけてきた。関西を中心に多くのファンに愛され続けている。
●商品の発祥:小麦粉の代用
1933年、初代の西岡策馬さんが難波で中華料理店を始めた。第2次世界大戦後になると、物資が不足し、シュウマイを作ろうにも、具材を包む皮に使う小麦粉が手に入らない。そこで、代用品として考えたのが、片栗粉でのばした薄焼き卵だった。卵に、水と北海道産の片栗粉、塩などを混ぜ、薄く焼く。ほんのり黄色い皮が、豚ひき肉、エビ、玉ネギと、塩や醤油などの調味料を混ぜ合わせた具材をやさしく包む。
●商品の特徴:玉ネギたっぷり
同店のシュウマイを口に含むと、ふんわりと軟らかな食感に驚く。その理由を尋ねると、「薄焼きの卵で包んでいることと、淡路島産の玉ネギが多めに入っているからやと思います」と、3代目社長の榎文男さん。小麦粉で作ったシュウマイの皮は、もっちり感が出やすいが、卵には、小麦粉ほどの粘りがないので、やさしい食感になるのだという。
メニュー考案以来、ずっと手作業だったが、持ち帰りやインターネットでの注文、百貨店への出店に併せて、生産が間に合わなくなり、2010年に工場を建てた。機械化を進めても、最後には必ず手で形を整える。
●販売実績:1日7000~8000個!
本店、船場店、百貨店への出店すべてを合わせると、1日に7000~8000個も売れている一芳亭のシュウマイ。本店の8種類ある定食の中でも、一番人気は、シュウマイ10個が付いた「しゅうまい定食」(750円)。次に「豚天定食」(900円)が続く。どの定食にも、シュウマイが5個付いている。
榎社長は「まだ若いころ、先代の社長に、ギョウザのメニュー提案をしたんです。そうしたら、いらんことせんでいい、とにかくシュウマイに手をかけろと」と言われた。質の高い物を提供し続けるためにも、今はそうして良かったと実感している。「まぁいいやは、ダメ」と妥協を許さない姿勢が、味にも現れ、客に支持され続けているゆえんだろう。
●企業データ
社名=一芳亭 本店/本店所在地=大阪市浪速区難波中2-6-22/店舗数=2店/事業内容=中華料理店。長年の常連客が多く、家族連れも1人客も多い。店内で食べるのが一番のお薦め。ただ、どうしても欲しいという要望から、持ち帰りの他に、シュウマイのみ冷蔵の宅配便で全国発送もしている。冷凍は扱っていない。