外食の潮流を読む(32)WRGPに見たラーメン職人の情熱と河原成美氏のラーメンによる社会貢献
11月30日、12月1日の2日間にわたり「ワールドラーメングランプリ」(以下、WRGP)が大阪で開催された。これは「博多一風堂」の創業者である河原成美氏(力の源ホールディングス代表取締役会長兼CEO)が総合プロデューサーを務める大会で、「ラーメンを愛する全ての人々にスポットライトを一身に受けるチャンスを!」を旗印としたものだ。WRGPの起源は2012年5月に開催された力の源グループの社内コンテストである。
この時の参加資格は「博多一風堂」の社内のれん分け制度で独立した14人の店主たち。第2回は対象者を力の源グループの全社員、全アルバイトスタッフに拡大し13年12月に開催した。そして第3回は日本全国のラーメン職人をはじめラーメンを愛する人全てに門戸を開く大イベントとして15年2月に開催した。この時のエントリーは182人であった。これまでの大会の名称は「暖簾分け店主(NWT14)ラーメン総選挙」「力の源ラーメン総選挙」「力の源カンパニーPresentsラーメン総選挙」である。そして、今回のWRGPに至る。ちなみに第3回の優勝賞金は300万円であったが、今回は1000万円。エントリーは2倍以上の452人となった。
今回のテーマは“LIMIT600 from Nippon”。出品されるラーメンは「一杯あたりの麺、スープ、トッピング全てのカロリーを600kcalまでとし、日本を感じる商品、日本を表現すること」という基準をクリアしたもののみ。11月初旬に書類審査が行われ16人を選出。これを公式ホームページで公表し一般からの投票を募った(この得点は決勝大会でのポイントに加算される)。そして11月30日と12月1日の決勝戦に至った。
この日に配布された資料には、それぞれの商品名の他、販売価格、麺の種類、商品原価、麺の量、総カロリー、商品説明が示されていて、商品のこだわりとともに、ラーメン店の現場で応用できる内容になっている。
16作品を見渡して特徴を述べると、当然ながらオリジナリティーに富んでいて、既視感というものが全くなかった。本業がフランス料理、日本料理という料理人の出品も目立った。海外からは、英国・ロンドンと米国・サンフランシスコからの出品まであった。
優勝したのは福岡市「大重食堂」オーナーの大重洋平氏が考案した「純ラーメン七節」である。平戸のあごと羅臼昆布に自家製の牛節、豚節、鶏節、フグ節、鰹節、鯖節、イワシ節でだしをとるのであるが、これをサイフォンで行なっている。そして、福岡県産ラーメン専用小麦ラー麦を100%使用した麺に鹿児島県産のブランド豚「茶美豚」を塩麹に48時間漬けた焼き豚をのせ、大分県産の蘭王の煮卵と東峰村のキクラゲを有明海の焼き海苔と博多万能ネギをトッピングした化学調味料不使用の無添加ラーメンである。この説明文を読むだけで作り手の情熱が伝わる。
私のWRGTを体験した印象は「ラーメンは表現の宇宙」であり、一杯のラーメンは世の中を変えるということ。私はラーメン職人という求道者が存在していることを改めて認識したと同時に、主宰者である河原氏のラーメンを基軸とした社会貢献のマインドに尊敬の念を抱いている。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。