トップインタビュー:外食経営者の提言=テンポスホールディングス・森下篤史社長

2018.05.07 471号 12面
森下篤史 株式会社テンポスホールディングス代表取締役社長

森下篤史 株式会社テンポスホールディングス代表取締役社長

 ◆つぶれる店には理由(ワケ)がある

 森下篤史社長は、厨房機器専門のリサイクル業という新業態を開拓した人物。同社は業界で圧倒的な強さを誇リ、二番手を寄せ付けない。年間1万件以上の使わなくなった厨房機器の買い取リを行っているが、それはつまリ、それだけ閉店する飲食店を見ているということでもある。その森下社長に、閉店に追い込まれる理由を取材した。

 ●“独り善がり”の頑張りは通用しない

 新規開業した店の5年後の生存率は約45%。残念ながら半数以上が閉店しているのが現状。厨房機器のリサイクル業という仕事柄、閉店する店を数多く見てきましたが、店主が決まって言うことがある。

 その一つが、「頑張って仕事をしていれば、そのうち、売上げが上がるようになると思っていた」「真面目に働いていれば何とかなると思っていた」という言葉。頑張るのはいいけど、頑張りどころがズレている。真面目に働くのもいいけど、何も考えずに毎日同じことをしているだけでは、競争の激しい飲食業界で生き残っていくのは難しい。

 たとえば、一生懸命に料理を作っても、お客が「おいしい」と思わなければ、商品としては通用しません。自分が「おいしい」料理をいくら頑張って作っても、それは“独り善がり”の頑張り。そういう店主に限って、自分の料理にヘンな自信があって、「オレの味が分からないんだよな」と言う。「自分がおいしい」のではなく、「お客がおいしい」料理を作ろうと努力していないんです。

 ●自己満足の“こだわり”にお金をかけない

 新規開業する際に、食器や内装やスタッフのユニフォームなどにこだわってお金をかけてはダメ。そんなことにこだわったら、開業資金がかかって仕方ない。店が繁盛するかどうかも分からない前に、こだわりにお金をかけている場合ではありません。

 こだわるべきことは、お客がおいしいと思う商品=メニューを開発すること。顧客ニーズを追求することに、とことんこだわるべきです。

 ●メニュー開発者は科学者のように実験を繰り返せ

 新聞に掲載されていた記事ですが、京都大学の霊長類研究所では、チンパンジーにジャンケンのルールを理解できる能力があるかを調べるために、同じことをなんと1日140回、100日間、全部で1万4000回繰り返した。それくらいやらないと、結果を出せないということです。

 では、飲食店の店主が商品を開発するとき、何回くらい実験=作り直しをしているか? 最初から、「せいぜい4~5回も試作したら、完成品ができる」と甘く考えている。それが売れなかったら「オレの味が分からないんだ」とか、「十分、頑張ったから仕方ない」程度にしか思わない。

 「だから店がつぶれるんだ」と私は言いたいですね。お客がおいしいと思う商品を開発するまで、何度でも料理を作り直せということです。

 ●「おいしい」か「まずい」かはお客に聞け

 さらに、「おいしい」か「まずい」かをできるだけ多くのお客に聞くこと。店のスタッフや常連さん2~3人に聞く程度ではダメ。それじゃ、店はつぶれる。「今日の料理はお口に合いましたか」とか「ご意見をお聞かせください」と言われて、悪い気がするお客はいません。むしろ熱心さをかってくれて、応援したい気持ちになるはずです。そうやって、とにかく、お客に直接聞いてデータを集めることが大事です。

 ●“ちょっと”だけ良くすれば、店ははやる

 お客はいろいろなお店に行きます。つまり、行った店同士を常に比較しているということです。店主は、自分の店が他店と比較されていると肝に銘じること。そして、周りの店よりちょっと良くする。うどん店なら、うどんの量を少しだけ増やす。かき揚げを一回り大きくする、同じメニューを10円安くするなど、ちょっとだけ周りの店より良くすればいいんです。

 ガンと良くするのは難しくても、ちょっとだけならすぐできます。このちょっとの差が、お客が店を選ぶときに影響するのです。

 ●高い食材でおいしい物が作れるのは当たり前

 経営というのは、相反することを同時に成立させることです。たとえば、高くておいしい食材を仕入れるのは簡単ですが、それじゃ、商売にはならない。安くておいしい食材を見つける、最小限のスタッフで最高のサービスを提供するなど、相反することを両立させなくては商売は成り立ちません。

 たとえば電卓が最初に登場したときは、今よりずっと大きいのに機能は低かった。それが今や、コンパクトなのに高機能、しかも安い。それを実現できたメーカーだけが生き残っているのです。

 飲食店の経営も同じ。相反することを両立させる工夫と努力が、店の存続につながるといえます。

 ◆テンポスバスターズが閉店した1万軒の店主から聞いた

 「閉店する人が後悔する25のこと」

 (1)よその店を見に行かなかった

 (2)客が来たのにうれしさを「いらっしゃいませ」と言えなかった

 (3)従業員のワガママをそのままにしておいたこと

 (4)小さな不正に目をつむっていたこと

 (5)残ったもの鮮度の悪いものを出したこと

 (6)業者のいいなりに仕入れたこと

 (7)感情的に客、従業員に接したこと

 (8)いつもおいしいものを出すと決めていなかった

 (9)客の意見を聞こうとしなかった

 (10)おいしさが分からん客だと思っていたこと

 (11)厨房、店をきれいにしなかった

 (12)業者に感謝しなかった

 (13)どんぶり勘定を続けていた

 (14)神社にお参りをしなかった

 (15)女房を使うのは当たり前だと思っていた

 (16)客の名前を覚えようとしなかった

 (17)約束事、時間を守らなかった

 (18)そのうち、売上げが上がるようになると思っていた

 (19)接客がいまいちでも、料理がおいしければお客さんは喜ぶと思っていた

 (20)赤字が続いても、やめようとしなくて、返せなくなった

 (21)借金で不義理をして、身近な人、大事な人を失った

 (22)家族子供を大事にしなかった

 (23)見れば分かる、食べれば分かる、と高をくくって売る努力をしなかった

 (24)目標もなく、真面目に働いていれば何とかなると思っていた

 (25)支払いを遅らせたり、都度値切ったりして、いやな店主だった

 ◆5年後の飲食店の生存率を9割に上げる「ドクターテンポス」とは

 テンポスバスターズでは、次の順序で飲食店をサポートする事業を展開している。

 (問診)覆面調査、求人サイト掲載、ホームページ作成、三つのサービスを無料で実施

    ↓

 (検診)問診の結果より、「治療」「健康増進」を提言

    ↓

 (治療)治療を必要とする飲食店に集客、販促、教育などの処置を実施

    ↓

 (健康増進)「主治医」が定期的にヒアリングして、健全経営を維持するためのサポートを行う

 ◆森下 篤史(もりした あつし)

 株式会社テンポスホールディングス代表取締役社長

 ●会社概要

 1997年、日本初の厨房機器専門のリサイクル販売会社、テンポスバスターズ設立。

 2002年ジャスダック上場。2017年11月テンポスホールディングスヘ移行。

 子会社9社。売上げ290億円(2018年4月予想)。3年後に連結売上高500億円を目指す。2016年「女性パワーアップ大賞」奨励賞受賞。

 厨房機器の物販業として、実店舗での販売が全国58店舗、119億。営業マンによる直販が30億円、ネット販売が20億。この三つの販売チャネルに、新たに飲食店を支援するための情報サービス業「ドクターテンポス」を展開。

 2011年、飲食店経営のノウハウを得るために、売上げ30億円規模で「ステーキのあさくま」を買収。その後、売上げを順調に伸ばし、100億円突破が目前となる。

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