海外通信 外食ビジネスの新発想(30)新型コロナにどう立ち向かうか アメリカ外食産業の対応<1>

2020.06.01 496号 13面
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 ◇新型コロナウイルスにどう立ち向かうか アメリカ外食産業の対応(1)

 新型コロナウイルスの感染者数、死者数ともに世界一となったアメリカ。自宅待機令は、4月半ば時点で、42の州と首都ワシントン、そして発令されていない3州内の大都市に発令され、アメリカ総人口の95%、実に約3億1400万人が外出制限を課されることになった。必要不可欠でないとされる事業の停止措置のために、外食産業はデリバリーとテイクアウトのみ営業可能となり、大きな影響を受けている。

 以前からデリバリー中心であったピザ専門店などは、逆に売上げを伸ばすところもあったが、食事に伴う接遇体験全般を楽しむための高級店は、軒並み大打撃を受けた。

 世界各地の一等地に高級レストランを経営するセレブシェフの一人、ジャン・ジョルジュ・ヴォンゲリスティンは、ニューヨーク市だけで15店を経営しているが、3月15日には、市内のレストランの営業を当面の間停止することにし、1000人以上の従業員を解雇。その5日後には、「GoFundMe(ゴーファンドミー)」という募金サイトで、失業した元従業員のために「ジャン・ジョルジュ従業員救援資金」を募り始め、1ヵ月で約18万6000ドル(108円レートで2000万円以上)を集めている。

 休業を余儀なくされた外食店の多くが保険会社に損失補填(ほてん)を請求したが、保険会社側は、補償するのは天災で生じた物的被害による営業停止の損失に限るとして、保険金支払いを拒否。そこで、ジャン・ジョルジュをはじめ、ウォルフガング・パック、ダニエル・ブールーなどの大物セレブシェフは、非営利団体「ビジネス・インタラプション・グループ」を設立し、新型コロナウイルスによる損失補填を求めて、共同で保険会社に働きかけている。トランプ大統領は、「契約にパンデミックが除外されていないなら、保険会社は補償すべきだ」と言っている。

 さて、チェーン店も、それぞれ方策を講じている。カフェレストラン・チェーンの「パネーラ・ブレッド」は、パン各種、牛乳、乳製品、リンゴやブルーベリーなどのフルーツ、トマト、アボカドなどの野菜の販売を始め、デリバリー、ドライブスルーで購入できるようになった。

 「ワッフル・ハウス」は、オリジナルのワッフル・ミックスの販売を始めたところ、4時間で完売し、追加販売している。「シェイク・シャック」は、家庭でシェイク・シャックのバーガーを作って楽しめるよう、パティやポテトロール、チーズ、ソースの入った8人前のキット(49$)を「ゴールドベリー」という食のECサイトを通して販売している。

 また、「マクドナルド」「バーガーキング」「デニーズ」など多くのファストフードチェーンは、ウーバーイーツやドアダッシュなどの第3者プラットホームを使っての配送手数料を期間限定で無料にした。

 一方、普通なら客足が増えれば歓迎すべきなのだが、「タコベル」は、ドライブスルーを利用した客にタコスを1個無料で進呈するキャンペーンをしたところ、客が2倍に増えたことから、密集を避けるべきときに感染の危険が増加するという不満の声が従業員から上がった。

 ファストフードやファストカジュアルのチェーンは、医療従事者などのために現物寄付を実施し始めたところもある。

 外食産業に従事する労働人口は1530万。売上げは8630億ドル、GDPの4%を占める。全米レストラン協会は4月20日、新型コロナウイルスの影響により同産業で働く800万人がすでに失職したという調査結果と、3月の売上げは 300億ドル、4月は500億ドル、年間2400億ドル減少する見通しを発表、連邦政府に具体的な支援策を提案した。

 大打撃を受けた外食産業は、あらゆる手段を使って生き残りを図っている。今回のパンデミックでは、特定の店ではなく外食産業全体が打撃を受けているため、助け合ってこの試練を乗り越えていこうとする気運が感じられる。

 業界の団体がそれぞれ救済措置を用意しているほか、「Change.org」というオンライン署名運動のためのプラットホームでは、「Save America’s Restaurants(アメリカのレストランを助けよう)」という政策者に向けたキャンペーンで、目標の50万人の署名がほぼ2ヵ月で集まった。なお、全米レストラン協会の始めた外食産業従事者救済基金には、個人や企業から2週間で1500万ドル(16億2000万円)余りの寄付金が寄せられている。

 次回は、小さな個人店の試みを紹介する。

 【写真説明】

 写真1:3月7日から9日にかけて、ニューヨークのジャビッツセンターで開かれたインターナショナル・レストラン&フードサービス・ショーのプレスルームで見かけた「ノーハンド・シェイク」を呼びかけるリーフレット。3週間後、ジャビッツセンターは、1,000床の臨時病院へと変貌した

 写真2:大多数の州で、飲食店は店内の食事は禁止され、テイクアウトとデリバリーのみに。徐々に緩和されつつある

 写真3:デリバリーのプラットホーム、ウーバーイーツのサイト。3月半ばに国家非常事態が宣言された後、注文が急増。また、このプラットホームに参加するレストランも急増した。注文の際、レストランに寄付をする機能も始まり、ウーバーイーツは同額分、計500万ドルを上限に全米レストラン協会のレストラン従業員共済基金に寄付するという

 写真4:シェイクシャックは家庭で作れるよう、8人前のシェイクシャック・バーガーができるキットを発売 *shakeshack.comより

 写真5:ウォルフガング・パックの「スパーゴ」ビバリーヒルズ店では、カーブサイド(店の前の舗道)でピックアップできる食事を販売。1人前59$で、アペタイザー、サラダ、アントレ、デザートまで揃っている。また、さまざまなハーブや野菜を詰めたファーマーズ・マーケット・ボックス(1人前55$)の販売も始めた *https://wolfgangpuck.com/dining/spago-2/ より

 写真6:「ワッフル・ハウス」が始めたオリジナル・ワッフルミックスの販売。20~24枚のワッフルが作れる。15$ *wafflehouse.comより

 写真7:新型コロナウイルスによる損失補填を保険会社に求める非営利団体「ビジネス・インタラプション・グループ」の設立メンバーのセレブシェフたち。そうそうたるメンバーが名を連ねている *werbig.orgより

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