外食の可能性を探る!デリバリーの繁盛ラーメン店

2020.11.02 501号 08面
辛麺屋 一輪「辛麺レギュラー+なんこつハーフ+ライス小」1,600円(税込み)

辛麺屋 一輪「辛麺レギュラー+なんこつハーフ+ライス小」1,600円(税込み)

AFURI「柚子露つけ麺」1,600円(税込み)

AFURI「柚子露つけ麺」1,600円(税込み)

野郎ラーメン「豚骨野郎ラーメン」980円(税込み)

野郎ラーメン「豚骨野郎ラーメン」980円(税込み)

らーめん平太周 味庵「爆盛油脂麺(ばくもりあぶらあぶらめん)」1,250円(税込み)

らーめん平太周 味庵「爆盛油脂麺(ばくもりあぶらあぶらめん)」1,250円(税込み)

 コロナ禍にあって外食店の救世主と注目を浴びるデリバリー。とはいえ、高い手数料や品質維持の難しさなど不安要因は多い。UEの例でいうと、注文件数500を超える優良店は当社調べではわずか9%で、メディアに登場する有名店でも注文数を伸ばせていないのが実情だ。そうした苦況で健闘する繁盛ラーメン店事例から、デリバリー注文を伸ばす攻略術を探り出してみた。

 ※略注:UE=ウーバーイーツ、EI=イートイン、TO=テイクアウト

 ◆辛麺屋 一輪

 尖った売り方で認知度アップにUEを活用

 今回の調査では、二郎系ボリューミーなラーメンと、「蒙古タンメン中本」などの辛旨系ラーメンの2ジャンルにUE人気が偏っていた。中でも辛旨系の新星として注目なのが、東京・目黒の「辛麺屋 一輪」だ。宮崎のローカルグルメである辛麺が主力商品というニッチな業態ながら、高いUE注文数を獲得している。

 辛麺とは“コンニャク麺”とも呼ばれる、そば粉と小麦粉を主原料とした細麺と、唐辛子をたっぷり使った真っ赤なスープが個性的な麺料理だ。コンニャク麺は、細いにもかかわらず、時間が経っても伸びることがない。取材時は購入から4時間後に試食したが、経時劣化を感じさせずデリバリーとの相性は抜群だ。

 メニュー構成では2つの点でユニークな取り組みをしている。1つがサイドメニューの「なんこつハーフ」と「ライス小」を組み合わせたセットメニューをUE限定で販売し、週100食超を売り続けている。なんこつはコリコリ、トロトロの食感がクセになる味で、麺商品の具にチャーシューなどの肉がない欠点を補う。またライスは残ったスープに入れて食べるとリゾットのようなおいしさを味わえる利点がある。2つ目がコロナ禍をきっかけに「お客様支援価格」として「辛麺」(850円)などをEIと同価格で販売していることだ。「利益は吹き飛びますが、多くの新規客獲得につながった」と中村友則店長は語る。

 ●店舗情報

 所在地(目黒店)=東京都目黒区目黒1-4-8 脇田ビル1階/営業時間=11時~23時30分(土日祝~23時)。無休/席数=15席

 ●学ぶ!デリバリー攻略術

 広告宣伝費と割り切った戦略で成功

 多数の店がEI価格にUE手数料35%分を上乗せする値付けをしているが、「辛麺屋一輪」は広告宣伝費と割り切って注文を伸ばすことに成功。「宮崎のソウルフードを全国に広める」という理念あってこその施策といえる。

 ◆AFURI

 ラーメンのハイブランドも多様な売り方を推進

 淡麗系ラーメンで高いUE注文数を獲得しているのは「AFURI」くらいだ。もともと2年ほど前から麻布十番、三軒茶屋のみでUE販売をしており、緊急事態宣言解除後の7月から実施店を10店まで増やした。最も好調なのは麻布十番店で、週平均160杯を売っている。

 同店のUE注文1位アイテムは「柚子露つけ麺」で注文率7割を占める。麺はIEと同じだが、香油であえることで客の手元に届くまで麺がくっ付かない工夫を凝らしている。写真のように盛り付けて外食気分を味わうのもいいが、開封したら即食いも可能なのがつけ麺のいいところだ。

 コロナ以前は、つけ麺4品のみだったが、現在は看板商品の「柚子塩らーめん」などラーメン商品やトッピングを含めた全8アイテムがUE注文可能に。価格設定はEIプラス300~370円と標準的。ラーメン商品はスープをゼラチン状に加工して液垂れを防ぐなど、デリバリーならではの加工を施している。

 同ブランドは緊急事態宣言の真っ只中にあった4月に全店休業を断行。その間、通信販売に参入していきなり月商2000万円をたたき出す好調ぶりを見せた。「今後も店舗営業が厳しい事象があると想定し、店舗外の収益源づくりを時間をかけて育てていく。将来的には海外のお客さまにAFURIのラーメンを届けたい」と、広報の笹島和人さんは展望を語る。

 ●店舗情報

 所在地(麻布十番店)=東京都港区麻布十番1-8-10 麻布十番TSビル1階/営業時間=11時~22時。無休(※店舗により異なる)/席数=18席

 ●学ぶ!デリバリー攻略術

 店舗数10台のローカルチェーンに軍配

 今回の取材で「AFURI」(15店)、「蒙古タンメン中本」(24店)、「野郎ラーメン」(13店)、「ラーメン豚山」(15店)など、店数10~20前後のローカルチェーンブランドにUE注文が集中していることが分かった。ファンの母数とUE営業に注力できる組織力のバランスが奏功しているようだ。

 ◆野郎ラーメン

 アンダー1000円に抑えた心理効果で注文を伸ばす

 チェーン12店中4店が評価件数500超を獲得するブランド力を発揮している「野郎ラーメン」。同ブランドは都心繁華街にも、住宅街が広がるローカル駅前にも出店。販売状況については「詳細は公表できない」(広報担当)との回答だったが、江古田店、三軒茶屋店、大森店、錦糸町店と、いずれもローカル立地に優良店が集中した点が特筆される。住む街として乗降客数が多く、地域密着型の飲食店が多い街はUE販売に有利なのかもしれない。

 売れ筋商品の一つ「豚骨野郎ラーメン」はUE価格で980円とお値打ちぶりが際立つ。EIとの差額もわずか130円で企業努力の様子がうかがえる。日常食は価格に敏感になりがちだという消費者心理を的確にとらえた価格設定だ。その他の商品はラーメン10品、ご飯物4品でEIとの差額は130~300円だが、上乗せ額を商品ごとに細かく調整しており、お客の注文しやすさと自社の利益をどう折り合いをつけるのか、細やかな努力がうかがえる。

 麺、スープ、具をそれぞれ3つの容器に分けて配達するスタイルも独特だ。加えてパンチ汁という独自調味料を別添して直前に加えることで、EIの味に近づける工夫をしている。

 同ブランドはコロナ禍以前からUEに参入していた。当初は汁なし商品のみだったが、コロナ禍をきっかけに汁物商品にもメニューを拡充。デリバリーサービスを拡大させている。

 ●店舗情報

 所在地(江古田店)=東京都練馬区旭丘1-75-1 瀧島ビル1階/営業時間=11時~23時。無休(※店舗により異なる)/席数=15席

 ●学ぶ!デリバリー攻略術

 “○○系”では二郎系が圧勝

 今回の調査では、「野郎ラーメン」「ラーメン豚山」「ラーメン榊」といった“二郎系”と称されるブランドがUE注文を稼いでいる顕著な傾向が出た。「ラーメン榊」は当初、「宅二郎」の屋号でテイクアウト・デリバリー専門の二郎系として突如登場し、賛否両論を巻き起こしていた。

 ◆らーめん平太周 味庵

 半年でUE販売1万杯売ったモンスター店

 個人店が総じて低調な中、圧巻のUE注文を獲得。コロナ禍の3月30日から販売スタートし、9月までに累計1万杯をUE販売するモンスター店だ。「4~5月は1日200杯を超える売れ行きで、緊急事態宣言中にもかかわらずスタッフを増やしたほど」と、林 小輝店主は胸を張る。

 もともと背脂チャッチャ系の有名店。売れ筋商品は掲載の「爆盛油脂麺」と「特製らーめん」で、それぞれUE注文の4割を占める。爆盛油脂麺は700gの極太麺にチャーシューの厚切りと刻みで計80gと圧巻のボリューム。タレと麺を分けて配達し、客自身がかき混ぜて作るのだが、麺が次第に濃飴色に変化する工程がたまらなく楽しい。麺は時間が経っても食べ応えある食感をしっかりキープしている。自粛期間中の客にとってはストレスのたまる在宅生活にケタ違いの量と手作り感でひとときの“非日常”を同品が演出したことは容易に想像できる。UEリピート率が50%を超えるという状況も、そのエンタメ度の高さゆえだろう。

 メニュー構成はEIの9品すべてがUE対応。価格設定は1000~1750円で、EIプラス300~350円は業界標準。9月時点のEI対UEの売上げ比率は3対1と来店客数も順調に回復しつつある。同店としてはEI客優先の営業体制に戻してはいるが、店内レイアウトを変更して引き続きTO、UE販売を続けていく構えだ。

 ●店舗情報

 所在地=東京都品川区大崎4-2-2 トーカンマンション五反田1階/営業時間=11時~23時30分(日曜のみ~22時)。無休/席数=11席

 ●学ぶ!デリバリー攻略術

 驚きのボリュームが食のエンタメになる

 総重量1kg超のボリュームは、見ていて笑いが生まれる面白さ。自粛期間中の鬱憤(うっぷん)を晴らしてくれる快感が、注文増の源泉だろう。外食ができなくても非日常を届けようという気合いが、個人店の弱点を吹き飛ばしたのではないだろうか。

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