Column 居酒屋の潮流を読む(上)コロナ禍で「分断」を要請され、「集まる」ことへの欲求が高まる

2021.01.04 503号 11面
本来は24時間営業であったが、コロナ禍で昼から夜までに。店内には地域別の産品をテーマとした飲食店が19店舗集まっている

本来は24時間営業であったが、コロナ禍で昼から夜までに。店内には地域別の産品をテーマとした飲食店が19店舗集まっている

施設の中の装飾はまるでカオス。それが20代30代の顧客に受けている

施設の中の装飾はまるでカオス。それが20代30代の顧客に受けている

流しやマジシャンが客席を回り、人間臭い光景が展開される

流しやマジシャンが客席を回り、人間臭い光景が展開される

 昨年はコロナ禍で始まり、警戒感を高めながら2021年もスタートした。コロナ禍で戒められたことは「三密」であった。隣の県に行くな、とも要請された。そして生まれたキーワードは「分断」であった。しかしながら、人は無理を強いられると本質的な願望が高まっていく。そこで逆のベクトルで仲間と会いたい、酒場で酔いたいと「密集」を生んだ。

 その象徴が8月4日オープンした「渋谷横丁」である。渋谷駅横のJRに沿って存在した宮下公園が商業施設の「MIYASHITA PARK」として生まれ変わり、その1階に誕生した。

 「〇〇横丁」とは、今や新規に飲食フロアを構成するときに用いる手法であるが、その元祖となるのは2008年5月に第1弾がオープンした「恵比寿横丁」である。昭和レトロの横丁のイメージをさらに印象深く掘り下げて、人々が集まる空間をつくり出している。老若男女というより30代40代が主流だ。恵比寿横丁からはじまり、この渋谷横丁ともにプロデュースしたのは浜倉好宣氏と浜倉氏が率いる浜倉的商店製作所で、ドラスティックな再開発のパターンをつくり上げて、以来「横丁プロデューサー」として全国にさまざまな横丁や地域再生をもたらしている。

 渋谷横丁は端から端までが100mという長さがある。施設の中は330坪、ここに1200席を配している。遊歩道側にはテラス席が設けられ350席を配している。100mという距離の中に1500席以上の食卓風景は圧巻だ。メニューは店舗当たり100から多いところで250に及び、渋谷横丁全体ではおよそ2500となる。どこの店にいても他の店の料理をデリバリーで頼むことができる。客単価は3500円程度。

 それぞれのつくり込みは細部にわたり、さらに人が集まることでこの横丁は本領を発揮する。これらを盛り上げる存在が、流し、マジシャン、占い師といったアーチスト、パフォーマーたちだ。彼らが加わることで異空間の完成度が高まっていく。

 コロナ禍で「昼飲み」が市民権を得るようになったが、渋谷横丁ではそれを堂々と歓迎。夜にいたっても客層は20代30代がほとんどだ。皆、楽しそうに酔っ払っているが、なぜかナンパをしている光景を見たことがない。「横丁」の響きの中にある中高年男性一人酒的なわびしい雰囲気もみじんもない。コロナ禍報道があっても人々はここにやってくる。入場制限があっても入場できるまで待っている。

 さて、こちらは浜倉氏とは関係がないが、新駅まで誕生した虎ノ門ヒルズでは20年1月に虎ノ門ヒルズビジネスタワーが竣工し、6月には3階に「虎ノ門横丁」が開業した。26の飲食店が集まりランチタイムからディナータイムまで営業。オフィスフロアの入居が進まない中でも、同横丁には近隣から続々とお客が訪れ、入場制限がなされている。

 人は集まることによって生き生きとなる。そこにはコミュニケーションがある。酒場の基本は横丁に人が集うことではないか。そんなことを感じさせる「2020年横丁現象」である。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

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