トップの視点:ワタミ・渡邉美樹会長兼社長 アフターコロナは市場再編の好機

2023.03.06 529号 07面
ワタミ株式会社 代表取締役会長兼社長 渡邉美樹氏

ワタミ株式会社 代表取締役会長兼社長 渡邉美樹氏

渡邉美樹氏 インタビュー動画(1)居酒屋の現状と展望は?(収録時間5分41秒)

渡邉美樹氏 インタビュー動画(1)居酒屋の現状と展望は?(収録時間5分41秒)

渡邉美樹氏 インタビュー動画(2)外食産業の現状と展望は?(収録時間2分58秒)

渡邉美樹氏 インタビュー動画(2)外食産業の現状と展望は?(収録時間2分58秒)

渡邉美樹氏 インタビュー動画(3)ワタミの方針と未来図は?(収録時間2分52秒)

渡邉美樹氏 インタビュー動画(3)ワタミの方針と未来図は?(収録時間2分52秒)

◇ワタミ株式会社 代表取締役会長兼社長 渡邉美樹氏

◆ワタミモデルで真の外食産業化を目指す 居酒屋は専門店化の推進が急務

コロナ禍の後遺症が危ぶまれる居酒屋業界。その旗手であるワタミの動向が注目されているが、トップの渡邉美樹氏は「ワタミが産業化する好機」と意気揚々だ。コロナ禍を契機に既存店の転換、宅配食の強化、焼肉や寿司の新規出店など事業多角化を矢継ぎ早に打ち出し、6次産業化を図る「ワタミモデル」の実現に突き進んでいる。そう遠くない外食市場の再編、真の産業化に向け、着々と準備を進めている渡邉氏の見立てを聞いた。(岡安秀一)

●ライフスタイルが激変

–コロナ禍の影響は?

渡邉 そもそも外食市場は少子高齢化と人口減少により縮小傾向にある。それがコロナ禍で一気に加速。居酒屋が最も影響を受けた。居酒屋は12月(忘年会)と3月(歓送迎会)に利益を稼ぎ、以外の平月は収支トントン。しかしコロナ禍で「忘年会や歓送迎会は不要?」という雰囲気が定着。また在宅勤務が増えて「なんとなく」という会社帰りの集客も減った。その結果、12月と3月の売上げは平月程度に激減、平月は2~3割減少。やり方を変えないと、平月の減少分がそのまま赤字となり、経営が成り立たない状況だ。これは当社に限らず居酒屋全般の現実。ライフスタイルが戻ることはなく、アフターコロナの集客回復は望めない。

–今後の居酒屋は?

渡邉 居酒屋はコミュニケーションに最適な業態なので、決してなくなりはしない。しかし市場の縮小は確実。より来店動機を喚起する専門店化が必要だ。同時にインバウンドの復活にも備えるべき。インバウンドを集めやすい業種は焼肉と寿司。当社はそれらの両立を推進している。専門料理6店舗の集合体「こだわりのれん街」、生産性を追求した「焼肉の和民」、寿司居酒屋に特化した「すしの和」の出店を拡大し、いずれも300店舗を目指す。とはいえ、外食市場の縮小をインバウンドで補えるのは、せいぜい日本の人口が1億人を割る約30年後まで。その後を念頭に大胆な施策が必要だ。

–居酒屋以外は?

渡邉 外食には多種多様な業種業態があり、一概に同じ予測はできないが、ライフスタイルに組み込まれているファストフードなどの日常外食は、少子高齢化と人口減少に比例して縮小するだろう。商品力の強い専門店や個人店は根強いが、健全経営を維持するならば小規模にとどめるべきだろう。かたや、数十店舗規模の中堅企業が一番厳しくなると思う。

●多数乱戦から寡占と二極分化

–外食の未来は暗い?

渡邉 いや、むしろ明るいと見ている。これまでの外食は、食文化の発展と生産人口の増加に支えられ、給料が低くても人材が集まり、勢い任せの新規参入が簡単だった。しかし過渡期を迎えた今後は、仕入れ・加工・物流などの各工程が緻密に設計されていないと、時代の要請に応えられない。給料を上げて優秀な人材を確保する、その給料を稼ぐだけの商品力や仕組み作りが不可欠だ。安易な新規参入はなくなり、淘汰や廃業に拍車がかかり、業界構造が大きく変わるだろう。これまでの多数乱戦に終止符が打たれ、限られた大手のプレイヤーが質実を競う、本当の意味での外食の産業化が始まると思う。より優れた商品をよりリーズナブルに提供するために、事業構造の合理化と効率化に拍車がかかるだろう。

–具体的には?

渡邉 簡単にいえば寡占化している米国と同じ道だ。日本の外食市場では年商上位100社の寡占率が20%程度。米国は40%強と見られる。約30年前は双方ともその半分くらいだった。つまり日本は今後も米国を追随し、米国と同じ産業化を築くだろう。各カテゴリー(業種業態)の中で勝ち残る大手企業は一つ。その大手一強と小規模店が市場を分け合う二極分化が進むだろう。

●真価を問われる1兆円企業へ

–ワタミの方針は?

渡邉 私は38年前の起業時、外食の産業化に魅力を感じて居酒屋の経営を選んだ。当時に比べて目覚ましく発展したが、米国の産業化に比べれば、日本の外食は依然として黎明期。60歳を過ぎて「第二創業の好機」だと胸が高鳴っている。ゼロゼロ融資が終わる今後、廃業やM&Aが活発化するのは必至。おそらく2~3年後、外食市場は大きな転機を迎える。そのタイミングに合わせ、当社と理念を共有できる仲間を集めたい。そして外食だけでなく冷食や通販なども含めた食品産業のコングロマリットを目指す考えだ。年商1000億円を切ってしまった現状では失笑されるだろうが、ワタミモデルの産業化を軸に本気で年商1兆円を目指している。どうやって達成しようか、そのシナリオを考えると夢が膨らむ。

–ワタミモデルとは?

渡邉 「地球循環型の持続可能なビジネスモデル」だ。近年はSDGsで通っているが、ワタミは20年前から取り組んでいる。自然エネルギーを使い、廃棄物をリサイクルし、1次・2次・3次産業をつなぎ、雇用を生み、納税し、企業利益を得る。そうしたワタミモデルを世間に問うには、年商1兆円の産業化が必要だ。すでに当社ではワタミモデルを運用しているが、残念ながら年商1000億円程度の現状では「なにそれ?」とあしらわれてしまう。しかし年商1兆円を超えて産業化すれば、ワタミモデルの真価を無視できなくなる。そこで世間に「22世紀に必要な産業」と評価されれば、ワタミモデルの勝ち。われわれが目指す真の産業化が実現するだろう。

●屋久島に学んだ経営理念

–ワタミモデルに対する熱意の源泉は?

渡邉 20年前に訪れた屋久島での登山だ。水と空気、動物と人間、すべての命がつながっている地球自然の循環を実感した。それを壊すのは、自分にナイフを突き刺しているのと同じ。循環を守るべきではなく、「守るのが当然」だと気づかせてくれた。以来103回、屋久島で登山しているが、そのたびに初志を奮い立たされる。ワタミモデルの普及と外食の真の産業化に努めてゆく。

–ありがとうございました。

●略歴

ワタミ株式会社・渡邉美樹代表取締役会長兼社長

わたなべ・みき=1959年、神奈川県横浜市生まれ。小学生時に父親の会社が倒産し、自身が社長になることを決意。明大商学部卒業後、佐川急便で働き資金を貯めた後、居酒屋のカリスマ・石井誠二氏に誘われ「つぼ八」のFCに加盟。伝説的なトップ売上げを記録後、84年にワタミを創業。居食屋「和民」を中核に多角化事業を推進し、2000年に東証一部上場。企業小説「青年社長」(高杉良著)の実在モデルとなった。外食経営のほか参議院議員1期6年、郁文館夢学園理事長を務めるなど要職多数。

●会社概要

社名=ワタミ(株)/本社所在地=東京都大田区羽田1-1-3/創業=1984年/連結年商=643億円/外食店舗数=「ミライザカ」「鳥メロ」など全405店舗/事業内容=「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになろう」を理念に外食・介護・宅食・農業・環境などの多角化事業を展開。独自の6次産業モデル」を構築。※数字は2022年3月期

●渡邉美樹氏 インタビュー動画

(1)居酒屋の現状と展望は?(収録時間5分41秒)

(2)外食産業の現状と展望は?(収録時間2分58秒)

(3)ワタミの方針と未来図は?(収録時間2分52秒)

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