外食史に残したいロングセラー探訪(19)銀座キャンドル「チキンバスケット」

2008.06.02 343号 16面

 喫茶店やファミリーレストラン、ファストフードなどでよく見かける、フライドチキンやフライドポテトなどを盛り合わせたチキンバスケット。若者やファミリー客に人気のこのメニューを、半世紀以上も前に日本で初めて紹介した店が「銀座キャンドル」である。親子3代でチキンバスケットのファンというお客も多い。

 同店の創業は戦後間もない1950年のこと。映画「哀愁」に登場したダンスホール「キャンドルライトクラブ」という店名にあこがれ、かねて洋食の店を開きたいと思っていた現オーナーの祖母、岩本雛子氏によって「銀座キャンドル」は開店した。

 当時、進駐軍のベースに出入りしていた雛子氏の夫、正直氏が、基地内のクラブハウスにチキンバスケットという料理があることを知った。「このおいしい料理を、日本でもぜひ広めたい」と、フレンチ出身や海外帰りのコックらとともにメニュー開発を行い、チキンバスケットが創業時のメニューに加わった。

 フィンガーフードや、パンを使ったメニューがまだ少なく、アメリカにあこがれる気持ちの強かった時代、この珍しい「舶来もの」のメニューは一躍人気となる。

 創業店舗は、現在の場所とは違うが、三島由紀夫、川端康成、越路吹雪などの有名人、著名人が多く訪れた。特に、俳優の渥美清は同メニューを大変気に入り、1人でふらりと店を訪れては、もの静かに食事をしていったという。ちなみに、40年前のメニューブックを見ると、800円というかなり高めの価格設定だ。

 チキンバスケットには、バタートースト8枚切り1枚分、フライドチキン、フライドポテト、ポテトコロッケ、そしてフレッシュのオニオンリングとレモンカルチェ、パセリが添えられている。そのままでもおいしいが、レモンを絞ったり、マスタードやタバスコをかけたりと、好みの味付けにして変化を楽しむこともできる。

 基本的なレシピは創業当時とほとんど変わっておらず、フライドチキンは塩とコショウなどで味付けされた鶏肉に、パン粉を衣にして揚げてある。油の鮮度にも非常に気を使っているために、油っぽさはまったくない。そのため、「創業当時の常連のお客さまからも、いまだにご注文をいただいています」と語るのは、創業者の孫にあたる、岩本直子フロアマネージャー。

 やはり揚げたての味が最高だが、土産用としてのニーズも多いため、チキンはもちろん、すべて冷めてもおいしく食べられる工夫がされている。

 銀座キャンドルの味を守り、根本は変えずに時代に合わせて進化させていくことが何よりも難しいと岩本氏。親子3代で訪れるお客も多い同店だからこそ、「時代に合わせた創業の味」を提供する努力を、これからも続けていくことだろう。

 ●店舗データ

 「銀座キャンドル」/経営=(有)銀座キャンドル/店舗所在地=東京都中央区銀座7-3-6 有賀写真館ビルB1/開業=1950年5月/営業時間=午前11時半~午後11時(火~金曜)、正午~午後10時(土日祝日)/定休日=月曜/坪数・席数=29坪・45席/客単価=2500~3000円/1日来店客数=平日120~130組、休日170組/平均月商=1000万円

 ◆こだわりの食材

 フライドチキンに使われている鶏肉は、生育日数を指定した鳥取県産「大山鶏」。他の鶏肉と比べ、揚げたときに肉と衣の調和が一番いいという。

 丸鶏からさばくため、さまざまな部位が取れ、むねやもも以外にも、手羽先、手羽元、ささ身などの細かいピースもフライドチキンに使われる。ジューシーなもも肉のうまさはもちろんだが、「むねやささ身といった一般的に脂が少なめの部位もおすすめ」と岩本氏。普通、脂身の少ない部位を加熱するとパサパサとした食感になるが、同店のフライドチキンでは十分にふくよかな味わいを感じられる。

 ちなみに、フライドチキンをバターライスの上にのせ、デミグラスソースをかけた「フライドチキンのせピラフ」(1,980円)は、もともとまかない料理であったが、それが評判となり、正式なメニューとなったもの。これも同店のロングセラーメニューの一つだ。

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