アビー、解凍後も鮮度そのまま「CAS凍結システム」開発
アビーが開発した、解凍後も鮮度を維持できる冷凍技術が注目を集めている。食材の細胞を壊さずに凍結するため、肉類や魚介類、野菜、果実などを収穫した状態で長期保存が可能。3年間冷凍保存した天ぷらや生クリーム、牛乳も鮮度を損なわない。地方の1次産業や水産加工工場、ホテルなどで導入が進んでいる。冷凍食材をきらうレストラン関係者は「解凍時にドリップが出ず、生の食感と香りが残っている」と驚く。高い品質を維持できるためマグロ漁船や小売業など、用途も広まってきた。海外の政府関係者らも頻繁に視察に訪れ、世界的に注目度が増している。
この技術はCAS(セル・アライブ・システム)によるもの。「細胞が生きている」という意味だ。1997年にアビーの大和田哲男社長が考案した。CASを利用したこの冷凍庫は食材の細胞を壊すことなく凍結し、解凍後は食材を限りなく生に戻すことができる。
通常の冷凍は対象物を表面から急速に冷やすため、全体が凍結するまでに時間がかかる。完全に凍結するまでの時間差で、食材内部に閉じ込められた水分が結晶化。解凍時に細胞を壊し、うまみ成分がドリップとして流出していた。
これらを解決するのが、アビーのCAS機能付き冷凍庫だ。庫内に微弱エネルギーを発生させ、食材に含まれる水分子を振動させながら過冷却状態を維持。その後、瞬間的に冷却することで、食材の細胞を壊すことなく均一に冷凍する。解凍後は水分子が凍結前と同じ状態に戻るため、素材の鮮度や味、風味などがそのまま再現できる。
ユーザーが現在使用している冷凍庫にCAS機能を取り付けることも可能だ。大和田社長は「生産者や加工メーカーがCASを用いて食材を加工すれば、鮮度を長期間維持できる」と技術に自信を見せる。
CASを利用した冷凍技術はEU、米国、中南米、中近東、アフリカなど世界各国で採用が進む。国内では、首都圏に約50店舗を展開するオーケーストア全店にCAS機能付き冷凍ケースが導入されるなど、小売側の注目度も高い。
細胞を壊すことなく長期冷凍保存できる技術は医療分野でも応用され、臓器保存や生体細胞組織の凍結、保存、再生、移植でも大きく貢献している。