外食史に残したいロングセラー探訪(23)浅草むぎとろ「むぎとろ」

2008.11.03 349号 06面

 2009年、創業80周年を迎える「浅草むぎとろ」は、創業者がほれ込んだ「げんこつ芋」をはじめ、全国から取り寄せるとろろ芋を使い、創業当時の「むぎとろ」を守り続けている。かつては「食べづらい」として、女性から敬遠されたが、健康や美容によいイメージが定着した昨今は、客層の約8割が女性という。

 昭和初期の浅草は、娯楽の街としてにぎわい、数多くの飲食店が軒を連ねていた。

 「青果会社に勤めていた初代の中島太蔵は、『自分も何か食べ物に関係した商売をできないだろうか』と思案していたそうです」と語るのは、現在店主の中島孝太氏。

 だが、そのころの浅草には、ウナギ、天ぷら、寿司、ドジョウなど多くの飲食店があり、江戸時代から続く老舗も多かった。そこで太蔵氏は「まだ浅草にはない料理で勝負をしよう」と思い立ち、食材探しの旅に出かけた。道中、秋田の農家で、麦飯にすりおろした「げんこつ芋」をかけた丼を食べ、その素朴な味に感動したという。

 浅草に戻ると早速、秋田からげんこつ芋を取り寄せて、10数席ほどの小さな一膳飯屋を開店した。これが「浅草むぎとろ」の始まりだ。1929年のことであった。

 当時、むぎとろ丼1杯の価格は現在の約200~300円ほど。浅草でむぎとろを食べられる唯一の店だったが、当初はお客が来ない日もあったという。だが、だしの分量を変えるなど絶えず工夫を続けるうちに、次第に「むぎとろ」の素朴で優しく、深い味わいが評判となり、多くのお客が訪れるようになった。

 その後、2代目の中島洋吉氏は、先代の味を守りつつ新たな料理を数多く考案。約20年前、懐石形式を採用し、6000円以上のコース料理に絞るなど、すべてを見直した。

 9年ほど前からは健康志向を追い風に、むぎとろ目当てに訪れるお客が増えてきたため、平日のランチタイムに、むぎとろ食べ放題の「とろろたっぷり召し上がれ」(1000円)をバイキング形式で打ち出した。1日平均70人ほどを集客しているという。

 「むぎとろの店は多くありますが、私どもは専門店として、とろろを使った一品料理の開発に磨きをかけたい」と孝太氏。老舗とろろ専門店の挑戦は、これからも続く。

 ●店舗データ

 「浅草むぎとろ」/経営=(株)浅草むぎとろ/店舗所在地=東京都台東区雷門2-2-4/開業=1929年4月/営業時間=ランチ・午前11時~午後3時、ディナー・3時~9時/坪数・席数=260坪・200席/客単価=昼2000~2500、夜4000~1万円/1日来店客数=平日300人、休日400~500人/平均月商=4000万円

 ●こだわりの食材 山芋は冷凍熟成、麦飯は白米4:麦6

 山芋は秋田の「げんこつ芋」以外にも、千葉や群馬などの「大和芋」を使用。その時期に手に入る高品質のものを、全国から取り寄せている。1ヵ月当たりの使用量は約400kg。CKですり下ろして瞬間冷凍する。冷凍状態で熟成するため、店舗で行っていたころよりも安定した品質のものが出せるようになったという。

 麦飯のコメは宮城または秋田県産。麦は主に茨城県産、時期によって山梨県産を使用。白米4:麦6の割合で炊いている。

 「とろろと麦飯の組み合わせはとても理にかなっています」と中島氏。麦には白米の10倍もの食物繊維があるが、その分消化が悪い。だが、とろろは消化酵素のアミラーゼが多いため、消化の働きを助けてくれるのだ。また、パサパサとした食感の麦飯も、とろろと合わせることでツルツルとのど越しよく食べられるようになる。

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