トップインタビュー:ダイヤモンドダイニング・松村厚久社長
「竹取百物語」「迷宮の国のアリス」など、一度訪れたら忘れることのできない強烈なインパクトをもったコンセプトレストランを次々と展開しているのは、(株)ダイヤモンドダイニング代表取締役の松村厚久氏だ。2001年「VAMPIRE CAFE」で外食産業に参入して以来、わずか7年で75店舗(2008年11月末現在)に拡大。しかも、全店舗が異なる業態という徹底したマルチコンセプト(個店主義)に貫かれているというから驚きだ。2011年までに「100店舗100業態」を実現するという。松村氏はこの時代をどう読み、どう勝負しようとしているのか? 彼が築き上げた経営哲学を聞いた。(文責=さとう木誉)
◆マルチコンセプトでナンバーワン目指す
–1業態1店舗という「究極のマルチコンセプト」を貫きながら、ものすごいペースで出店を進めています。
松村 昨年度は18店、今年度は22店出店しました。目標は「100店舗100業態」。2011年2月までに達成します。
–なぜ、1業態1店舗にこだわるのですか?
松村 まず、お客さまのレベルがどんどん上がって、多様化しています。その中で、どこでも同じ味では無理。立地やお客さまに合った、まじめなものを作るしかない。次に、小さい会社が勝ち続けるためには、ほかと違うことをやるしかない。だったら「マルチコンセプトを徹底的にやり抜こう!」と。
すると、たくさんの方が応援してくださるんですね。「頑張れ! すごいことやってる!」と。これからの外食業界は業態づくりの強いところが勝ちます。わが社は業態開発力ナンバーワン、リーディングカンパニーになってやろうと思っています。
◆不況だからこそ「打って出る」
–今のような不況時、マルチコンセプトの方法論は仕入れコストの削減など必要なスリム化が難しいのでは?
松村 財布のひもがきつくなって、物価が上昇。石油も小麦も全部上がってます。そうなると大ロットで買う大きな店のほうがメリットがないんです。在庫を抱えることになるから。半面、小ロットだったら安いものがいっぱいあるんですよ。「消費期限がすぐだからチェーン店には卸せない。でも1~2店舗分あるから取ってほしい」というように。こちらも強気で交渉ができるし、相手も助かります。小回りの利く方が、今は強みになるんです。
–むしろ不況のときの方が有利だと。
松村 人材も同じです。景気が良いときはいい人材はみんな銀行とか商社とか人気のある他業界が採ってしまう。景気が悪いと人気の業界が採らなくなるから、飲食業界に良い人材がやってくる。来年は新卒を100人採ります。
◆「ご当地料理」でお客さまつかむ
–多種多様な業態を打ち出してきている中で、これからの料理ニーズについてどう考えていますか?
松村 あえて言えば、地方色を打ち出した店がお客さまに伝わる。ご当地の料理を出して、地酒を出すような。九州料理の店を数店(「九州男酒」=東京・高田馬場、「九州男道」=東京・恵比寿など)出してますが、どれも好調です。次は「土佐料理」でいきます。
–松村社長は高知出身でしたね。
松村 高知は有名旅行雑誌で、日本で一番食べものがおいしい県に選ばれてるんです。でも東京で土佐料理を食べられる店って思い浮かばないですよね。だから僕がやります。コンセプトは「土佐十景」、土佐料理の店を10作ります。最初はカツオ。地元と同じように豪快にわら焼きにしてるところをお客さまに見てもらって出来たてを食べていただく(「竜馬が如く」=東京・新橋)。そして土佐ジローという高知地鶏の店を同時に出します(「土佐ジロー」=東京・新橋)。
◆ヒット店生み出す「3つの約束」
–マルチコンセプトで、しかも毎月数店舗というスピードで出店を進めていて、なぜヒットし続けることができるのですか?
松村 店を出す際には守るべき3つの約束があります。「お客さまに喜んでいただく」「コンセプトを崩さない」「予算に基づいて適正な利益をあげる」。それさえ守れば、何をやっても良いと言っています。好きな食材を発注して、好きな料理を作って、好きなイベントを打っていい。
–新店づくりはすべて社内スタッフで行ってると伺いました。
松村 全部、自社でやってます。広報、デザイン、料理長候補、店長候補が6~7人でチーム組んでやるんです。自社でやれば変化に瞬時に対応できます。デザインも料理も宣伝計画なども統一感のあるものができる。大変ですよ。チェーン店だったら1種類作ればあとはコピーで済むのに、ゼロから作らなきゃいけませんから。しんどいですよ。でもその手間ひまかけたところがお客さまの喜ぶところなんです。これがわが社のヒットの極意です。
◆経営者の勘所と堪え所
–経営者の考えと現場スタッフの考えのズレが出てくることはないのでしょうか。新店の計画段階では、どのようにかかわっているのですか?
松村 一番初めのコンセプトワークのとき、とことん口出します。「居酒屋でいくか、レストランか、それともピザ屋なのか」、そのジャッジは僕の責任。ここを間違えちゃうと取り返しがつかない。
–反対にあまり口を出さないようにしているところは?
松村 いったんコンセプトが決まったら、あとのつくり込みは任せます。飲食業界に来る人間は100人いたら90人は「自分が思い描く店・料理をつくりたい」と思っています。その情熱を冷ましてはいけない。僕はみんなに「常に勉強しろ、常に新しいものを提案しろ」と言ってます。とことん考えさせますから、大変ですよ。でも、自分で考えてつくったものがお客さまに喜んでもらえれば、そんなうれしいことないですよ。だからお客さまも人材も集まってくるし、伸びるんです。
○プロフィール
まつむら・あつひさ=1967年高知県出身。大学在学中に「サイゼリヤ」でのアルバイト経験から飲食業の面白さを体感。日拓エンタープライズでディスコの企画・運営に携わりエンターテインメント事業を経験し、独立。日焼けサロン経営を経て、2001年銀座に「VAMPIRE CAFE」を開店。その後も、記憶に焼き付くインパクトある店を次々と展開する。(社長ブログ=http://ameblo.jp/ginza-fantasista)
○企業メモ
(株)ダイヤモンドダイニング(本社所在地=東京都港区東新橋1-1-21、今朝ビル4階)設立=1996年3月/資本金=4億9266万円/従業員数=1140人(正社員243人・アルバイト897人)※2008年8月末時点/店舗数=「VAMPIRE CAFE」(東京・銀座)、「風鈴乃音色」(東京・新宿)など、全75店舗※2008年11月末時点/公式サイト=http://www.diamond-dining.com/
○事業内容
「お客さま歓喜」を企業理念とし、業態の異なるコンセプトレストランを展開。強みである業態開発力を生かし、「100店舗100業態」の実現にまい進する。その範囲は和・洋・中すべての料理、居酒屋から高級レストランにまで実に多様でユニーク。2007年3月に大阪証券取引所ヘラクレス市場に上場。外食産業記者会「外食アワード2007」受賞。日経流通新聞「飲食業07年度ランキング」で店舗売上げ伸び率第1位。