高桑先生の飲食経営クリニックQ&A(7)キャッシュ・オン・デリバリー方式導入で英国大衆パブ風に
◆from相談者
○念願のショットBARをオープン。しかし、開店当初は好調だった売上げも頭打ち……
勤めていた上場企業を退職し、派遣OLをしながら独立資金をため、去年念願のショットBARを埼玉県のT市駅前のビル内に開店しました。でも、開店3ヵ月は月商200万円を超えましたが、以後売上高は頭打ちで、今月は120万円です。飲食店経営の勉強を何もしてこなかったので、不振原因も、その対策も分かりません。先生の本の読者ですが、苦境を脱出する方法をご教授下さい。
(ショットBAR「椿 Tubaki」店主 伊藤幸子)
*
事務所に届いた手紙を読み、仕事の帰りに店をのぞいてみた。そのBARは、T駅前のビル2Fにあった。デザインと内装は素晴らしい仕上がりだ。しかし、どこか都市ホテルのBARラウンジっぽい……。ここは埼玉県の郊外T市。この落ち着いた雰囲気でお金を使ってくれるお客は少ない……。まばらなお客を横目に、伊藤さんがイギリスで本場のアイリッシュ・パブに出合って感動した話を聞いた。
イギリスのパブは、飲み屋なのにセルフサービスである。「キャッシュ・オン・デリバリー」という、セルフサービスが一般的なのだ。お客は、カウンターで飲み物と料理を注文し、その場で現金で支払う。その後、自分の好きな席を選び、飲み物を自分で運び、料理は店の人が運んでくれる。まるでハンバーガーショップのビヤホール版、それがイギリスのパブなのだ。日本ではそんな店はほとんどない。私の脳裏にアイデアがひらめいた。
「どうだろう……。こんなホテル風な高級BARはやめて、『キャッシュ・オン・デリバリー』方式を取り入れ、ロンドンの下町や英国港町にあるような、大衆的なパブにしてみないか? メニューは、難しいカクテルはやめて、ウオツカのチューハイ・モヒート(390円)やハイボール(350円)、グラスワイン(280円)、発泡酒(390円)を主力に、料理もフィッシュ&チップス(480円)でボリューム感を出し提供すべきだね……」と。
その日はそれで帰ったが、後日“先生の言ったように、パブ風に改装したので見に来てくれませんか?”とメールが届いた。金曜日の夜、店に行ってみると店は満席。カウンターでの注文→セルフサービスを徹底している。しかし、セルフサービスに慣れ親しんだ今の若者たちには、何の違和感もないようだ。
私はうれしかった。日本の飲み屋で、こんなセルフサービスを導入したお店は珍しい。私は幸子さんに向かい、ビールジョッキを持ち上げた。カウンター越しに忙しく働く彼女は、笑顔で応えてくれた。
((株)日本フードサービスブレーン代表取締役 服部栄養学園マネジメント論講師 高桑隆)