外食史に残したいロングセラー探訪(42)銀座そば所 よし田「コロッケそば」

2010.07.05 374号 12面
油で揚げているのに、つゆには油がほとんど浮かんでいない。コロッケは見た目に反して、フワッと軽い食感である

油で揚げているのに、つゆには油がほとんど浮かんでいない。コロッケは見た目に反して、フワッと軽い食感である

中央通りから1本入ったすずらん通りに位置する。置屋が多かったという一帯もすっかり様変わり。銀座の町の移り変わりをずっと見続けてきた

中央通りから1本入ったすずらん通りに位置する。置屋が多かったという一帯もすっかり様変わり。銀座の町の移り変わりをずっと見続けてきた

 古くは「愛染かつら」の作者である川口松太郎など、文化人や著名人にもファンがいるという、そば所よし田の「コロッケそば」。その歴史は古く、明治時代から始まる。しかし、そばの上にのっている「コロッケ」は、パン粉を使ってジャガ芋やベシャメルソースなどを用いた一般的なコロッケとは、全く違ったものであるという。

 ◆コロッケだけどコロッケではない!? 低温でじっくりと揚げ、フワッと軟らかい食感

 1885年(明治18)に、銀座の現在地で開業した「そば所よし田」。「コロッケそば」はそれ以前に、日本橋浜町にあった本店で生まれたというから、実に125年以上もの歴史を持つ、ロングセラー商品である。だが、第二次世界大戦の東京大空襲によって本店は焼失し、店の人たちの行方も分からなくなってしまったため、本店と同じ味を食べられるのは、今では「よし田」だけである。

 「明治といえば、ハイカラなものがもてはやされ、洋食も少しずつ知られるようになってきたころ。おそらく、洋食のコロッケをそば屋の料理として取り入れるために、日本的なものにアレンジしたのだと思います。ですから、コロッケというよりは鶏の真如揚げに近いですね」と、3代目店主である矢島一代さん。

 コロッケは、2度びきした鶏肉をさらに包丁でたたいて粘り気を出し、ヤマト芋、卵、小麦粉を混ぜ、塩で味を調える。衣は付けずに、160度Cぐらいの低温で、中に火が通るまでじっくりと7~8分かけて揚げる。4つに切ったものをそばにのせ、その周りに長ネギをたっぷりと散らす。

 フワッと軟らかい食感に揚げられており、つゆには油がほとんど浮かず、コロッケ自体にも油のしつこさは全くなく、あっさりと食べられる。そのため、コロッケそばのそば抜きにして、そばつゆとワサビで、コロッケをつまみに、酒を楽しむ常連もいるようだ。

 「今は立ち食いそば店のメニューでも、コロッケそばはありますので、それをイメージしているのか、『これはコロッケではない』と言う方もいらっしゃいます。ですから、メニュー名を変えようかとも思ったのですが、なかなかぴったりするものもなく、もう何十年と定着しているものなので変えるのは難しいですね」(矢島さん)

 長い歴史を持つために、コロッケそばにまつわるエピソードは多くあるようだ。例えば、第二次大戦中、食材が手に入らなくなったために数年間店を休み、戦後、1947年ごろに再開した時のこと。

 「新聞に『最近、外国にかぶれてカタカナが氾濫し、銀座ではコロッケそばなどという料理もある…』といった内容の投書が掲載されたことがありました。しかし、『よし田のコロッケそばは明治時代からあったものだ』と反論の投書をしてくださった方がいらっしゃいました」(矢島さん)

 明治、大正、昭和、平成と4つの時代で提供され続けてきた「コロッケそば」。親子3世代、4世代でファンというお客も少なくない。さらに次の世代へと、おいしさの記憶は受け継がれていくのだろう。

 ●店舗データ

 「そば所 よし田」/本社所在地=東京都中央区銀座7-7-8/開業=1885年/営業時間=午前11時半~午後10時(LO9時半)、土・祝~午後9時(LO8時半)、休憩時間有り、日定休

 ●愛用食材:そば粉

 そば所よし田では、静岡県島田市に「よし田そば製粉所」を作り、ここで製粉したそば粉を使って、銀座の店舗の地下で製麺している。

 製粉所では、独自の目立てをした石臼で、熱を持たせないようにして一回転びきでひいている。石臼でひくことで粉の粒子が細かく不揃いになり、そば本来の風味のよいそば粉ができる。

 玄そば、ひき方、温度まで徹底した管理をしたそば粉を使うことで、そばのおいしさをさらに追求することができるようになったという。

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