外食史に残したいロングセラー探訪(59)カプリチョーザ「トマトとニンニクのスパゲティ」
日本でスパゲティといったらナポリタンやミートソースしかなかった頃、ましてや本格的なイタリア料理店などほとんどの人が知らなかった時代。カジュアルイタリアンの先駆けともいえるイタリア料理カプリチョーザは創業した。現在でもグランドメニューのほとんどが、当時のレシピを再現している。そのなかから、こだわりのあるトマトソースをベースとした「トマトとニンニクのスパゲティ」を紹介する。
●レシピは創業当時と変わらず 人気の秘密は甘酸っぱさとコクを生む看板のトマトソース
創業者の本多征昭氏は1962年、単身イタリアへ渡り、そこで食文化に感動、現地でシェフになる。そして、「イタリア料理を日本に広めたい」という情熱を持って帰国。1977年、渋谷にカプリチョーザ1号店をオープン。当初はリストランテを意識していたが、イタリア料理に対する認識がまだ低かったため、客足も伸びなかった。そこで、店のコンセプトを家庭的なマンマの味を意識したトラットリアスタイルに変更。パスタも増量し、陽気さ、カジュアルさを伝えることで、誰でも気軽に入れる店として認知を広めていった。
若くして亡くなった本多氏の後を継いだのが同氏とフランチャイズ契約を結んでいた(株)WDI。「今でも本多氏の味と精神は引き継がれています。レシピもその当時と変わらないのが一番の特徴ではないでしょうか。そのなかでもお客さまの支持の高いのがトマトとニンニクのスパゲティで、『昔と変わらない味だね』と言われるほど愛されている料理です」と話すのはセールス&マーケティング部の大林鈴さん。
同料理は甘酸っぱさとコクのあるオリジナルトマトソースと、「日本人はニンニクが好き」という本多氏のアイデアで、ニンニクを隠し味ではなく、大胆に具材として使用する。
調理はニンニクと唐辛子をオイルで表面がカリッと中がホクホクとするまでじっくり炒め、トマトソースと合わせ煮込むことでさらにコクとうま味をアップさせる。そして、ゆで上がったパスタと絡めるシンプルなものだ。それだけにベースとなるソースは重要だ。
トマトはイタリア・プーリア州産の長トマト(ローマ種)を使用。これは、ソースに適したトマトで、煮込むことで甘味とコク、酸味が増す。それに調味料を加え煮込んでソースを作る。パスタはイタリア・モリーゼ州産と、どちらも契約農場と工場があり、現地で品質チェックするほど力を入れている食材だ。ニンニクは風味を考え料理にあった中国産を使用。カジュアルダイニング事業部の新井田強志調理統括は「トマトソースはその店々で味が違います。いわば看板ともいえます。イタリア食材を手に入れるのが困難な時代から、トマトソースにはこだわりがあり苦労したそうです。本場イタリアの味に近く、日本人に好まれる味を意識し、何種類も作り試行錯誤の末できました」と説明する。
現在、世界でチェーン展開をしている同店だが、セントラル・キッチンを置かないのには訳がある。手作りの味を提供する創業当時の精神こだわっているからだ。変えるのは簡単だが、変わらぬ味を守り続けていくことの大切さ、それが同店の人気の秘密だろう。
●企業データ
(株)WDI/本社所在地=東京都港区六本木5-5-1 ロアビル8、9階/事業内容=「カプリチョーザ」直営・フランチャイズ国内外合わせて135店舗、「ハードロックカフェ」7店舗、「トニーローマ」20店舗、その他(2011年10月現在)