惣菜弁当の殿堂(13)かいじ寿司 握り寿司の生ネタに甘辛ダレ
山梨県甲府市のマグロ消費は、数量・金額ともに全国2位(注)。マグロ以外の魚介類も上位に定着。海無し県のため、海産物に対する憧れが強く、寿司店の密度も全国有数といわれる。また、盆地で暑さが厳しく、山地で塩干物になじみ深いためか、甲府市民は濃い口が大好き。焼き鳥では圧倒的にタレが支持され、「タレだく」の注文も多いという。
食品スーパー「オギノ」の「かいじ寿司」は、その「魚介好き」と「タレだく」の食文化が融合した名物商品だ。握り寿司のネタに甘辛たれをハケで塗るのが特徴で、20年以上、しかも通年、事実上のトップセールスを続けている。
※注=総務省・家計調査(2人以上の世帯・1世帯当たり)のマグロの購入数量・購入金額は、ともに甲府市が全国2位(平成22~24年平均)
●会社概要
(株)オギノ 本社所在地=山梨県甲府市徳行1-2-18/事業内容=1841年「竹の屋」として創業。53年(株)オギノ設立。甲府市を拠点に食品スーパー「オギノ」39店を展開。
●商品発祥:日販50~100パックの驚異的な反響
誕生は約25年前。リバーサイドモール店の惣菜部門・中村敏チーフが考案した。当時の惣菜部門は揚げ物が主力で、寿司といえば、いなりと助六に限られ、握り寿司は鮮魚部門の領域だった。中村チーフは、鮮魚部門の華やかな握り寿司を羨ましく思い、惣菜部門でも提供しようと決意。だが、仕入れと包丁のノウハウが無いため、業務用冷凍ネタを使うことに。当然、鮮度と品質はイマイチ。そこで、他の商品に使っていた日本食研の「ぬったれ」をネタに塗ってみた。すると自販50~100パックの驚異的な人気を獲得。「握り寿司(タレ)」という商品名で全店に波及し、オギノ名物に定着した。そして約5年後、「かいじ(甲斐路)寿司」と命名された。
●調理概要:スペック固定、通年8カン399円
8カン399円、10カン499円で、8カンが主力。ネタは通年同じで、マグロ、イカ、サーモン、甘エビ、イカゲソ、蒸しエビ、タコ、玉子焼き。ネタに塗る甘辛ダレは、宝醤油をベースとするPB品。1カンにつき約2gをハケで塗る。シャリは多少大きめで1カン20g。甘辛ダレで調味済みのため、醤油パックは無しだが、それに対するクレームもゼロだという。看板商品となってからは、ネタも鮮魚部門と同様の品質に向上している。
●販売実績:長野と静岡では全然売れない!
事実上、約25年間、通年トップセールスを記録。季節商品を合わせると、寿司商品は約100品あるが、その中で断トツの人気を誇る。しかし、長野県(3店)、静岡県(1店)では、まったく売れないため、販売は山梨県内のみ。
カテゴリー分けでは普通の「握り寿司」の売上が勝るが、こちらは季節性が強く、ネタの内容が月々異なるため、スペックが固定された「かいじ寿司」との比較は難しい。
●ポイント:甲府のタレ好きは筋金入り
もとより甲府市には、寿司ネタにツメ(甘ダレ)を塗る食文化が根付いている。基本的には生ネタに醤油だが、頼めばツメを塗ってくれる。
この背景には2つの定説がある。まず、山地で魚介類の流通が未熟だったため、鮮度の悪さをツメで補ったという説。そして、同じ理由で塩干物が多く、塩気を緩和するために甘いツメを塗ったという説。いずれも魚介類の劣化を補う、せめてもの知恵である。
そのツメ文化が根強いため、焼き鳥でも圧倒的にタレが売れる。オギノの販売実績でも、タレと塩の比率は7対3。しかも、塩といっても「塩ダレ」。いずれも「タレだく」が好まれるというから、甲府市民のタレ好きは筋金入りといえる。
◆使用食材:「宝印 特選醤油」
甘辛ダレ、焼き鳥にも欠かせない
醤油の銘醸地・銚子で醸造された天然醸造醤油。醤油に最も適した醸造期間(1年間)、醗酵熟成させた天然醸造諸味を搾った醤油。香味、旨味が非常に高い本醸造醤油。「かいじ寿司」の甘辛ダレ(PB)、焼き鳥のタレに欠かせない調味ベース。