外食史に残したいロングセラー探訪(93)いもぼう平野家本店「いもぼう」
◆文豪たちにも愛された味 縁起のいい京料理で婚活イベントも
京都・祇園の八坂神社や知恩院に隣接する円山公園内に、約300年続く料理店がある。いもぼう平野家本店だ。いもぼうとは、京都の伝統料理のひとつで、里芋の一種であるエビ芋と棒ダラを炊き合わせたもの。川端康成や松本清張の小説にも出てくる同店のこの料理。縁起がよく、正月などのハレの日や、見合いの席にも使われ、同店が婚活イベントにも使われるほど。京の味を今もなお、伝え続けている。
●商品の発祥:九州から伝わったエビ芋
江戸時代の1716年ごろ、創業者の平野権太夫は、京都の青蓮院(しょうれんいん)の宮に寺侍(てらざむらい)として仕えていた。侍といっても、日ごろは、野菜の栽培や雑用などをする。
青蓮院の宮が、九州行脚から持ち帰った唐の芋を、円山山麓で栽培。すると良質な芋ができ、それがエビに似ていたため、エビ芋と名付けた。平野権太夫は、このエビ芋と、京都御所に献上されていた棒ダラを、一緒に炊き上げる独自の調理法を編み出す。とてもおいしいということで、屋号と場所を賜って、いもぼう平野家本店が生まれた。いもぼうは、次第に庶民に広がり、京の味となる。
●商品の特徴:素材から一緒に炊き上げる
通常、炊き合わせは、2種類以上の材料を別々に煮て、一緒に盛り合わせるが、いもぼうは違う。エビ芋と棒ダラを、鰹節と昆布の一番だしと醤油、砂糖でじっくりかまどで煮込む。エビ芋のあくは棒ダラを軟らかくし、棒ダラのゼラチン質はエビ芋をくるみ、丸一日炊いても煮崩れしない。
京野菜のエビ芋は、契約農家で作ったものを使用。干物である棒ダラは、北海道産で、一週間かけてゆっくりもどす。朝晩冷たい水を足し、皮とうろこの間を掃除して、独特のにおいを取っていく。
●販売実績:ハイシーズンは500食
繁忙期は、桜と紅葉の季節。500食ほど出る日もあるという。外国人観光客も多い。
2014年、同店で京都市の婚活イベントが行われた。昔から、いもぼうは縁起のいい“出会いもの”として、見合いに使われてきた。理由は、山と海の幸が一つの鍋で出合い、一緒に炊かれる中で、互いに助け合いながらおいしさが生まれるため。「お付き合いが始まっている方がいるそうです。ご結婚されたら、うれしいですね」と15代目の北村憲司さん。5年前に、店内を改装し、厨房を広げた。料理に懐石コースを加え、現在も新しいことを考えている。「いもぼうという伝統の京料理を守りながら、時代にあわせて攻めることも大切にしています」と語る。
◆企業データ
店舗名=いもぼう平野家本店/所在地=京都市東山区円山公園知恩院南門前/店舗数=京料理・北村グループ全8店/事業内容=飲食店経営。グループ会社は京都に6店、東京に2店ある。全店京料理を中心とした和食店だが、いもぼうは他店では出していない。いもぼう平野家本店でしか味わえない京の味となっている。