外食史に残したいロングセラー探訪(96)うさみ亭マツバヤ「きつねうどん」
◆商人に愛されてきた縁起のいい料理 いなり寿司がヒントに 大阪発祥の名物
商人の街といわれる大阪で、商いの中心地といえば船場。今や誰もが知る「きつねうどん」は、そんな商人の街で生まれ、愛されてきた。誕生は、1893年、明治時代のことである。きつねうどんの主役・油揚げは、稲荷神社の神使いである白いキツネの好物といわれているもの。稲荷神社は、商売繁盛の神様が祭られており、きつねうどんは、発祥の地・大阪にぴったりな食べ物といえるだろう。
●商品の発祥:寿司屋で修業
きつねうどんを考案した「うさみ亭マツバヤ」の創業者、宇佐美要太郎さんは、もともと寿司屋で働いていた。独立するとき、修業先の寿司屋が近かったため、寿司屋ではなく、当時としてはハイカラなメニューだったうどん屋を開く。
当初は、いなり寿司で使う甘く炊いた油揚げを、皿にのせて、うどんと一緒に提供していた。それを、客がうどんにのせて食べているのを見るうちに、始めから油揚げをうどんにのせて出すようになったのが始まりという。
●商品の特徴:手間暇かけて完成する一杯
一般的に関西以西のうどんつゆの色は、関東に比べて薄い。だが、同店は、関西にしては濃いめ。「生醤油を、菌を指定して作ってもらっています。ちょうどいい発酵時が、濃いめの色」と、3代目の宇佐美芳宏さん。もう一種類の醤油と調合して使う。だしは、利尻昆布と、屋久島のカツオから作った本枯れ節を使用。水は、阿蘇の花崗岩(かこうがん)を入れたつぼで、水道水を約20時間寝かせた「まろやかな水」を使う。うま味がしっかりありつつ、あっさりしているので、つゆを全部飲み干す客は多い。
もちっとしたうどんは、自家製麺で、油揚げは、京都錦市場のものを3日間かけて味を染み込ませていく。
●販売実績:今は2番人気
戦前は、1日200杯くらい出ていたというきつねうどんだが、今は、50杯前後。現在の1番人気は「おじやうどん」(780円)。戦中の配給制時代のメニューを客からの要望で再メニュー化した。鉄鍋でうどんとご飯を一緒に煮込んだもので、刻み油揚げやアナゴ、かまぼこ、鶏肉、椎茸、卵などが入っている。
芳宏さんは、「材料一つ一つを吟味すると、値は張りますが、なるべく質のいい素材を使っています。いいものを食べてほしいから、愚直にやっているだけ」と語る。120年以上地元の人から愛され、国内だけでなく海外からも訪れる人が多い老舗うどん屋である。
●企業データ
店名=うさみ亭マツバヤ/所在地=大阪市中央区南船場3-8-1/事業内容=飲食店経営。入り口にある大きな石臼は、戦時中、四国に疎開していたときに、小麦をひくために使っていたもの。年間を通して客足は絶えないが、ハイシーズンは冬。丁寧に作られたうどんで冷えた体を温める。