外食史に残したいロングセラー探訪(98)逢坂山かねよ「きんし丼」

2015.09.07 438号 17面
きんし丼の他に「上きんし丼」(2,592円、税込み)、「特きんし重」(2,916円、税込み)がある。卵とご飯の量は同じで、ウナギの量の差で金額が変わる

きんし丼の他に「上きんし丼」(2,592円、税込み)、「特きんし重」(2,916円、税込み)がある。卵とご飯の量は同じで、ウナギの量の差で金額が変わる

 ◆卵3個分のだし巻き 蓋を開けると思わず声がでる

 百人一首でも、二つの歌に詠まれる「逢坂(おうさか)の関」。関所は、山城(京都府南部)と近江(滋賀県)の国境にあった。その近くに、ウナギ料理店の老舗「逢坂山かねよ」がある。メニューの中で、目を引くのが「きんし丼」だ。ウナギと卵という、昔の貴重な食材がダブルでのった丼。何ともぜいたくな丼だったことだろう。時代とともに姿を変えながら、今でも人気メニューとなっている。

 ●商品の発祥:山の中でウナギ料理

 もともとは、旅人が休む峠の茶屋だったかねよ。伊勢からのウナギの行商人と、茶屋の娘が恋に落ち、「この辺りの水はとてもいい」と、ウナギ屋を始める。1872年のことだった。

 きんし丼は、名前からも推測できる通り、元はウナ丼の上に、刻んだ錦糸卵をかけたものだった。ある日、厨房が追いつかなかったため、だし巻き卵をそのままのせて提供したら好評で、その後、定着したといわれている。

 ●商品の特徴:大きなだし巻き卵がウナ丼に

 仕入れたウナギは、逢坂山の谷水で数日泳がせる。すると、身は締まりつつも、ふっくらした味わいとなる。腹開きしたウナギは、頭付きのまま大きな串6本で刺し、じっくりと焼く。創業以来追加しながら調合しているたれは、甘味が抑えられた深い味わい。

 だし巻き卵は、卵を3個使用。卵を薄く焼き、層を重ねていく。ぷつぷつと箸で切れ、口の中で、ほどけるような食感が味わえる。「一度に太く焼けば手間は省けますが、食感も楽しんで欲しいですから」と、村田章太郎常務は話す。

 ●販売実績:ピークは1500杯以上

 ハイシーズンは夏。通常、きんし丼とウナ丼を併せて一日約400杯出るが、土用の丑の日やお盆期間は、持ち帰りを含め1500杯以上売れる。きんし丼とウナ丼の注文比率は、1対1くらい。

 「おごりの時代があり、経営が厳しくなったことも」と、村田常務。危機感を感じ、プロ意識を持つよう、従業員の意識改革を行った。自身も、大型免許を取って、法事客などのためにバスの運転を始めたり、年に一度、テレビ局へ、アポなしで、資料を直接渡しに行ったりと、自分を奮い立たせてチャレンジする。

 今後はネット販売にも力を入れる。来年中には全国発送できるよう、新しい施設を作り、体制を整える。「感謝の気持ちとサービスの原点を忘れず、全国の方に当店のウナギ料理を味わってもらいたいですね」と村田常務は力強く語る。

 ●企業データ

 社名=かねよ/所在地=滋賀県大津市大谷町23-15/店舗=個室のある本店と、道を挟んでレストランがある。/事業内容=飲食業。本店の庭は、800坪あり、優雅な庭園を眺めながら食事ができる。食事前には桜茶が提供されるのも同店の伝統。本店のみサービス料10%が掛かる。

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