海外通信 外食ビジネスの新発想(63)古き良きアメリカ料理をヴィーガンで
●創意工夫で味わいアップグレード
健康や環境、倫理の点から肉食を避ける人が増え続けているが、ベジタリアンの中でもヴィーガンは、肉だけでなく卵や乳製品、ハチミツもご法度という最も徹底した菜食主義者だ。以前は、ヴィーガンともなればいろいろな食制限を我慢しなければならなかったが、今や、大豆やグルテンなどでできた、味も食感も肉そっくりの代用肉や、アーモンド、ココナツなどの植物性ミルク、植物ベースの食材が増え、普通の食事をすることができる時代になった。
「ウィロウ」は、そんな新食材と名シェフのガイ・ヴァクニン氏の創意工夫で、懐かしの古きよきコンフォートフードをヴィーガンで提供する店だ。
同店のメニューには「マカロニ&チーズ」「ラザーニャ」「バーベキュー・リブ」「ペパーステーキ」「フレンチ・オニオンスープ」「ニューイングランド・クラムチャウダー」など、アメリカ人の好む定番料理が並んでいる。しかも、それらすべてヴィーガン料理なのだ。
同店で使っている肉そのものの「インポッシブル・ミート」や、チキンそのものの「チッキン」、サーモンそっくりの「ザーモン」は、すでに市場で出回っているが、普通の食材も工夫すればヴィーガン用に使うこともできる。同店のイカフライのイカは、実はオイスターマッシュルーム(ヒラタケの一種)。カチョエペペのホタテ貝の代わりにも、オイスターマッシュルームが使われている。クラブケーキのカニ肉は、ジャックフルーツ。BBQリブやパストラミは、小麦粉のグルテンから作られた加工食品の「セイタン(グルテン・ミート)」。セイタンは、代用肉として欧米でよく使われている。もちろん、料理に使用しているのは植物ベースの乳製品代替品だ。
しかも、同店のメニューは定番料理とはいえ、すべてひと工夫してアップグレードしている。
例えば、アメリカの国民食であるバーガー(19$)。インポッシブル・ミートをヒッコリーのスモーク風味を付けて焼き、チッポリーニオニオンやローマトマト、ルッコラをのせて、チポートレソースをかけている。パンもブリオッシュだ。
ある調査によると、アメリカのベジタリアン人口は全体の2%。そのうちの4分の1がヴィーガンだ。ところが、ヴィーガン市場がニッチかというと、実はそうではない。肉料理の店は肉を食べる人しか行かないが、ヴィーガンの店はあらゆる食志向を持った人を包容できる。しかも、ベジタリアンでなくとも、今や4割近いアメリカ人が肉を敬遠し、いつかできればヴィーガンになりたいと思っているという。
同店は、ヴィーガンであろうがなかろうか、アメリカのコンフォートフードを堪能できる万能の料理店だ。
●店舗情報
ウィロウ(Willow)
所在地=199 8th Ave, New York, NY 10011
【写真説明】
写真4:コンフォートフードのトップに挙げられる「マカロニ&チーズ」(18$)。使っているのは植物ベースのチーズ。ベーコンチップも植物ベース。チャイブ、スモークしたパプリカ、トーストしたパン粉を振りかけている(C)Willow