外食の潮流を読む(109)1年ちょっとで150店舗を出店、「鰻の成瀬」のペースはなぜ速い
「急ピッチで店が増えているウナギ屋さんがある」と聞いた。店名は「鰻の成瀬」。1号店を横浜にオープンしたのが2022年9月で、FC展開を始めたのはその約半年後、この4月末で150店舗を超えているという。
その1号店は、横浜駅の隣、相鉄線平沼橋駅から徒歩で7~8分の距離の所、マンションの1階にある。筆者は11時15分ごろに入店したところ、15席ほどの店内には1人客と、2人客が2組いた。フードのメニューは「うな重」の「松」2600円(税込み、以下同)、「竹」2200円、「梅」1600円の3つのみ。実にシンプルである。
一方、「商品のこだわり」の表示は丁寧に行っている。特にこの部分に注目した。
「リーズナブルな価格でのご提供を実現するため、メニューの絞り込みや営業時間の短縮、現金のみでのお会計など、至らない点も多々ございますが、ご理解ご協力のほどをお願い申し上げます」。
つまり、「低価格を実現するために、メニューを絞り込み、コストを抑えている」と読み取ることができる。
「鰻の成瀬」を展開している会社はフランチャイズビジネスインキュベーションで、20年9月に設立。代表の山本昌弘氏(41歳)は、清掃業の店舗をFC展開している会社の本部に10年間勤務していた。ここではスーパーバイザーをはじめ、本部のあらゆる業務を経験したという。そこでFCチェーン本部を後方支援する会社を立ち上げた。
「鰻の成瀬」を始めることになったのは、ウナギ専門店の運営を職人に頼らないオペレーションでできる仕組みを構築していた会社の社長と知り合ったことがきっかけであった。
そこは中国をはじめとした海外の養鰻業者とつながっていて、現地で1次加工したものを日本に送り、店舗ではそれを仕入れて、機械が調理するというオペレーションができていた。「鰻の成瀬」はその仕組みを活用した形とのこと。
1号店はオープンしてから、半年間FC展開の検証を重ねて、「リーズナブルなウナギ専門店を営んでいる」ことをSNSで発信した。加盟店を募集していることは一切発信していないが、ホームページの問い合わせフォームに「加盟店募集を行っていますか?」と問い合わせがやってくる。こうして、今日の出店ペースとなっている。
本部としては「初期投資を半年で回収できる」といった射幸心をあおるような呼びかけをしておらず、また「売上げ・利益を最大化しよう」とも考えていない。「ウナギとは、老若男女が大好きな食べ物。それが2000円ちょっとくらいで食べられるとなると気軽に行きたいと考える。だから、一等地に出店する必要はないし、居抜き物件でもお客は来店する」(山本氏)と、実に割り切った考え方である。
国内300店舗を一つのゴールとしてとらえ、これからのことを検証するという。海外では、すでに香港での展開が決定し、これから海外諸国で展開する展望を描いている。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。