外食の潮流を読む(46)「串カツ田中」に見る、禁煙化で客層が変わり売上げが伸びる現象
筆者にとって2018年の飲食業界の動向の中で最も印象深いことは、「串カツ田中」が6月1日よりほぼ全店で全席禁煙化ないし一部フロアでの分煙化を行ったことと、その後の動向である(同社直営の86店で全席禁煙)。同社の貫啓二社長は、実施前日5月30日のフェイスブックで「ビビッている」と投稿していた。禁煙化によってこれまでの顧客の多くを失うかもしれないという不安感は膨大なものであろう。
果たして、禁煙化した串カツ田中は別の業態になっていった。
禁煙化1ヵ月後の同社発表によると、禁煙化してからのお客さまアンケートでは「安心して子どもを連れてくることができる」「妊婦でも来ることができる」「おいしく食べられる」というプラスの声が多く見られ、従業員アンケートでも「女性客、若者、年配客が増えた」「働く上で快適になった」「高校生の学校帰りの利用が増えた」「土日は男女カップルが多くなる」という具合に、禁煙前に見られなかった現象が起きているという声が挙げられた。
客層で増加したのは、ファミリー6%増、一般の男女グループ(20代)1%増、女性・カップル1%増。減少したのは、男性グループ6%減、一般男女グループ(30代~)1%減となっていた。
その後、顧客対策としてさまざまなアクションを展開した。
8月に入ってから営業時間を前倒しして閉店時間を早めた。グランドメニューに食べ放題を加えた。これには「連絡なく食べ放題のスタート時間から15分遅れた場合はキャンセル扱いとする。キャンセルの連絡は前日まで、当日のキャンセルは半額がキャンセル料として発生する」-このようなキャンセルポリシーを示した。これは禁煙化したことが独自性のある業態として後押ししたように感じられる。
11月に入り、21日から新しく「ノースモーキングチャレンジ」を通常サービスとして開始している。これはお客さまが従業員にたばこを見せると、ドリンク1杯をメガサイズに変更するというもの(定額で倍増)。同社では「これによって、喫煙者に串カツ田中に来ていただいてプチ禁煙を提案する」と述べている。
労働環境の面では、「深夜労働時間短縮による従業員負担の軽減」「働き方の選択肢が広がることで人材確保に寄与する」「深夜帯の営業時間を短縮することで店舗運営を効率化する」ということが期待されている。
禁煙化してからの串カツ田中の既存店は、客単価が下がったが(97%前後)、客数が増えたことで(115%)、売上げが上がった(110%)という形で推移している。
2019年1月度の既存店は客単価96.0%、客数118.4%、売上げ113.7%。全店ではそれぞれ95.8%、168.7%、161.5.%となっている。この動向は奇跡といってよい。串カツ田中は禁煙化によって、串カツ居酒屋をファミリーの食卓に変えた。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。